第61話 遊園地
私は今、美沙子さんと手を繋いでいる。今日は待ちに待った遊園地デートの日である。例の歴史のある遊園地に私は美沙子さんと手を繋いで来ているのだ。
「直人さん、後であそこのジェットコースターに乗りませんか? きっと楽しいですよ」
「勿論です。乗りましょう乗りましょう」
いつも見せないようなはしゃぎ方をする美沙子さんを見て、本当に遊園地が好きなのだと私は心の中で感じた。彼女は波星劇団の花形でもある。もしかしたら、私に振りまいているこの笑顔や、喋り方も演技なのかもしれない。ふと、そんな事が頭の中によぎったが、考え過ぎだと暗示を掛けて、美沙子さんの行きたい所へ応えた。
例の咲子から連絡があったのは、早朝だった。
「もしもし馬鹿男。起きているか?」
「朝っぱらから馬鹿男呼ばわりかよ。──でなんだ? こんな急に連絡しやがって」
「今日、私が追っているターゲットが動きを見せた。急遽、私と一緒にそいつを追うのを手伝ってくれないか? 報酬は望む額払ってやる」
得体の知れないこの女とは例の食事をした以降会っていなかったが、妙に仲間意識がついてしまい、連絡が来てもあまり違和感を感じていなかった。
「俺を雇うのには結構お金が掛かるぞ?」
「いくらでも払ってやる。──お金の事は心配無用だ。これでも、結構稼いでいる」
「そんなに言うなら手伝ってもいい。集合場所は」
「とある遊園地だ。そこに『ブランクID』と呼ばれる正体不明なものを探している女がやってくる。そいつを拘束して事情を割らせるぞ」
ブランクIDやら馬鹿には良く分からないが、金になるならいくらでもやってやる。久々にまとまって金が稼げると思うと、心が躍った。
「事情はよく知らねぇがやってやろうじゃないか」
俺は電話を切ると、伸びた髭を乱雑に剃って、外へ飛び出した。
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