第156話 動き出す者
「り、リウィルの父親!?」
あまりにも衝撃的な展開に、優志の頭は完全にショートした。その横で話を聞いていた美弦は、そんな優志に代わって当然の疑問をジョゼフへぶつける。
「で、でも、リウィルさんのご家族は亡くなっているはずでは?」
「母親のケイティさんは病死でしたが、父であるニック殿は厳密に言うと行方不明だったのです」
「行方不明?」
「ええ。……ただ、なぜ行方不明になったのか、原因は今までずっと謎でした」
元騎士団の一員なだけあって、ジョゼフは内情に詳しい。
しかし、そのジョゼフをもってしても、リウィルの父であるニックがなぜ行方不明になったのかは知らなかった。
こうなると、真相を知っていそうなのはニックと面識があり、尚且つ今では騎士団を支えるアデムとゼイロくらいか。
そのふたりは未だにバルザ――もとい、ニックへと語りかけていた。
「ぐっ……あっ……ニッ……ク? 俺の名は……ニック?」
「! そうだ! ニックだ! ニック・スパイクスだ!」
アデムたちによる説得は続く――が、ここは魔界。
指揮系統に乱れが生じたことで、戦局は徐々に連合軍側に不利な状況となっていた。
「まずいな……」
最初に戦況の変化を感じ取ったのはボロウだった。
「俺たちもここでのんびりしているわけにはいかない。魔王城がすぐそこまで迫っている現状で戦力を少しでも温存しておくためにも、無駄な被害は極力避けなくちゃいけねぇ」
「回りくどいのよ、ボロウ。私たちが加勢して蹴散らしていけばいいのでしょう?」
「その通りだ、グレイス。おまえもいいか、ザラ」
「了解」
ボロウ、グレイス、ザラの三人はその場を優志と美弦に任せて散る。
荒れ狂う戦場ではダズやエミリーをはじめとする腕自慢の冒険者たちも大いにその力を発揮していた。
普段、ダンジョン内に潜むモンスターを相手にしている彼ら。ダンジョンのモンスターと魔獣は多少の違いはあれど「バケモノ」という点では大きな共通点がある。
冒険者たちは臆さない。
凶暴で凶悪な魔獣相手でも、引き下がるどころかどんどん前進していく。
弱気を見せればつけいれられる――冒険者たちは「バケモノ」との戦いの作法を知り尽くしていた。例え虚勢であっても前に進む。それを怠ってしまったから、魔界へ召喚された当初は防戦一方だったのだ。
こうした冒険者たちの戦う姿勢は、思わぬ相乗効果を生み出した。
「俺たちも負けていられんぞ!」
「そうとも! こちらも戦うことが本業!」
「冒険者たちに遅れを取るな!」
兵士たちには兵士たちの意地がある。
対魔獣を想定して訓練を積んできた彼らはいわば専門家だ。
このままいいところを冒険者たちに独占させるわけにはいかない。
もちろん、勇者たちもそれぞれの力を存分に発揮し、魔物たちを次々と蹴散らしていく。若者が戦場で躍動する姿もまた、兵士や冒険者たちを勇気づけた。
アデムとゼイロのふたりを欠く連合軍であるが、その現状に奮起した周りの兵たちはむしろ勢いが増し、少しずつではあるが確実に魔王城に近づいていた。
連合軍の快進撃に安堵のため息を漏らしたのは美弦であった。自身が召喚したガルベロスら召喚獣も、勇者や兵士や冒険者たちと共に活躍している――自分には戦闘能力がないため、こうした形で協力できることが嬉しかった。
――だが、逆に優志の表情は緊張感に溢れていた。
アデム、ゼイロのふたりによるニックの説得が続けられていたからだ。
「目を覚ませ!」
「ニック!」
必死の呼びかけが続くが、頭を抱えたまま動かなくなったニックはついに一言も喋らなくなってしまった。
「このまま沈黙が続くようなら……」
今の膠着状態が長引くことは避けたい。
いくら今の連合軍に勢いがあるとはいっても、それが長続きするとは思えない。現在の連合軍は明らかにオーバーペースだ。やはり、優秀な指揮官がしっかりと手綱を握って軍を操作しなければ、このまま燃え尽きてしまうのは目に見えている。
できることなら、あのふたりにはすぐにでも現場に復帰してもらいたい。
そう願うが、あの調子ではそれも難しい。
「アデムさん! ゼイロさん!」
優志の叫び声がふたりに届いた直後――強烈な衝撃が襲い掛かってきた。
「なっ!」
咄嗟に身を屈めた優志だが、すぐさま近くに美弦がいたことを思い出して再び叫ぶ。
「美弦ちゃん! こっちだ!」
「は、はい!」
激しい横揺れと突風に襲われながら、優志は美弦を抱きかかえて守った。その原因――優志はしかと目に焼き付けていた。
優志は美弦の手を取ってすぐに立ち上がると、ニックを説得中だったアデムとゼイロに合流しようとするが、その背後からは巨大な剣を抱える人影が迫っていた。
「!?」
殺される。
直感がそう告げ、思わず優志と美弦は目を閉じた。
次の瞬間――「ガギン!」という金属同士がぶつかり合う鈍い音がこだました。
痛みや衝撃を感じないことを不審に思って目をゆっくりと開ける。
優志と美弦を挟むように、アデムとゼイロが立っていた。
ふたりは剣を抜き、優志の頭上に迫った大剣をそれで受け止めていたのだ。
「なんのつもりだ!」
「訳を聞かせてもらおうか!」
アデムとゼイロの声は怒りに満ちていた。
優志と美弦に剣を向けたのは――
「まさか受け止めるとは、ね」
不敵な笑みを浮かべる真田であった。
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