第45話 謎の女と裏世界

 それにしても一体何なんだこの女は。まぁ銃持ってる時点で表側の人間ではないだろうが、それにしても突然過ぎる。ここは古くからの顔見知り同士が集まる場所だ。そんな土地柄を知らない連中がホイホイ来れるような場所でもない。ここの入り口には若手組が固まってチンピラどもを追い払っているはずだ。そこをくぐり抜けて来てしまうこの女の目的ってのは、一体何なんだよ。新しい人間を拒むこの空間は皆知り合いで知らない人間なんて居ない。無論女が口にした「西本」っていう男なんて思い当たる節が一切ない。

「あのお前さ、名前なんて言うの」

 取り敢えず何でもいいから話しかけてみようか。さっきから後ろから見つめてくるこいつの目から殺気しか感じない。

「私か。私は、咲子って言う。──お前はそんな情報を聞いて何になる」

「いやー、そのさ。ここで会えたのも何かの縁かと思ってね。ほら、ここ男臭くて女の子なんて久しぶりに見るからさーその──」

「黙れ」

 途端に後ろから拳が飛んできた。一体何なんだよ。とても見た目から予想できる拳の強さじゃないじゃないか。小さい頃に親父にぶん殴られた時よりも痛いぞこれは。

「痛いじゃないか! 何すんだよ!」

 だが、銃を撃ってこない辺りこの女は俺を殺すつもりは今のところ無いらしい。まぁ、嘘がバレれば確実に殺されるだろうけどな。

「お前は私に何を求めているんだ」

「取り敢えず、その殺意をそのまま表現したような目つきをや、やめて欲しいな」

「黙れカス」

「痛っ! お前何てことを!」

 また殴ったかと思えば、ここにきてムッとしてんじゃねぇよ! ちょっとヘコみましたみたい顔するなよ! お前何なの? 絶対さっきまで人殺してた奴と人格別だろ。冗談抜きでこの女の言動に少し恐怖を覚えた。無差別に銃を撃っときながら、至近距離で俺の頭をぶち抜こうとした人間には思えない態度だ。

 最悪の状況ではあるが、殺されるリスクが低くなった事だけが唯一の救いかもしれない。気色悪い女だが、まだ会話が出来るだけましか。だが、ここからどうすれば良いのだろうか。こんな気味悪い女をいつまでも連れまわす訳にもいかない。

 こんな女のとも戦えるような人物──思いたるならしかいない。西本ではないが、取り敢えずここの地区を仕切っているに会わせれば、こんな女一発で消してくれるだろう。

「こっちを右だ。着いてきな」

「所でお前、名前は」

「散々人を殴ってからいうセリフかよ」

「黙──」

「待った待った! 殴るな殴るなって! 俺は樋口ってんだ。この辺りをウロウロしている妙な連中の一人さ」

「……そうか」

「反応薄っ……」

 調子狂いもいい所だ全く。一体この女の目的は何なんだ。

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