第20話 美沙子開演Phase3
思わずあっと声を出しそうになった。遺書を読み上げた息子が突如ユリアを突き飛ばしたのだ。
『お前さえいなければ!』
ユリアはドサッという音を立てて倒れこんだ。周りの人たちは誰一人としてユリアを助けようとはしなかった。
『ユリア。貴方が見ていた幸せなんて、幻想よ。だって、貴方は機械でしょう?』
お爺様の娘はユリアをじっと睨み付けて言い放った。そう、ユリアはアンドロイドだ。機械だ。そんな彼女に人間が持つ感情を分かられてたまるかと、娘は思っているのだ。
『お嬢様。――私はただ、お爺様に』
『お黙りなさい! 貴方一人のせいでね、私たち一族は終わったも同然よ。何で貴方に財産を渡さなきゃいけないの! 出ていきなさい! 出ていきなさいよ!』
突如舞台が真っ暗闇になり、悲しげな音楽が鳴り始めた。ユリアは一気に孤独へと突き落とされたのだった。
『人間は醜い生き物だと思いました。そんなにもお金が大切なのでしょうか。
ユリアはゆっくりと歩き始める。音楽が街の雑踏と変わっていく。
『私は街に出ました。空気は汚れていて、路地に入れば至るところで喧嘩が起きていて、金の奪い合いが起きていました。――私が見ていた世界なんて、幻なんだと思いました。お爺様が作り上げた箱庭の中で生きていたんだと実感したのです』
やがてユリアはステージの真ん中で座り込んでしまう。バッテリーが無くなってきたユリアは人間でいう飢餓の様な状況になったのだ。
『私は疲れはててしまいました。身体の中の部品は軋み、電力も後少しで尽きそうでした。捉えられる視界情報も限られてきて、私は人気の無い路地で座り込んでしまいました』
美沙子さん演じるユリアは空っぽな目をして斜め上を見つめていた。噂で聞いた演技力の高さを感じられずにはいられない目だった。もし、こんな状況に出会えば、私は何を犠牲にしても絶対彼女を助けるだろう。
そんな目をしていた。
『その時でした。――路地に一人の青年がやってきたのです』
『大丈夫ですか? 随分とキツそうだ』
舞台袖から一人の若い男が駆け寄ってきた。あの男になりたいと私は内心思った。
その時、ゆっくりと幕が降りてきてアナウンスが流れた。
「本日はこれまで! 続編をお楽しみに!」
たちまち拍手が巻き起こる。これは続きが気になる。気になりすぎる。私も大きな拍手をステージに向かってしたのだった。
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