第76話 捕らわれの身

 私は咲子と名乗る正体不明のアンドロイドから身柄を拘束された。辺りにはモールの従業員アンドロイドを囲っている状態で、美沙子さんも流石に打破出来ないと感じたのか、大人しく拘束されている。

 半ばとばっちりを受けてしまった森部とその友人だという中西も同じく拘束されている。私を探しに来てくれて、捕まってしまったと思うと、胸が痛む。咲子とタッグを組んでいるのは樋口と名乗る男だった。樋口は咲子とは違って人間だ。咲子のオーナーかと思ったが、会話をしている感じから樋口が咲子に従っている様に見えた。樋口はオーナーでは無いのか。

「さて、MISAKOには暫くここに居てもらう。AKANEを誘き寄せるための餌だ」

 極めて冷酷な性格をした咲子は美沙子さんに言い放った。美沙子さんは黙っている。 

 AKANE──恐らくさっき追いかけてきていた例のアンドロイドの事だろう。

「咲子。お前は誰からの命令で動いている。お前、アンドロイドなんだろ。アンドロイドに行動の最終決定権は無いはずだ。お前誰の差し金でやって来た」

 中西が言った。噂は森部から常々聞いていたが、彼はかなり能力の高いハッカーだとか。アンドロイドの知識に関してもかなり熟知しているそうだ。

「私を指令している人間を明かす事は出来ない。我々は極めて機密性の高い情報を保持している。──そして、AKANEと同様レベルファイブの守秘義務遂行事項を実行中だ」

 中西が目の色を変えた。かなり動揺している様だった。そういえば、AKANEもレベルファイブの守秘義務遂行事項で何も言えないと言っていた気がした。

「レベルファイブって……。そのレベルで守秘義務遂行事項を設定出来るのは限られた人間しかいないだろ……」

「どういうことだ」

 森部が問う。

「守秘義務遂行事項とは、事件や何らかの問題が発生した時、その解決をアンドロイドに手伝わせる時に発動する特殊な命令だ。レベルワンは企業レベル、レベルツーは軽犯罪、レベルスリーは殺人事件、レベルフォーは公安案件と区別されている。そして、レベルファイブは……」

「誰なんだ。レベルファイブを行使できる人間は」

「人工知能省から権限を付与されただ。公には誰が付与されているか決して公開されない。だが、レベルファイブの守秘義務遂行事項が実行される時は世界的に何らかの危機が迫っている場合のみに限られる」

「鋭いね、あんた。良くアンドロイドの世界を知ってらっしゃる」

 咲子が無表情で高圧的な拍手をした。AKANE、そして咲子はレベルファイブの守秘義務遂行事項を実行中なのだとしたら、その両方から目をつけられている美沙子さんは一体何者なんだ。

 私は今、究極の心理状態にある。

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