第65話 リセットJ

 リセットJを発動した俺は人工知能省へ向かった。だが、人工知能省はこの事態を把握していないのか、静寂に包まれていた。

「江口です。河本大臣に合わせて頂きたい」

 門番に私はいつものように言ったが、門番は首を横に振った。

「申し訳ございません。河本大臣は現在外出中です。何でも、アンドロイド・ディベロップメントの従業員の一人に会うからと、おっしゃっておりましたが、ご存じないんですか」

「私は何も聞かされてはおりませんが。その従業員の名前、差し支えなければ教えてくれないか」

 俺は正直焦っていた。この状況を人工知能省が把握していないのは、俺の会社にとってもある意味安全な状態だった。は人工知能省が設立される前の話だ。こんな所で明るみになったら、この業界ごと吹っ飛びかねない。

「確か──西本という方に会うとか言っておりましたがね」

 その言葉を聞いた瞬間、私は心臓が止まってしまうのではないかと思うほど体に衝撃が走ってしまった。西本と河本大臣が面会しているなど、聞いたことが無かった。嫌な予感が確信に変わることを恐れながら、私は再び車に乗り込んだ。

「ありがとうございます。会社に戻ります!」

 俺は法定速度ギリギリまで出すよう車に命じた。その時、咲子から電話が掛かってきた。

「MISAKOが遊園地を出ました。それに伴ってAKANEも遊園地を出た模様です。この機体は人体機構研究所の製品のため、リセットJの影響を受けていません。このままだと三苫前原市の中心街へ向かい、パニック状態になる恐れがあります」

「どいつもこいつも……。滅茶苦茶になってきたな! できる限り食い止めてくれ!アンドロイド・ディベロップメント本社にMISAKO、AKANEが来るのを出来るだけ遅らせろ! 本社には世界中のアンドロイド・ディベロップメント製の機体を管理しているクラウドシステムがある。そこを破壊されたら、おしまいだからな」

「分かりました。可能な限り、到達時刻を遅らせます」

 私は自分の手が震えている事に気づいた。世界はアンドロイドを求めている。そう私は信じている。

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