第49話:サンドボア狩猟05
目を充血させて、ギロリと私の方を睨みつける。
これは捕食の欲望というよりは、自らのプライドを踏みにじった私に対する殺意へと変化している。
グチャグチャに踏みにじられて、原型がなくなるまでミンチにされた上で、欲望のままに捕食されるルートが確定したようだ。
「お”お”お”お”お”お”お”お”お”お”………………!!!!!!」
もしも、私がお前に捕まるようならな……!
「…………っ!!!!!」
さっと体を少し横にずらしてサンドボアの突進を回避する。
先程よりも随分と急襲だったが、頭をつかうようになったのか?
だが、私も元の時代でイノシシとは場数を踏んだ戦いをしているもので、突進する思考というのは、たくさんの怪我を通じて感覚で覚えていくものだ。
今さら不意を突かれたところで、目からビームでも出されない限りは驚かない。
しゅぅぅぅぅ……
「ほら、お前の歯で生成した超循環の素材だ。ファイブレードにテクスチャとしてコーティングすれば、きっと強力な武器になる」
「ぎぃぇぇああああああああああああああああ…………!!!」
言葉の煽りが効くのだろうか。
今度はジャンプで飛びかかるようにし、私が避けにくい攻撃を仕掛けてくる。
「……なるほど、避けは出来ない……か
」
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお…………!!!!!!」
「……だけど、私がいつ避けると確信していた?」
「…………っ!????」
ズバァァァァ……!!!!
「ぎぃぇぇあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………!!!!!!」
サンドボアがドサッと地面に倒れ込む。
攻撃によるものではない。バランスを崩したことによるもの。
「確か、足の皮膚は薄いと聞いていてね……ファイブレードで前足二本の腱を少々切らせてもらった。お前の歯の素材でね」
筋肉は大地を駆ける生物の肝。
皮膚は傷ついても我慢すればなんとかなるが、筋肉は物理的に機能を果たすものであり、損傷があれば、走ることもできなくなる。
「ごめんなさい。怖かったんだ。お前がいちいち突進攻撃で私をミンチにしてこようとするのが」
「ぶるるるるるる…………ぶるるるるるるる…………」
倒れてもなお、殺意の形相を向けてくる。
おちょくるように神経を逆なでしているのだから、逆の立場なら、確かに殺したいくらいに私は憎いだろうな。
「だけど、私はイノシシのことは好きだ。とても美味しいから――だから、私は今日も私自身の血となり肉となる生物のことをバカにしたりすることはしない。星に感謝し、生物に感謝し、敬意を払って命をいただく。私の流儀、生物への礼儀」
「ぶる…………ぶるる…………」
「そうだ。お前の命は終わる。だけど、私の中で生き続ける。お前は星とともに生き続ける」
「…………」
「いい子。野生の生物は、運命を受け入れるのが上手。それでこそ、弱肉強食を生きる戦士。尊敬する」
私は動けなくなったサンドボアの頭の上へと登っていき、ファイブレードを構える。
「痛いのは一瞬――だから我慢」
人のこめかみに当たるだろう側頭部のところへとファイブレードを投げつける。
「…………っ!!!」
鋭く尖り、歯の力がコーティングされたファイブレードは、きれいに頭蓋骨を貫通し、そのまま脳を通過する。
そして、勢いは保たれつつ、反対側の側頭部から、私のファイブレードが落ち、砂漠にズザッと埋まりこむ。
「…………」
「……今日のお恵みとなってくれてありがとう。安らかにあの世で駆け回ってくれ」
両手をついて黙祷を数秒。
死を悲しむ人間が居なければ寂しいだろう。
殺した私が黙祷をするというのも非常に皮肉な話だが、これも弱肉強食ならではのルール。理解して欲しい。
「……なるほど、脳を攻撃して苦しませずに倒す。体の損傷はほとんど無く、無駄な体力は使わなかったと」
「ルーミル」
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