第33話 推敲

 美沙子さんの演劇を見た日を境に環境が激変した私だが、再び壁にぶつかった。忘れてはいけないが、私は恋愛に関しては素人であり、今まで生きてきた年数に反して酷いものがある。しかしながら、片思いだった私の恋心は何という神様の気まぐれか、実を結んでしまった。それと同時に私は美佐子さんの彼氏として、彼女が恥をかかぬように行動しなければならない。繰り返しになるが、私は恋愛初心者だ。美沙子さんなどという容姿端麗な女性と釣り合うような人間ではない。

 私は森部の助言もあって、美沙子さんを遊園地へと誘おうと考えた。周りから今時遊園地なんて古臭いなんて言われたが、彼女もまた古いも好きだからきっと喜んでくれるはずだ。

 遊園地は平成時代から存在している所を選んだ。100年以上前に動画投稿サイト投稿されているのを確認したから間違いはないはずだ。

 問題は誘い方だ。美沙子さんにいかにして自然に遊園地に誘うかで悩んでいた。コーヒー屋さんに誘った時とは違う躊躇いと恥ずかしさでどのようにして誘うべきか分からなくなっていた。

 敢えて紙に手書きして渡してみるか。いや、ここは現代らしくSNSを使って誘うべきか。待て待て。そもそも付き合っているのだからもっと軽い感じで誘えばいいのか。

 考え方が散らかってしまって何一つ進まなかった。こういう時こそ森部に相談したいのだが、肝心の森部は一人旅をしたいとかで、連絡がつかない。SNSを一切断ち切って旅に集中するのが森部のポリシーらしいのだ。

 大好きなLo-Fi Hip Hop系の音楽で気を落ち着かせようとしているのだが、中々落ち着けなかった。何故なら大学の臨時休業期間がもう一週間程で来てしまうからだ。そこでデートに行きたいと考えている以上、それまでには彼女に何らかの形でで誘わなければならない。彼女とは、携帯端末で毎日欠かさずやりとりをしているが、彼女は何せ劇団の花形役という事もあって中々会えずにいた。

 ──まずは晩御飯にでも誘ってみようか。演劇の練習が終わった後にでも行けばよい。お互いお酒が入ったところで切り出すのはありだろうか。いやいや、ここはお酒の力を借りずに素面で言うべきではないか。

「あーもう!」

 私は髪の毛がぼさぼさになるまで頭を掻いた。ここはあれこれ考えを巡らせるよりか、行動を先に起こした方が良さそうな気がした。私は携帯端末を手に取って美沙子さんに晩御飯のお誘いの連絡をする事にした。

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