第140話 志願
優志たちが塔へ到着してからおよそ三十分後。
応援要請を受けた王国騎士団が大軍を率いてやってきた。
指揮していたのは副団長のゼイロで、彼は意識を失っているベルギウスを見ると慌てて駆け寄ってきたが、優志の回復水の効果で怪我がないことを知るとホッと胸を撫で下ろした。
「御無事で何よりだ……」
心底安心した様子のゼイロを目の当たりにし、優志はベルギウスの存在の重要性を改めて知ることとなった。
その後、騎士団に事態の詳細を尋ねられたが、優志もボロウも到着した時にはすでにこのような状態であったため、詳しいことは分からないとありのままに報告。なので、状況の整理には意識のある兵士を中心に行われることとなった。
「……ゼイロ副団長殿」
「お話があります」
状況を完全に把握しきっていない優志とボロウに出番はないものと思われたが、それで納得する二人ではない。
この案件――ボロウにとってはロブ・エルズベリー、優志にとってはベルギウスという両者にとって関わりの深い重要人物が密接に関与している。何も知らないからこれで失礼しますと現場に背を向けるマネはできず、なんとか自分たちも調査に参加させてほしいという願い出を現場責任者であるゼイロへ申し出たのだ。
それを受けたゼイロは、
「私としても、君たち二人には協力を仰ぎたいと思っていたところだ」
自身も優志とボロウへ協力を要請するつもりだったと答え、正式に優志とボロウが加わることとなった。
「ただ、ご覧の通り、現場は派手に荒らされており、詳しい状況の整理は兵士と……何よりベルギウス様の意識が回復されない限りは困難だろう」
協力できるようになったとはいえ、状況が好転したわけではない。
今回の事件の中心にいるとされるベルギウスも、未だに意識が戻っていないとなってはこれ以上の現場での調査で得られるものは限られてくる。
「魔人絡みということは俺たちも聞いています」
「魔人、か」
魔人の名を出した途端、ゼイロの顔色が変わる。何か心当たりがあるようだった。その変化を見逃さなかった優志が尋ねる。
「ゼイロさんは魔人関連の研究について知っていたんですか?」
「まあ、ね。魔王討伐が足踏み状態となっている中、戦力増強の切り札として魔人を支配下に置くという計画を推し進めていたベルギウス様だが……」
そこから先の言葉を、ゼイロは呑み込んだ。
しかし、優志とボロウが真剣な顔つきで見つめ続けていると、観念したのかため息と共に言葉を吐き出した。
「計画については懐疑的な意見が多かった。……だが、珍しく――というより、初めてだったんじゃないかと思う。あれほど強引なベルギウス様は」
「強引?」
優志は首を傾げた。
いつも飄々としていて何を考えているか読めないが、行き当たりばったりに見せかけて実は思慮深く物事を見極めている――そんな印象があったベルギウスが、強引に推し進めるというどうにも人物像と一致しない。
裏を返せば、それだけ魔人戦力化へ情熱を注いでいたというわけだが。
「……ベルギウス様が魔人化を推し進めて戦力増強を図った背景には、魔王討伐が大きく関係しているんですね」
「ああ、そうだ」
「うまくいっていないんですかい? 戦勝パレードなんて開いていたもんだから、魔王討伐は時間の問題と思っていたんですがね」
「……あの時は私もそう思っていた」
ゼイロの顔色は優れない。
それで、優志とボロウは魔王討伐の現状を察する。
だが、そうなってくると不安になるのが魔王討伐に向かっている者たちの安否だ。特に気になるのが、
「勇者として召喚された子たちは……」
「今のところは全員無事だという報告が入っている。二日後には増援として新たに兵を魔界へ送り込む予定だ」
「それでなんとなるんですかい?」
「なんとも言えんな……」
煮え切らない回答をするゼイロ。
だが、こうなってくるとその態度だけで現状がよく理解できた。
「…………」
優志は沈黙する。
黙るというよりは、何かを考えているという方が正しいか。優志が考え込んでいる様子を見たボロウが口を開く。
「回復屋、何かあったのか?」
「いや……あの、ゼイロさん」
「うん?」
優志に声をかけられたゼイロが返事をする。
「その増援部隊に――俺を加えてくれませんか?」
「! お、おい、回復屋!」
魔界への増援部隊へ志願した優志について反応を示したのはゼイロよりも先にボロウの方であった。
「魔界がどんなところが知っているのかよ!」
「とりあえず、ヤバいってことは分かるな」
「そんな軽いモンじゃ――」
「まあ、待て」
興奮するボロウを制止したゼイロが落ち着いた声調で尋ねる。
「君が魔界討伐の増援部隊に志願してくれたことは……本音を言うとありがたい。正直なところ、回復が追いつかない状況にある」
「もっと早く伝えてくれたら……」
「それは、まあ……」
またも答えにくそうなゼイロ。
すると、ボロウがそっと耳打ちをする。
「おまえはリウィルが無理矢理呼んだ召喚者なわけだし、騎士団なりに気を遣った結果なんじゃないか?」
「ああ……」
自分が誤って呼び出されたということをすっかり忘れていた。
それほど、ここでの生活が充実していたから気にならなかったといえばそうであり、優志が志願した理由もそこにあった。
「ゼイロさん……たしかに俺自身が望んでこの世界へ来たわけではないありませんが――俺はここが好きです。ここでの生活が気に入っています。だから、そんな好きな世界を脅かす存在を倒すのに貢献できるなら、是非とも俺のスキルを役立ててもらいたいと思います」
「ユージくん……」
声を震わせたゼイロは、大きく頭を下げた。
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