冒険者登録
「ミナセはダメなのか?」
「私は剣士だからな」
「微妙に意味が分からん」
「そう言うヒューリはどうなんだ?」
「私は向かないだろ、こういうことは」
「微妙に納得ができん」
「私に言わせれば、二人とも意味が分からないわ。これは仕事なのよ?」
「じゃあフェリシアは?」
「私はだめ。だって、いろいろと記録に残っちゃうんでしょう? 目立つことはしたくないもの」
「一番目立つお前が言う意味が分からん」
三人の話し合いは平行線をたどっていた。
その三人に、熱い視線を送る金色の瞳がある。
三人は、その視線に気が付いて……。
「リリアはどうだ?」
「えっ、私ですか?」
口を尖らせる少女の隣で、リリアが驚く。
「私、そういうのは……」
「まあ、そうだよなぁ」
候補から外れたリリアを横目に、再び輝き出す金色の瞳。
「シンシアは……まあ、無理だな」
「ムゥゥゥ」
「だってシンシア、初対面の相手じゃあまともに話せないだろ?」
「……」
悔しそうにうつむくシンシアの肩に優しく手を置きながら、三度その瞳が主張した。
三人は、互いを見やり、腕を組み、あるいは頬杖をついて考える。
やがて、仕方がないという表情で、ミナセが声を掛けた。
「ミア」
「はいっ!」
元気に手を挙げて、ミアが立ち上がる。
「いや、立たなくてもいいんだが……」
ミナセが、呆れとも諦めともつかない声でミアに言う。
「言っておくが、登録するだけだからな」
「はい、分かってます!」
「今のお前じゃあ、何にもできないんだからな」
「はい、おっしゃる通りです!」
「……じゃあ、ミアに頼むか」
「やったぁ!」
満面の笑みのミアを、全員が呆れ顔で見る。
「ミアさんって、ほんとに怖いもの知らずですよね」
ぽつりと言ったリリアの言葉に、全員が頷いていた。
話は、一時間ほど前に遡る。
「物的証拠は、残念ながら見付けられませんでした。現時点では、いくつかの証言と状況証拠だけしかありません」
「ということは、やはりアウァールスの線しかないってことか」
「そうですね。今のままでは、伯爵家を問い詰めることはできないと思います」
フェリシアの報告を、腕組みをしながらマークが聞いている。
「となると、アウァールスの情報を、冒険者ギルドで仕入れてくる必要があるな」
冒険者ギルドのことは、マークを含めて社員一同よく分かっていなかった。
登録は誰でもできること、ランクによって受けられる仕事が変わること。それくらいしか、みんなは知らない。
そこで誰かが登録をして、アウァールスの情報を入手することになったのだが、なぜかこれが決まらない。
そして結局、怖いもの知らずのミアが手を挙げたのだった。
「いいか、ミア。登録をしたら、アウァールス討伐の依頼内容だけを聞いてくるんだ。登録したばっかりじゃあ仕事は受けられないだろうけど、高いランクの仲間に相談するとか何とか言って、どうにか情報をもぎ取ってこい」
「了解です!」
ミナセの言葉に、ミアは力強く頷いた。
一歩足を踏み入れた瞬間から何かが違った。
大きな違和感を感じる。
これって、なに?
ミアは周りを見渡し、そして気が付いた。
そうか! ここにいるみんなが私を見てるんだ!
なるほどなるほど
違和感の正体が分かって、ミアはホッとする。
そして、トコトコとカウンターまで歩いていき、三つあるうちの、空いていた真ん中の窓口の女性に言った。
「すみません、登録がしたいんですけど」
どよどよ、ざわざわ……
不思議なさざ波が広がっていった。
だが、ミアは気にしない。
「登録って、こちらでできるんでしょうか?」
「はい……」
答えながら、女性はまじまじとミアを見た。
武器なし、防具なし、しかもサンダル。
可愛らしいショルダーバッグを肩から斜めに掛けて、少女はにっこりと微笑んでいる。
光り輝くブロンドの髪と、幼さを残す可愛らしい容貌。その容貌とは対照的な、メリハリのある体のライン。少女が前に立った時から、どこからか不思議な香りまで漂い始めている。
男女を問わず、ギルド内にいる全員がその少女に目を奪われていた。
女の登録希望者は珍しくもないが、この子はどう見ても、らしくない。チケット売場で「大人二枚!」と言っている雰囲気だ。
「えー、こちら、冒険者ギルドですが……」
念のため聞いてみる。
すると、やっぱり元気な答えが返ってきた。
「はい、知ってます! 私、冒険者の登録がしたいんです!」
女性は諦めた。
チラリと周りを見ながら、一枚の用紙をミアに差し出す。
「分かりました。では、記入要領を見ながら、この用紙の欄をすべて埋めてください」
「はい!」
ミアは、備え付けのペンを握り締めて、とっても嬉しそうに記入を始めた。
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