第23話剣の力

 城の馬場で、イグニスとカケルが特訓を始めていた。

 イグニスは、鍛えられた剣で打ちこんでくる。

 カケルは、すんでのところで聖剣で円を描く。

 すると、空中に現れた円陣がシールドとなって剣を防いだ。

 ぎいん!

 はじき返した。

「そう、それがサークルチェンジです。次はどうですか!」

 イグニスの猛烈な突きが何回も繰り出される。

「スクエアチェンジ!」

 カケルが聖剣を横にスライドさせると、今度は透明な壁が前面を覆った。

 塔盾タワーシールドである。

 らしくもなく額に汗をして、イグニスが満足げに指導しているのは、聖剣の防御の型。

「ほかにも、体全体を覆うダイヤモンドチェンジがあります。これは複数名の身をも守ることができます……疲れましたか?」

「これしき!」

 ほう、とイグニスは目を細めた。

 やはりツバサの兄、負けん気が強い。

 しかし、訓練というのは、ひっきりなしに続けていれば身につくというのではない。

「休みましょう」

「まだまだだ。はかり知れない力が、この剣にある。びりびりするぜ。今のこの感覚を忘れたくない!」

「いざというとき、消耗していてはなんにもなりません」

「いいから、技を教えてくれ」

「平つくばるなら、あるいはお教えするかもしれませんな」

 カケルは聖剣を放り出して、その場に突っ伏した。

 イグニスが驚いていると、

「これで、いいか?」

 父王譲りの、憎めないほど沁みいるような笑みだった。

(馬鹿な。休息がいらないというのか。カケルの力は無尽蔵なのか?)

「なぜ……」

 イグニスは、ツバサに対して尋ねずにいられなかった問いを再び発した。

 カケルは、遠い目をした。

「それは……父上をお助けするチャンスだから」

「運動は、続ければ効果が上がるというわけではないのです。次はエネルギー砲をお教えしますから、体力を温存してください」

「そか。ん。わかった」

 ひたむきで素直なカケル。

 ようやく、休んでくれる。

 短時間で、防御の型をほとんど憶えてしまったのだ。

 これでは、イグニスの方がついていけない。

 けれど、イグニスはほとんど感動に打ち震えていた。

 この少年の中に、これほどまでの情熱と信念が備わっていたとは。

(ルシフィンダ。あなたの息子は、なんと……なんと雄々しくもうつくしい魂の持ち主なのでしょうか)

 天には雲。

 真っ白な双子の心のように清らかな色。

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