第102話 危機再び
異常事態になった事は中央制御室にすぐに伝わった。電力を一定に保つ装置が異常アラートを上げたのだ。
「一体何が起こってるんだ、江口」
「この建物全体の電力が落ちている。いや、どこかが集中的に電力を使い込んでいる」
「何だって?」
近藤の野口はガラス越しにMISAKOを見た。MISAKOからは通常有り得ないような煙が上がっていた。
「おい、このMISAKOから煙が上がってるぞ!」
「江口社長。MISAKOがスタックオーバーフローしました。情報の過大入力が起こり、電力を必要以上に要求し、頭脳冷却が追い付かず、CPUごと焼けている可能性があります」
社員が事細かに説明する。確かに、ガラス越しの温度は規定の温度よりも高くなっていた。あの青年も倒れないか心配である。室内温度は四十度を超えていた。
「江口君! ここは一旦ストップだ! 頭脳が完全に焼けてしまう! 本丸サーバー自体の温度も急激に上がっている。やはり、リセットJを行いながら問題解決はさせるべきではない!」
河本大臣が駆け寄る。確かに、このままプログラムを走らせれば頭脳諸共焼け切ってしまう。だが、このチャンスを逃せばリセットJが先に完了していしまい、修正パッチは流れない。
「リセットJ完了まで残り何分だ」
「残り、二十分です」
「駄目です、河本大臣。ここで止めたら修正パッチが適用されません」
「最初からやり直せないのかね!」
「無理です。青年の体力的にも二回目は無理でしょう。それにリセットJが終わった後に行った場合、AIがどこまで修正パッチを聞き入れてくれるか分かりません。リセットJでAIを一時的に拘束しているからこそ、あの修正パッチは意味を成します」
「くそ、ここに来て危機再来かよ……。江口何とかならないのか?」
近藤が苛立っていた。無理もない。ここまで何とか危機的状況を乗り越えて辿り着いたのだ。私だってアンドロイド・ディベロップメント社を解体するという舵取りを行ってこの状況まで漕ぎつけている。ここで失敗すれば株主に言い訳がつかなかった。
「方法としては一つある。冷却塔のパワーをフルにしてこの本丸サーバー室ごと冷やしてMISAKOを冷却させる。──だが、電力をMISAKOに持っていかれている以上、不可能に近い」
「駄目じゃないか!」
近藤が怒鳴る。野村も唸っていた。河本に関しては天を仰いで今にも死にそうな顔をしている。その時、中央制御室を出入り口から人がなだれ込んできた。
「江口社長! 社棟の電力が急速低下しています! インフラチームでは今ワット数を最大に上げていますが、それでも賄いきれない状況です。このままでは主幹が落ち、本丸サーバー以外のテクノロジーも止まってしまいます!」
白髪長髪のインフラチームの責任者が慌てた様子で報告しにきた。なるほど、もうこの建物で電力を供給する事は難しい訳か。
「となると、後出来るとしたら、外部からの電源供給ぐらいだが……。今すぐ供給出来る当てなんて、無いか……」
私は自ら発した言葉に自ら絶望した。もはや八方塞がりで、これ以上打つ手が無かった。その時だった。
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