第41話:サンドボア狩猟祭

 サンドボア狩猟祭


 月に一度の小さなお祭り。

 南南西の荒野地帯を大規模に移動し、安住の地を持たず天敵から逃れるイノシシの一種。名はサンドボア。

 砂漠の中を駆け巡り、熟成し、引き締まった筋肉は、歯ごたえが良く味わい深い。


 多くの人々にとっての趣向品の一つとして価値が高く、その肉を求めようと、超循環士は腕を振るい、一般の人々は高値をつけて取引をする。

 あまりの人気にサンドボアの生態系を大きく揺るがすことを懸念した人々は、闇雲に狩猟することを禁じ、選ばれた人だけを狩猟祭に参加させる。


 このイベントに参加できるのは、特別に優秀と評価された超循環士のみ。

 活動に対するご褒美であり、そしてサンドボアを狩るための実力者である必要性。

 もしも、ここに悪魔が出現しようものなら、一秒とかからず誰かしらが瞬時に始末される。

 リヌリラは、強者の中に紛れる形で、狩猟祭へとやってきたのだ。


 メルボルン南南西の商業エリア

 狩猟祭会場


「へぇ……随分ときれいに装飾しているんだね」

「小規模ながらもイベントですから、盛り上げるために力を入れるのは当然です」


 マーケットが立ち並ぶ場所の先々に鮮やかな装飾が施されており、普段も結構賑やかでありつつも、人が集まり賑わいを見せ、活性度合いが更に高まっている。

 出店がチラホラと並んでおり、肉やらお菓子やらの魅惑の香りが私の胃袋を刺激してくる。


 全体的なサイズ感も説明しようか。

 メルボルン南南西の商業エリアは、直径二キロほどの巨大なエリアで、普段は店、通路、店、通路と並ぶ中で人が余裕を持って歩くことが出来るスペース感が確保されているが、現状は人も多く集まっており、時折通路が渋滞することも多々発生している模様。


 つまり、この場には数千人の人々が一斉に集っていることになる。

 小規模なイベントであるというのに、なんとも需要のある祭りだこと。


「狩猟祭には何人くらいの超循環士が来るのかな?」

「前後はしますが、基本的に百名程度が集まるくらいです。超循環士が数十万人いる中でいうなら、本当に精鋭の中の精鋭でしょう」


 そんなにいたのか超循環士。

 普通に道端を歩いているそこら辺の人を指させば、普通に超循環士である確率は高そうだ。


「まあ、力を使わない人もいれば、悪魔と戦わずに商売等で力を使う人もいます。潜在能力を持っているからといって、戦争に強制参加させるような風習はありません。そういう背景ですので、広く見れば超循環士というのは意外と身近な存在だったりします。その中でも戦いに長けた精鋭は数千人と存在し、悪魔と戦う意志を持つものがたくさんいてくれました」

「へぇ……思いの外、団結力が強いんだ」


 悪魔を殺すというのは、相当の恐怖になるというだろうに。

 私のように背水の陣で前に進み続けなくてはいけない事情も無いと思うが、やはり平和に対する野心が強いのだろうか。


 そんなことを考えている内に、狩猟祭の受付場へと到着する。

 そこには、七十歳位の白髪の老人男性が椅子に座っており、ルーミルに手を降って声を掛ける。


「……ああ、ルーミル。珍しいじゃねえか。サンドボア狩猟祭に参加するだなんて。サンドボアの肉を食いたくなったのか?」

「マイケルマンさん、こんにちは。今日はね、私じゃなくて、この子にサンドボアを狩ってもらおうと思ってね」

「あっ、ど、どうも。リヌリラと言います。ルーミルのところで一緒に住んでいまして」

「聞いているよ。同棲し始めたんだろう?」

 

 ……何をどう聞いているんだ、このクソジジイは。

 早速ヤツの印象が普通から道端のゴミレベルまで転落したぞ。


「もう……マイケルマンさんったら、違いますよ。一緒に住んでご飯食べて、お風呂も一緒に入って、一緒に寝て、一緒に外出する仲だって言っただけなのに」


 撤回。この人全然悪くない。

 今のルーミルの発言を聞けば、誰でも誤認する捉え方をしてしまうのは必至だろう。

 間違っていない言い方ではあるが、確実に意図した引掛けをしようとしたのは間違いないだろう。


「二人のアツアツな関係にジジイが介入する余地はなさそうだ。引き続きよろしくやってくれ」


 いや、そのまま誤解するのを止めてくれ。

 なんか勘違いされたままで変に情報が流れそうで怖い。

 しかし、いま弁明をしたところで、ルーミルが新たな火種を撒くことを考慮すると、焼け石に水となってしまいそうな気がするので、実は意味がない行為なのではと思い、諦める考えに至ることにした。


「リヌリラちゃんとやら。参加するなら狩猟コインを持っているんだろうね?」

「はい。ルーミルに貰ったものですが」


 そう言い、私はマイケルマンさんとやらに狩猟メダルを一枚渡す。

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