第54話 無知の銃よ

 今より昔――


 この世界の理を逸脱した化け物が愚かな人々の手によって呼び出された。


 その化け物は魔神と呼ばれ、こことは別の世界の叡智、魔法元素キューブを人族へ教え、繁栄へと導いた。


 だが……魔神の狙いは繁栄した人類を喰らい我らがこの世界を乗っ取ることじゃった。

 魔神は強力な魔法と魔物達を呼び寄せ、世界を混沌へと誘った。


 そこに現れたのが初代勇者じゃった。


 農村産まれの勇者は、女神ガブリエルの加護を受け人間にエルフや我等ドワーフ、リザードマンにハーフリングと多種族達をまとめ上げ、魔神を迎え撃ち倒すことに成功した。

 世界は平和を取り戻したのじゃ。





 そこまで聞いて、俺は頷く。


「それが、初代勇者と初代魔王の戦い……ってことですね」

「いや違う」

「え?」

「これは初代勇者と魔神の戦いじゃ」

「え……それじゃあ、魔神の後に魔王が現れたのか?」

「ああ……まさかの形でな」


 ガンテツが話を続けた。





 討伐された魔神は、最後に瘴気を放った。


 ――慢心。


 この世界に住む人々の心に、傲り高ぶる心を与えたのじゃ。

 それは強大な魔神の力で産み出した呪いとも言われておる。

 その瘴気に強く当たった勇者はこの世を救った功績を掲げ、大国の王となった。

 だがに次第に傲慢さを振りかざすようになったのだ。


 勇者はこの世を我が物にしようと動き始めた。権力と財力、魔神を倒した強力な女神ガブリエルの力を悪用した。

 彼は魔神を倒し、暴君とかした王。

 皆は勇者のことを魔王と呼ぶようになったのじゃ。







「勇者が……魔王に……」


 まるでゲームの続編にありそうな、前作主人公がラスボスに流れだ。

 俺は質問する。


「それじゃ、俺が倒すべき相手っていうのは、今話した暴君とかした昔の勇者ってことなのか?」

「いいや、ソイツも違う。今話したのは初代勇者であり初代魔王の話じゃ。初代魔王はすでに二代目勇者がとうの昔に倒したわい」

「え?」

「そして、二代目勇者も魔神の瘴気にやられ二代目魔王となった。そこから三代目……現在四代目の魔王がこの世界を牛耳っておる。負の鎖は未だ断ち切れてはおらん」


 勇者が魔王になってしまうという現象が繰り返している。

 その中にある歯車の一つは俺だ。

 俺は同じ世界出身の奴を倒さないということになる。

 この伝承が本当だとすれば、俺達勇者を忌み嫌う者もいるだろう。

 ベノムの殺さなくてはいけないという理由もわかった気がした。

 勇者が力を付ける前に殺してしまえばということだろう。

 ガンテツは続けた。


「ワシ等の話に戻すと……その三代目魔王の策謀によって家族を亡くされた身なんじゃ。今じゃ、あのベノム率いるスカウトギルドの後ろ盾がなくては、こうしてまともには暮らせん」

「……さっきのベノムの話通りなら、アンジュの両親は、三代目魔王にそそのかされて、この拳銃達を作ってしまった。俺の想像だけど、最初は三代目勇者が魔物や魔神を倒すための武器として作ったけれど、最終的にその武器は最悪な方向で活用されてしまったのか?」


 俺の意見にガンテツは頷いた。


「ああ……元々三代目勇者は傲慢な人格だった。自分が転生してきた勇者だと周りに振りまき女子おなご達を侍らせ自信の名声を振りかざしておったらしい。だが、腐っても転生者、とんでもない知識を有しておった」

「拳銃……」

「そう……奴曰く、自身をミリタリーという知識を用いてこの銃達をこの世界に作り出す為、鍛治士であるワシの元へと来たんじゃ」

「それじゃあ、ガンテツさんは拳銃の制作を断ったんですか?」

「いいや、引き受けた」

「え!?」


 意外な答えだったが、すぐに続いた。


「ああ、引き受けたんじゃが、わざと作れんフリをしたんじゃ」

「もしかして……三代目勇者がこの世界では銃が作れないと誤認させる為に?」

「そうじゃ、奴は知識を持っていたが本人自身は単純な奴じゃった。ワシをこの国で最も優れた鍛冶職人と聞いて訪れたようじゃったが、ワシが時間を掛けても今の技術と資源では作れないと騙せれば、この最悪の武器をこの世に広めることはないと考えたんじゃよ。ワシがそこで食い止めていたんじゃ……」


 目を細めるガンテツは、置かれた銃に視線を送った。


「じゃが……ワシの倅、アンジュの父はその悪魔の設計図に魅了されてしまったんじゃ」

「お父……さんが?」

「そうじゃ……勇者の見せた設計図のようなものは、文字は異国の文字を使われ読めんかった。だが……図を見ただけで作成出来る代物だとワシと倅は理解した。それと同時に、この銃がもたらす殺傷能力の高さに恐怖心すら覚えたんじゃ。じゃが息子はその効率的で精巧な武器に心を奪われてしまった。武器の本質に気付かぬままな」


 俺はその話を黙って聞く。

 少しの間を開けガンテツが話す。


「この武器は魔神を倒す為に作られた物では無い。これは魔物……はたまたワシ等人族を殺す為に突出した武器であるということを」


 納得せざるおえなかった。

 起源とかは分からないが、俺達の世界でも動物や人を殺してきた武器だ。

 誰でも扱え、多くの命を救い、そして奪い取った代物だ。

 しかし、ガンテツさんの言う通りこの世界の魔神に通用するかは話が別だった。

 俺は、地下牢から逃げ出した日のことを思い出す。

 多くの命を奪い取っていったベノム拳銃も魔神相手に刃が立たなかった。

 俺はガンテツに話す。


「はい……ガンテツさんの言っている通り、この銃という武器は生き物を殺す為の物でした。俺達の世界では、使い方を覚えれば誰でも扱えるし、誰もが持てる国もあった。そして、戦争や殺人事件でも沢山使用されていたんだ」

「……うむ、そうか。やはり、ワシの考えは間違ってなかったのじゃな。この武器を世界に広めてはいけない。作ってはいけない物じゃった」


 ガンテツは頷き目を細めた。


「ワシ等の作るこの世界の武器は、あくまで人族より強い魔物や魔神を殺すことに特化させた代物。人族同士でも戦えるが対人戦に強い物とは言いがたい。ある意味それが国家間での争いの少ない世界の理を作っておった」

「……魔物達のお陰で、俺達の世界よりもこの世界の武器は発達しなかったってことか」

「じゃろうな。逆にお主の世界に魔物がいないのじゃろ? だからこそ、対象が同族である人間が対象となり、こんな物を作ってしまったじゃ。環境は違えど争いは絶えぬな」

「……」

「お主に言っても仕方ない。お主が悪い訳ではないからのう」


 ガンテツは溜め息を吐き、話を続けた。


「その本質を理解していなかった三代目勇者と倅は、多くの拳銃や重火器を産み出したが、魔物軍の圧倒的な数に苦戦していたそうだ。更に強力な兵器を作らせ続け、武力で魔神や魔物を倒し続け、やがて二代目魔王を倒した。しかし、その直後に奴は自身の内にある慢心に取り込まれた。奴は武力で世界を我が物にしようとしたんじゃ」


 今までの話で三代目勇者の素行が窺える。

 きっと、この世界を自分の思いのままに出来るゲームのような世界だと思っていたのだろう。

 目的を果たした三代目勇者は、新たな目的を求め、行き着いた先は自身がこの世界の権力者になること。

 細かい目的は分からないが、承認欲求の強さがそんな行動に導いてしまったのだろう。


「そして……今まで息子が作ってきた武器は、三代目勇者……魔王に寝返った魔物軍や魔神の手に渡ってしまった。人を殺すことに特化させた武器が人族の敵の手に廻ってしまったんじゃ」

「え……」


 空を飛べる魔物や、銃の利かなかった魔神の手に拳銃や機関銃を渡してしまった。

 それを聞いただけで俺は絶句してしまう。

 そんなことになったら人族達がどうなるのかなんて想像が付く。

 その後を訪ねると予想通りだった。

 魔王の本拠地近辺にあった国や街は全滅した。人族達は蹂躙され新たな驚異が世界を覆い始めたそうだった。


「じゃが、すぐにそれは沈静化された」

「どうして? その話だけはどうやっても覆せないような気が……」

「ああ、すぐに転生者が現れたということになっておる。各所の国々や冒険者達が協力し包囲殲滅を計ったそうじゃ。多くの被害を出したが、その犠牲のかいが有り三代目魔王の進軍は収まった。四代目勇者、現四代目魔王が今のこの世を救ったんじゃよ……世間ではそういうことになっておる」

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