第44話 赤
違法産物に溢れかえった場所へ今日もやってきてしまった。俺は社会を底辺を生きる人間だ。変なドラッグから可笑しな玩具を売っては僅かな儲けを出して暮らしている。もうじきこの辺りも警察の手が入るって噂だが、ギリギリまで居座って利益を貪るしかねぇと思っている。
「よう樋口。今日も例のブツ仕入れに来たのか」
「そうよ。全く世知辛ぇ世の中になっちまったもんだぜ」
「それもこれも世の中に溢れかえったアンドロイドのせいかもな」
「間違いねぇよ」
アンドロイドが仕事現場に流れ込んできて、随分の社会の様相は変わってしまった。何より、人を雇ってくれる会社がうんと減ってしまった。世の中はアンドロイドへ仕事を発注する方が安上がりだという事に気づいてしまったんだ。
お陰でその時代の波に乗れなかった連中は路頭に迷う羽目になってしまい、俺もその一人だっていう事だ。
「じいさん、今日もいつもの奴買いに来たぜ」
「よう樋口。またあのクスリか?」
「あぁ。あれ飲ませとけばたちまち人は泡吹いてぶっ倒れるからよ、その間にお金をむしり取るんだよ」
「相変わらず、エグいことやってんな樋口よ」
「そうでもしないと、俺が死んじまうよ」
「まぁ、多少は同情するけどよ」
そういいながら、くそ爺さんはいつもの如く俺にクスリを売ってくれた。なんだかんだでこんな生活をするのも七年目。慣れてはいけないんだろうが、慣れちまった。
「はいお釣りだ。受け取れ」
俺に釣りを渡してきたくそ爺さんから小銭を受け取ろうとした、その時だった。
「痛っ! うわ! わしの腕が!」
銃声がしたかと思えば、くそ爺さんの腕が半分もげかかっているじゃないか。途端に辺りの活気づいた声は悲鳴に変わり、皆物陰に隠れあがった。俺も反射的にその辺に転がっていたゴミ箱に身を伏せた。一体誰だ。
「おい、女がいるぞ。路地の入り口の方だ! 見ろ!」
誰かが声を上げた。すかさず路地の入口の方を見た俺だったが、暗くて良く見えない。だが、確実に誰かが立っているのは確認できた。
「こんな所に足を運んでくるなんて、何者だ……」
俺は息をひそめてじっと入り口を睨んだ。すると再び銃声が、今度は連続して銃弾が発射され辺りで悲鳴やら窓ガラスがぶち割れる音がけたたましく響いた。気が付けば女は俺の隠れていたゴミ箱のすぐ横にきていた。音も立てずにこっちに来るとは、人間離れしすぎている。どうせ死ぬなら、噛みついてやる。
「何すんだ! この野郎! 危ないだろうが!」
「私は、西本という男を探している。知らないか?」
「西本? 知らねぇな。んな名前の人は」
「殺す」
「やめろやめろ! ちょっと待った。もしかしたら知っているかもしれない」
一体誰の請負だ。こんな真似までして探している西本っていう男は一体何者なんだよ。
「お前、知っているのか。風の噂でこの辺りに隠れていると聞いたが」
「あ、あぁ……。案内してやるよ」
どうしようか。んな奴聞いたこともねぇよ。ただ、ここで断れば俺は殺されてしまう。取り敢えず、どこでもいいから案内しないとな。
「ついて来いよ」
女は俺の銃口をつきつけたまま俺の後ろをついてきた。周りの連中はすっかり隠れてしまって、さっきまで明かりがついていた路地裏も真っ暗になってしまって、一気に廃墟みたいになっているじゃねぇか。
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