第64話 傷痛む

 美沙子さんともうどれぐらい走っただろうか。私の右腕と右足からは血が流れ、脈打つ度に激痛が走る。

「何とか逃げ切ったようです。ですが、いつ見つかるか分かりません。この遊園地を逃げ出す他に策はないです」

 美沙子さんは、息を切らしながら私の傷口を見た。バッグから絆創膏と消毒液を取り出すと、私の傷口に触れた。

「逃げることも大切ですが、まずは傷口の手当てです」

 美沙子さんはそう言うと、私の傷口を絆創膏で覆った。

「美沙子さん……。貴方は一体何者なんですか……」

 私は何が起こったのか全く理解出来ていなかった。何故美沙子さんは、あのアンドロイドに追われているのか。何故美沙子さんは私に隠し事をしているのか。

「直人さん。ごめんなさい。私は直人さんを巻き込んでしまいました。今まで色々と黙っていていました。私は──」

 美沙子さんは何かを喋った。その時に、近くへ例のアンドロイドがやって来たと思ったら、轟音の共に爆風が吹きさらした。

「見つかってしまいました! このまま出口へ向かいましょう」

 美沙子さんは再び私の手を引っ張ると、出口へ向かって走り出した。後ろを振り向けばすぐそこまで、例のアンドロイドが迫ってきている。

「美沙子! 絶対にお前を叩きのめしてやるからな。この遊園地を抜けようが、どこに隠れようが、絶対に逃げられないよ」

「耳を傾けてはいけません! 直人さん! 逃げ切りますよ! 行きましょう」

 美沙子さんはまるで次に破壊される建物を知っているかのように爆風を熱風を避けながら走っていく。


 俺は街頭のホログラムに映し出されるニュース速報を見て唖然となっていた。

『只今入ってきたニュースです。現在、三苫前原市にある遊園地で、大規模な爆発事故があったとの一報が入ってきました。繰り返します。三苫前原市にある遊園地で大規模な爆発事故があったようです。今の所怪我人の情報は入ってきておりませんが、あたり一面に破片のようなものでしょうか。上空カメラから破片のようなものが散らばり、飛び火しているのが確認できます』

 あの遊園地は今日、直人と美沙子さんがデートに行っている遊園地のはずだ。意識が遠くなりそうだった。俺はポケットから携帯端末を取り出すと、直人へ電話を掛けた。

「頼むから出てくれよ……」

 こんなにも、呼び出し音がもどかしく感じる事があるだろうか。色んな後悔が過った。を話して、今日遊園地に行かせるべきではなかったと、心の底から思った。

 ──結局、直人は出なかった。

「何でこうなるんだよ!」

 俺はホログラムに群がる人込みをかき分けて、ひたすらに走った。遊園地へと向かう以外に思考が無かった。

「中西! 今すぐ来てくれ! 大変な事になった!」

 息を大きく切らしながら、俺は中西に電話を掛けた。

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