第53話 伝承よ

 ガンテツに連れられ、鍛冶場に向かう。

 アンジュも何も話さないまま俯き、俺達の後を着いてきた。


「アンジュちゃん……大丈夫?」

「……うん」


 心配そうに訪ねるコハルにも、今までの彼女とは思えない静かな返事をした。

 横目に見ながら俺は黙々と付いて行くと、ガンテツは作業台を一つずらした。

 すると、そこにハッチが隠されていた。


「……地下室?」

「それって……」


 アンジュが見覚えがあるように呟く。

 ガンテツが続ける。


「この奥にベノムが言っておった物がある。三代目勇者……いや三代目魔王の遺産じゃ」


 ガンテツは上げ蓋を持ち上げた。

 そこには地下へ続く階段が現れる。


「さあ、お前さん達、着いてこい」


 ガンテツは臆せず階段を下りていった。







 降りると、そこは地下室となっていた。

 ガンテツが蝋燭を灯すと、布を被された作業台や工具が所々に置いてあった。


「アンジュ。お前さんにこの地下は物置と伝えておったが、それはある物を隠す為に偽装しておったのじゃ」


 そう言いながら、ガンテツは作業台の一つへ向かい掛かった布を外した。


「これは……」


 予想はしていたが、その光景に俺は声を出してしまった。

 作業台には多種多様な銃器達が置かれていた。ほんのりと火薬の匂いも漂い、黒く光る銃器に無機質な殺意を感じ圧倒される。


「イットよ。お主の表情から察するに、これがなんなのか分かっておるな?」

「は、はい……ベノムが持っていた物で、それでいて俺が昔居た世界にあった武器です」

「そう……これはワシのせがれが作った物じゃが、制作方法は違う人物じゃ」


 ガンテツは目を細め間を置いて続ける。


「イット、お主と同じ異世界転生者じゃよ」


 ……冷淡に答えたガンテツの言葉に、憎しみが滲み出ていた。

 俺は関係ないのは分かっている。

 しかし、それを隠しきれない程の憎悪が彼の中にたぎっているように見えた。


「なあ……ガンテツさん」

「なんじゃ」

「俺に、この武器が作られた経緯を教えてほしい」

「……もちろんそのつもりじゃよ。だから、こうして此処に連れて来た。アンジュに隠していた懺悔と、お主に伝える義務がある」

「お爺ちゃん……」

「いや、そういう義務とかって思って欲しくないんだ」


 俺は真っ直ぐ、ガンテツの目を見た。


「俺は……正直この件は転生した勇者という点でしか共通点がない。でも、俺は知りたいんだ」

「……」

「その、上手く言えないけど、勇者という立場や義務でこの件を聞きたい訳ではない」


 自身の胸に手を当て、俺は言い切る。


「俺は自分の意思で、この件に関わりたい。お世話になった貴方達と関わり、役に立ちたいんだ。勇者としての責務ではなく、俺の……イットとしての責務を果たしたい」


 俺の言葉にガンテツはフンと息を吐く。


「正直、ワシはお主のことを嫌悪の目で見ていた。また暴君のようにこの世界を破壊する輩じゃないかと。昔の勇者とお主は別人だと分かっていても、またワシは奪われるのではないかと憎悪が芽生えてしまうのじゃよ」


 今までの話を聞けば、そう思うのも仕方ない。俺より前に現れた勇者に自分の世界を……家族諸共をめちゃくちゃにされたのだ。アンジュだって、真実を隠され直向きに守ってきた大切なものを勇者によって汚されていった。

 俺のいた世界の人間がやったことだ。

 そして……この現状も今俺がやってしまったことでもある。


「すみません……ガンテツさん、それにアンジュ」

「……お主が謝る必要はない。この一週間でお主の見方はすでに変わっておる。イット、お主は三代目勇者とは違う。私欲の為に動く人間ではない」


 いや、俺は隠していることがまだある。


「……」


 ここで、俺達が殺した城主が原因で店が傾いたかもしれないと話せばゴタゴタになる。

 追い出されるのは良い方だが、コハルも居る。本当は打ち明けて、自分の中にあるわだかまりを取り除きたい。

 だが、俺は言葉を押さえた。

 上手くいってもいかなくても、この事は最後に話そう。

 上手く行かなければ殺されても仕方ない。

 昔彼等を苦しませたのは、俺ではない別の勇者かもしれない。

 だが、今彼等を苦しめているのは俺がきっかけだ。

 俺も三代目勇者とやらも結局変わらない。

 これはケジメで、俺の覚悟だ。

 なんとかしなければならい責任なんだ。


「さて、それじゃあ拳銃コヤツが作られた経緯を話していくかのう。その前にイットよ」


 ガンテツはこちらへと視線を向けた。


「お主は、魔王と勇者の伝承を知っておるか?」

「伝承?」

「ああ、イットやコハルの様子を見ていると、どうやら魔王と勇者の関係性、その類いの伝承を知らぬのではないかと思ってな。今や子供に聞かせる昔話程には有名なんじゃが、お主等は身よりもなかったらしいからな」


 そうだ、知らない。

 そのことをずっと気になっていたのだ。

 ちょくちょく話には上がっていたが理解出来る限りの事は、どうやら何代かに渡って魔王と勇者の戦いが続いているということだ。

 その先人の勇者達は、魔王との戦いの中で現実世界の知識を用いて討伐してきた。

 しかし、それに伴って負の財産を残していったらしい。この世界にない技術を作ってしまったが故にそれが多くの悲しみも作ってしまったらしい。

 ここまでは、今までの情報。

 だが、理解できない部分がある。

 俺の勘違いなのか、それとも違う理由があるのか分からないが……よく話の中で、魔王と勇者が混合されているとことも理解しづらいポイントの一つだった。

 この世界を脅かすのは魔王の仕業という者と、ベノムのように事情を知っている者は、勇者の仕業だという者もいる。

 いずれこの国の図書館に行って調べようとは思っていた。

 丁度、このガンテツさんは先代勇者、もとい俺と同じ転生者の被害者だ。ここで、この世界の事情を聞けるかもしれない。


「その話、ガンテツさんお願いします」

「うむ、承知した」


 ガンテツはゆっくり話し始めた。

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