第31話 その名は「魔人」
辛くもダンジョンからの生還を果たした優志たちは、一旦ダズたちのテントへ身を寄せることにした。
「改めて礼を言う。おまえたちが来てくれなかったら俺たちは死んでいたよ」
テントへ入るとまずダズが礼を述べる。
優志としてはエミリーをダズへ紹介させるつもりで来たのだが、気がつけば初のダンジョン探索になり、最終的には命懸けの脱出劇にまで発展していた。
結果としてダズを救い出すことには成功したものの、あの紫肌で黒い目の人型モンスターはまだダンジョン内部に残ったままだ。
「ヤツを倒さない限り、魔鉱石の採取はこれまで以上に困難なものとなるだろう」
そうなると発生する問題が、
「数が少なくなるということは、それだけ魔鉱石の値段が跳ね上がりますよね」
需要と供給――その関係性おいて、供給の部分は大幅に減少するとなれば、価格の高騰は避けられない問題となるだろう。
優志が獲得を目指すヒートの魔鉱石はただでさえ希少で高価なものだが、もしあのモンスターがこのまま居着くようならもはや手にするのは不可能だろう。
それはダズたち冒険者からしても望ましいことではない。
「なんとしてでもあのモンスターを退治しないとな」
ダズが神妙な面持ちでパーティーのメンバーへ告げた。
その輪の中にはエミリーの姿もあった。
ダズはエミリーの過去をすべて知った上で彼女を自らがリーダーを務めるパーティーの一員として招き入れたのだ。
ダズの懐の深さに感銘を受けたエミリーは深々と頭を下げて感謝の意を示し、職場を荒らす新型モンスターの対策に思考を巡らせていた。他のパーティーのメンバーも、ダンジョンでエミリーの実力は目の当たりにしているため、文句を言う者はひとりとして出なかった。
「ところで、その新型モンスターってどんな感じなんですか?」
作戦会議に熱を入れるダズたちへ優志の回復水を配っていたリウィルが、仕事を終えて帰って来るなり優志にたずねた。
「そうだな……例えるなら――」
そこで言葉を止めてジッとリウィルを見つめる。
「え? な、なんですか? わ、私がモンスターって言いたいんですか!?」
優志に見つめられて焦り出すリウィル。
もちろんそんなことではなく、
「ようは人間っぽいってことさ」
「あ、そういう意味なんですね。――て、紛らわしいですよ!」
「ははは、ごめんごめん」
「で、でも、人間っぽいモンスターって一体……」
和やかなふたりに対し、優志の言った「人間っぽいモンスター」という言葉に心当たりでもあるのか、妙に食いつく美弦。その脇で横たわるアルベロスも、「ウウゥ」と何かを警戒するように唸り声をあげている。
「人間っぽいっていうか、姿形はほぼ人間と同じだったよ。――ただ、肌の色は紫で目は黒で塗り潰されているんだ」
「ぶ、不気味ですね……」
リウィルの顔が強く引きつる。
優志からの情報を総合して脳内に思い浮かべるだけでそうなってしまうのだ。
モンスターの外見についての情報を耳にした美弦は、
「…………」
急に黙り込んでしまった。
「どうかしたか、美弦ちゃん」
「! あ、い、いえ……」
美弦は明らかに動揺していた。
それはモンスターの異様な姿を想像したからではなさそうだった。
だとすれば、
「知っているのか――あのモンスターを」
「…………はい」
とても言いにくそうではあったが、美弦は首を縦に振った。
「ミツルさんが知っているとなると……もしかして!?」
今度はリウィルが動揺し始めた。
何も知らないのは優志だけだ。
「な、なんだ? リウィルも何か知っているのか?」
「ユージさん……ミツルさんは勇者召喚によってこの世界へ来たのです――魔王を倒す勇者として」
「それは知っている。けど、その勇者とあのモンスターになんの関係が?」
「ミツルさんと一緒に魔王討伐へ旅立った他の転移者――つまり勇者たちは、魔王が住むと言われる魔界へ向かいました」
「魔界?」
字面だけでも禍々しさが伝わってくる。
定番といえば定番のラストダンジョン――魔界。
本来ならば美弦も他の転移者たちと共にその魔界へ乗り込んで魔王討伐に参加するはずだったのだが、直前になって怖くなり、あの廃墟にアルベロスと共に潜んでいた。
頭の中でそこまで整理すると、あるひとつの仮説が頭をよぎった。
「もしかして……あいつは魔界にいるモンスターなのか?」
「実際に見たわけではありません。ですが、ガレッタさんが私たちに見せてくれた魔界の情報の中に……さっき優志さんが言った特徴に該当するモンスターがいました」
「魔界のモンスター……」
それはダンジョンの中に潜むモンスターとはまた異質の存在であると美弦は付け加えた。
「なんらかの理由で魔界に住むモンスターがこちら側の世界に姿を見せる現象は数年前から報告されていました。あっちのモンスターは非常に凶暴で強い……人間に姿が似ていることから王国では《魔人》と呼称していました」
元神官だけあって、その辺りの事情にリウィルは精通していた。
だが、新型モンスター《魔人》の詳細が発覚したと同時に、
「通常種とは別格の強さ……戦えるのか?」
ダンジョンで魔人と直接顔を合わせた優志。
自分はもちろん手も足も出ないが、エミリーやダズでもあの巨大な魔人を相手にどこまで戦えるかは未知数だ。
「戦えるのは優れたスキルを持った転移者のみとさえ王国内では噂されています」
「優れたスキル、か……」
「優れたスキルです……ね」
自然と、優志とリウィルの視線はひとりの元女子高生へと向けられていた。
「え? ええ?」
ふたりからの視線を浴びる美弦は困惑にあわあわしながらも、何を言いたいのかはもう読めていた。
「美弦ちゃん――君の召喚獣の出番だ」
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