第13話 亡国の民の受容と拒絶~ポテトチップ? 聞かない名だな~
「それで、メタの王子様だったテトは何でアーサーの元に来たのさ」
ポポロはマーリンの用意したスナック菓子をボリボリと口に詰め込みながらテトにそう訊ねる。正直王子様相手の女性の言動ではないとアーサーは思うが、彼女はこの菓子が大好きなのだから仕方がない。芋を薄く切って油で揚げるという、今までにない斬新な菓子であるが、食べるときに手が汚れるのでアーサーはあまり好きではない。
「それは――」
テトは出された水を一口含み、飲む。
「信じてもらえるかわからないが、あなた方が〝禁忌〟と呼ぶ魔法は、我々メタ王国の魔術師の使う一般的な魔術にすぎないのだ」
「しかし、それでは多くの魔術師が若くして死んでしまいます」
メトリスが疑念を抱くのももっともだろう。禁忌とされる魔法はどれも、使う者の精神と肉体を病む可能性の高いものばかりだ。危険な魔術ばかり行っていたら魔術師の体が持たないだろう。
テトはメトリスの問いを聞き、うむ、と頷いた上で、マーリンの菓子を手にとり食べてみせた。こいつ、さては大事なことを話すときに何か口に含む癖があるな。水分が欲しいんだろうが逆に口渇くぞ――などとアーサーが思ったそばからテトは死んだような目で水をごくごくと飲んだ。
「こいつ、大層なドライマウスだな……お前の好きな飴、ちょっとあげたらどうだ」
「嫌だよ、メイプルムーンキャンディはあのマカロンのお店の期間限定、数量限定、とにかく超レアなやつなんだから」
「レアレア言って腐らせちまいそうな奴に神棚に乗せられて拝まれるよりテトに食ってもらった方が飴も本望だろ」
「腐らせはしないわよ!」
「なら聞くがアレの賞味期限はいつだ? 味が変わってしまう保存魔法を使わない、素材のよさを味わえる商品じゃなかったのかよ」
「………………」
青い顔をして去っていったマーリンを見届けたころ、やっとテトは口内環境が整ったらしい。
「そろそろよろしいか」
「あっハイ(むしろそちらが菓子食べたりするからこっちが……まあいいか)」
「ありがとう。話を続けるが、我々の知る魔術はあなた方の魔術とは少し違う理論を用いている。言わせてもらえば、あなた方の禁忌魔法は、我々の魔術をあなた方流に解釈したが故の欠陥があるのだ。つまり、正しく行えば魔術師自身が危機に晒されることはない」
「――っ、そうなの?!」
「ああ」
そういってテトは菓子をつまむ。喉は渇くが病みつきになるな……と呟いたのを見て、アーサーは信じられないという風に肩をすくめた。
「それで、何でアーサーの家まで来たのさ。面識ないよね?」
ポポロの至極真っ当なツッコミ。
「ああ、それは、メタ王国の王族は魔術が正しく行われているか探知できる特殊な能力が備わっている。建国神話によると私の祖先は魔術を先住民に授けることで人望を得、王になったらしいが――そんなことはどうでもいい。とにかくその能力で、あなた方のいう〝禁忌〟である、魔術が正常に作動しなかった状態を私は感知した。そしてそれが、〝正しく行われていれば魔王を倒しうる唯一の手段〟であることもわかった。だから、囚われていた王宮を抜け出したここに来た。ついに魔王の正体を見抜いた、あるいは少なくとも王国の不正に気付いた人間がいるのだと知って」
「なるほど――あなたは魔王の正体を知っているのね」
「ああ、知っている。だが、それを話す余裕はない。――追手が近づいて来たようだ」
「――というわけで、俺はちょっくらテトと一緒に魔王倒してくるわ」
アーサーの言葉に、テトもうなずく。そして、エルフ二人とメープルムーンキャンディを持って立ち尽くすマーリンに覚悟を問うた。
「真実を知りたければ、共に追手から逃げてほしい。だが、何もかも知らないふりをして今のまま生きていくこともできる。あなた方を望まぬまま危険に晒すのは私も本意ではない。――どうする」
何もかも知らないふりをする、その選択を選べば、王の追手から逃げていくアーサーとの関係を絶たなければいけない。かといって勇者の
「私はいく」
マーリンは即答した。
「私も――行く」
ポポロの同行に同意した。ただし。
「私は――いけない」
父親が王宮の関係者であるメトリスは、泣きだしそうな声でそう言った。
「――それでいい。平穏な幸せは何者にも代えがたい。ただ、その平穏をメタの民は奪われて久しいことだけ、覚えていてくれ」
テトとアーサー、マーリンとポポロは部屋を飛び出す。逃避行が、始まった。
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