7章
第51話 風向き
美沙子さんしか見えていない直人を後目に俺は自宅のパソコンを立ち上げて世界中から情報をかき集めていた。
『森部、お前今日も大学休んでたよな。何かあったのか?』
直人からの電話だった。
「心配かけてすまないな。大学の課題が終わらなくてここ二日ぐらい寝られてないんだ。大学に行く体力が無くてね」
『そうか。まぁ、ちょっとさぼったぐらいで何も影響は無いしな。──あ、そう言えば今度美沙子さんと遊園地にデートに行くことになった』
「最初の頃はどうなるかと思ってたけど、すっかり順調じゃないかよ、直人。人生初めての彼女とそんなに上手く付き合えるなんて、羨ましい限りだなぁおい」
『褒め言葉なのか、ディスりのなのか分からない事言うなよ。人生のコンプレックスが一つ消えそうだ』
「人生のコンプレックスって大げさな。そりゃいつか人は好きな人が出来て、その時が来れば付き合う。特に大学ではそういう出会いが多いしな」
『まぁ、その辺りの話は今度飲みながら話そうぜ』
「全くだ。今は課題に追われてそれどころじゃないからな」
『それじゃぁまた』
一通りやりとりが終わると、電話を切った。全く、お気楽なやつだ。大混乱ともいえる今の世の中で、無視しきれない自分たちの社会への影響を直人の方が感じ取っていたのにも関わらず、今は俺の方が感じている。「恋は盲目」とは良く言ったものだ。
大学から出された課題をこなしている内に様々な奇妙な点を見つけてしまったのだ。今のアンドロイド産業、アンドロイド社会の根幹を揺るがしかねないある記事を見つけてしまったのだ。
「──久しぶりだな、森部」
「急に呼んですまない。中西」
「いやいや、また一緒に調べものが出来て嬉しいよ」
彼の名は中西。俺の高校時代の親友だ。彼は高校の時からネットサービスを一人で作ったり、アンドロイドを製造する会社と共同研究を行ったりと、異常な才覚の持ち主だ。
「今大学の課題でアンドロイドと地域のレポートを書かされていてな、大学図書館に行って沢山のデータを借りてきた」
「随分と大量のデータだな。まさか、これから重要なデータを抽出するとかっていう面倒くさい仕事を押し付ける気か?」
「まさか。このデータには一通り目は通してレポートの作成に取り掛かってる最中だ」
「それで?」
「今から四十年前の新聞記事を見てもらいたいんだが」
「ほうほう」
俺はパソコンの画面いっぱいに新聞記事を表示させた。それは、当時のある新聞会社の一面で、そこには『世界初の多機能型アンドロイド発売延期へ』という記事が大きく書かれていた。
「この記事のアーカイブなんだけど、不自然に後から記事をはめ込んで、元あった記事を消してるみたいなんだ」
「あーなるほど。確かに継ぎ目が少し見えるね、紙の色合いも少し変だね」
「当時は違う記事が書かれていたんじゃないかと思うんだ。別にこの記事を元にしてもレポートは書けるけど、折角ならここに書かれていた本来の記事を探してみるのも面白いかなって思って」
「大学図書が隠蔽した記事なんて見つけたら、大手柄だな。よっしゃ、引き受けようか。ここのネット回線使っていいか?」
「自由にどうぞ。俺もレポート書いてるから何か分かったら教えてくれ」
中西は自分のパソコンやらケーブルやらをバッグから取り出すと、黙々と調べ始めた。沈黙の先に出てくる答えは一体何なのか。知りたいようで知りたくない事実が出てくるのか。俺は記事と睨みあった。
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