第37話 無念な終幕
「無、属性……!?」
衝撃的な祢音の発言に
あり得べからざることに
しかし、それが納得できるかどうかは別である。自分の魔法を消し去り無効化した力が、無属性を持つ人間の手によって為されたとはどうしても信じられなかった。
「それこそありえないッ!魔法が使えない無属性の人間が一体どうやって僕の魔法を消したというんだ!それも第七位階だぞ!?現代に存在する魔法無効化の効能を持つ魔法でも、消せる魔法は最高で第六位階までのはず!き、君は!君はいったいなんなんだ!」
今まで狂気を覗かせつつ、冷静に場の状況を俯瞰している印象だった
「質問に答えるのは一つと言ったはずだ。あとは牢屋の中、そこでつくばる仲間と共に考えることだな」
だが、祢音は
「くっ……」
それを見て
すでに
祢音もそれを理解しているからか、終焉が近いと感じ始めていた。
あとは眼前に立つ
祢音は一度眼前の何もない空間を切り払うように、アノリエーレンを振る。そして――
「終わらせるぞ」
初動で最高速に達する高速移動術『迅動』を使い、音を置き去りにして、
かすむようにして消えた祢音は、一瞬で
一度目ですら反応できなかった速度に、体力の減少や
「眠れ」
防ぐことも避けることも、ましてや認識することもできずに、アノリエーレンは綺麗に
地面に崩れ落ちるようにして倒れた
これで一連の事件は終息したと言っていいだろう。
一人は今ここに意識を失い倒れ、もう一人は少し離れた場所で肩を抑え俯くようにしてじっと動かない。
あとは二人の身を完全に封じて、森の入り口付近から感知できる
祢音に失敗があったとするならば、怒りで少し視野が狭まっていたことや戦闘に集中しすぎていたことだろう。だから、
さらには 並外れた戦闘技術を持っているが、それでも祢音はまだ十五歳の少年と言ってもいい年齢なのだ。山暮らしが長く、基本的に修行として戦っていたのはアリアとばかりだったため、アリア以外を、それも犯罪者などを相手にする対人戦闘の経験はかなり未熟な方なのである。
学園を襲ったことや暗条を傷つけられた事へに対する怒りで対峙する二人に夢中になるあまり、祢音の頭の中には目の前の敵が本当にたった二人だけなのか、他にもまだ仲間がいるのではないのか、といった不安要素を考えるという思考が欠如してしまっていた。
だから――
「ッ!?」
――突如として、頭上から降ってきた強烈な殺気に祢音は驚き、反射的に
そして空から
「貴様、我の同胞に一体何をしてくれた?」
開口一番、放たれる怒りに満ちた冷ややかな声音。
冷徹にして傲慢。超然として神秘的。まるで高みから話しかけてくるような、そんな力強く、迫力のある声音が祢音に向けられた。
同時にギロリと向けられる黄金の瞳が祢音を射抜く。
その男はそこにいるだけで周りに圧力を与え、自然と跪きたくなるような王のごとき貫録を放っていた。
肩まで伸びた金色の髪を風に靡かせ、驚くほどに整った顔立ちは憤怒で歪んでいる。全身に纏う白く汚れの無いゴージャスなスーツはさながら一流ビジネスマンのごとき風貌。
突然登場してきた
「……誰だ?」
「それはこちらのセリフだ小僧。我の同胞達をここまで傷つけた貴様こそ一体何者だ?」
男は視線鋭く、祢音の質問を切って返す。
隠そうともしない威圧に、体から滲み出る黄金の
「助かったよ、
「……信じられんな。貴様らを二人同時に相手して、両者を倒す学生がいるなど」
「ま、言い訳させてもらえるなら、僕は陽動のせいで
「……それをやったのも目の前の小僧か?」
「いや、その後ろで気絶している少女だよ」
横で
「おいおい、なんだ?てことは目の前のガキにボコボコにやられただけじゃなく、その後ろのメスガキにまで分身を潰されたってか?いくら何でも腕が鈍りすぎてねぇか?」
それに対し、片側を支えていたもう一人の男、
「言ってやらないであげなさい、
「んなもんか?俺だったらそんな程度で力が鈍ることはないがな」
「私だってそうさ。ただ
「お前達、僕を庇ってるの?それとも貶してるの?」
左右を挟んで自分を擁護しているのか、それとも罵倒しているのか、わからないやり取りをする
ギャアギャアと喚く三人を横目に、羨望は頭を痛そうに抑えため息を吐くと、
「止めろ、貴様ら。今はそんな与太話をしている場合ではない」
「「「……」」」
一睨みで彼らを黙らせた。
我の強そうなタイプである三人が三人とも、しぶしぶだが、逆らいもせず、すぐに大人しくなる。
その行為だけで、祢音は
(この男が犯罪組織【
そこにいるだけで周りを圧倒する風格。凄まじいまでの威圧感。口調から伝わる唯我独尊を地で行くような性格。更には――
(……村雨先生に近い実力と見た方がいいな)
――見た瞬間、対面した瞬間、感じた桁外れの力。
三人を静めた
しかし、それに気押されることなく、祢音は年齢にそぐわない強烈たる覇気を前面に放出し、負けじと
二人の強者が放つ物理的な圧力すら伴う
だが……
「やめだ、小僧。今、貴様とここで争っていても我らに利益がなさそうだ。正直、我の大事な同胞を二人も傷つけた貴様には相応の報いを受けさせねば気がすまん……が、我らも逃走中の身よ。貴様とやり合って時間をつぶせば、ここに
不意に|羨望≪インヴィー≫は放出していた黄金の|心想因子≪オド≫をスッと消すと、かなりの上から目線で、祢音にそう言った。
その物言いに若干カチンと来た袮音。明らかに自分が上だとでも言わんばかりの発言に、プライドが刺激されたのだ。
「随分と上からだな。俺がお前ら犯罪者を見逃すと思うのか?」
「強がりはよせ小僧。確かに貴様が万全の状態なら、我とも張り合えただろう。だが、
「……」
祢音の使う魔法の完全無効化とでもいうべき力。
アリアは祢音のこの力のことを『
一見かなり強力で便利な力に見えるが、その実、無効化に必要な
生まれながらに
そんな祢音だからこそ、身体強化に回す
この刀剣型MAW【アノリエーレン】は吸収、形成と二つの補助効果を兼ね備えた祢音専用機。ただ、むやみに放出するだけだった昔とは違い、力を集中させやすくなった分、かなり
だがそれでも、今回の学園襲撃や
現在祢音の残りの
表向き余裕そうに見えるが、祢音も少なくない疲労を感じていた。
(身体強化を維持できる量残して、使える
思考するように祢音は今の自分の状況を分析する。
対峙する三人の敵。感じる実力から見ても眼前の
近づく気配が加われば、状況も変わるが、それは相手も承知のことだろう。なりふり構わず、冥を狙ってくることになる。それを守りながら戦うことは、今の祢音にはできなかった。
冥の命と敵の捕縛。
結果、それを天秤にかけた時、祢音は前者を選択するしかなかった。
祢音の放つ圧力が弱まる。
それを見て、
「ふん、賢明な判断だな小僧。……いくぞ貴様ら」
その声に従うように、残りの三人も背を向ける。しかし、
「僕の腕を切り落としたことは絶対に忘れないよ。お前のことは覚えとくからね。いつか絶対僕の人形にして、使い捨ててやるから!」
捨て台詞を吐き捨てた。
それを終いに、彼ら
祢音はただそれを見つめることしかできず、自分の未熟さや実力不足を感じて、悔しさに打ち震えることしかできなかった。
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