第73話 モール

 ブランクIDを見つけた私と馬鹿男──樋口はモール内を走った。二手に分かれてあいつらを拘束する作戦で行った。どういう訳か、ブランクID以外に人間が増えているが関係無い。

「いいか樋口。あくまで、拘束するだけだからな。絶対に殺したり、過度な暴力は振るうなよ」

「分かってるって! そこんところ、プロだから任せとけ!」

 取り敢えず、このモールの出入り口は全て封鎖した。アンドロイド・ディベロップメント社の子会社の建物である以上、セキュリティコントロールは余裕だった。

 今に待っていろMISAKO。お前が不良品である事は学習済みだ。

「時代遅れのブランクID! お前はもうこの世に居てはならない体だろう! 何故そんなに人と戯れているんだ!」



 俺と中西と直人と美沙子さんは心臓が破裂するんじゃ無いかと思うぐらい走った。恐らく、ブランクIDというのは美沙子さんの事だろう。IDがブランクであるという事は、アンドロイドの機体番号な無い事を意味しているのだろうか。そうなると、美沙子さんはやはり、アンドロイドである事が確定的になってしまう。

「森部、これは完全に罠だったんだ!」

「どういう事だ!」

 走りながら、中西は俺に言ってきた。

「この運営元であるアンドロイド・ディベロップメントの完全な罠に嵌ったんだよ。このモールは完全にアンドロイド・ディベロップメントの支配下にある。即ち、ここに直人と美沙子さんを追い込むつもりだったんだ」

 不自然に店舗を開けていたのはそのためだったのか。そして、今追いかけてきているアンドロイドを送り込んで追い詰める算段だったのか。これは完全に引っかかったかもしれない。

「そもそも、何で美沙子さんが追いかけられなきゃならないんだ!」

 直人は泣きそうに言った。こいつはどこまでも純粋だ。もはや、ここで事情を知らないのは直人だけになっているのではないだろうか。

「ここまでだ! クソガキども! 大人しく捕まれ!」

 目の前に薄汚れた男が出てきた。こいつも、あの後ろから追いかけてきている女の仲間なのか。だが、相手は一人だ。どうにかして突破出来るかもしれない。

「何とかとして突破するぞ!」

 俺は叫んだ。美沙子さんも直人の腕をギュッと握って離していなかった。美沙子さんと直人は通路左側、俺と中西は通路右側に寄って全速力で走った。

 男は両腕を広げて構えていた。これで捕まれば、終わりだ。何とか突き抜けるしか無かった。先に美沙子さんたちが男の真横に入った。男は美沙子さんを抱えるようにして腕を囲ったが、次の瞬間、男は彼方へ突き飛ばされていた。

「美沙子さん!」

 思わず声をあげた。華奢な体型からは想像もつかない威力の蹴りが男の横腹を貫いていた。しかも直人の腕を握ったままで、体勢も崩さなかった。

 後ろにいる女に舌打ちが聞こえた。



 あの馬鹿男はやはり役立たずだったか。まぁ相手が殺人機MISAKOじゃ太刀打ちできないか。──仕方ない。

 二人じゃ無理なら人を増やすしか無い。

「モールにいる全アンドロイドに通達。ブランクIDを捕らえろ!」



 女が叫んだ途端、無人だと思っていたテナントから次々と従業員アンドロイドが飛び出してきて、瞬く間に俺たちは捉えられたしまった。豪快な蹴りを入れた美沙子さんも流石にこの人数には耐えられなかった様で、取り押さえられていた。

「くそっ!」

 中西は悔しそうに叫んだ。

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