第60話 透明な季節

  モモコとイリコとマティコが制服姿で

 河川敷を歩く。朝の学校までの道のり。

 梅雨明けの空は全てのものが輝いて見えた。

 

 途中の大きな樹のある広くなった場所で、

 鞄を置いて歌いながら踊り出す3人。

 山のふもと、田舎の景色。ゆっくり流れる

 時間。

 

 やっと教室に辿り着く3人、すぐに朝礼が

 始まる。すでに校長が台の上に立っている。

 先生たちも並ぶ。200人ほどの学生の列。

 

 慌てて加わる。

 

「あー、あー、ちょ、ちょ、朝礼を」

 

 誰かの携帯端末だろうか、メロディが

 なり始める。

 

「あー、えー、ちょ、ちょ、朝礼をは……」

 

 今度は校舎のスピーカーがビートを

 刻み始める。

 

「ちょ、ちょ、ちょちょちょヒアウィーゴゥ」

 校長がカクカクと踊り出し、2小節後に

 先生たちがそのカクカクダンスに加わる。

 

 同時に生徒たちが煙幕に包まれる。数秒後、

 生徒たちの衣装は制服から民族的なもの

 に変わっていた。

 

 200人の生徒は、4つのグループに分け

 られている。黄色を基調とした男性の

 グループ、灰色の衣装の男性のグループ。

 

 水色の女性のグループ、白の女性のグループ。

 黄の男性と水色の女性のグループは、

 金の刺繍も入り、装飾品も付けて派手な

 イメージ、かつての海上都市レムリアの

 雰囲気だろうか。

 

 灰色と白のグループは少し落ち着いた感じ、

 男性の方は独特の髪型。女性は、ヒラヒラ

 とした白の衣装に花弁の柄。

 

 それぞれのグループがダンスミュージック

 に合わせて順に踊り出す。まず黄色の

 男性のグループ、マティコが赤い衣装の

 男装でリードする。コミカルな動き。

 

 次に水色の女性のグループを、青い衣装の

 イリコがリードする。早い手の動きが

 特徴的な魅惑的なダンス。

 

 そして灰色の男性のグループを、黒い衣装

 の長身の美男子がリードする。力強い

 動き、武術の形のような舞い。

 

 そして、いったん静かな曲調に変わり、

 白い衣装の女性のグループを、同じく白の

 衣装、山に花弁柄のモモコが躍る、伝統

 舞踊の雰囲気。

 

 しかし、途中から曲調が段々と盛り上がり、

 白い衣装の女性たちは徐々にトランス状態と

 化していく。着衣がはだけ、ストリップ

 ダンスの様相を呈してきた。

 

  その劇場のフロアは、一階がフリース

 ペースとなっており、観客は自由に踊ったり

 歌ったりしながら参加できる。

 

 劇場の二階と三階は、着席して落ち着いて

 観ることができる。

 

 今まさに4つのグループが同時に踊り出し、

 それぞれのグループの頭上に巨大な立体

 映像の4柱の男女の神々が現れ、空中を

 ぐるぐると回りながら踊り出す。

 

 やがて煙幕の中で先生と生徒たちが居なく

 なり、モモコ、イリコ、マティコと黒い

 衣装の男性だけが残る。

 

 曲調が数分おきに変わり、4人は入れ替わり

 で踊る。ディスクジョッキーが選んだ曲に

 合わせての即興のダンスだ。

 

 立体映像の神々は、この4人の動作を

 トレースしているようで、よく見ていると

 同じ動作をしている。

 

  やがてその4人がいなくなり、

 ディスクジョッキーのブースが出てきて

 ダンスフロアとなる。その後、ピアノ

 ソロやオーケストラの演奏と続き、

 

 フロアが落ち着いたあと、再び朝礼の

 場面となり、次は異なる地域の神の

 ダンスが始まる。

 

 このフロアの隣にも同じサイズのフロアが

 あり、そこは悪魔のダンスがテーマと

 なっている。

 

 そこにモモコとイリコとマティコが夢魔

 の衣装で登場し、ダンスを見せる。そこは

 男装なのか女装なのかよくわからない、

 化け物じみた、妖怪じみたダンサーたちが

 おどろおどろしい舞いを繰り広げる。

 

 

  モモ・テオたちが、一風変わった現代劇

 やミュージカル風のダンスショーに出演

 するのは、全体のだいたい半分ほどで、

 それ以外は、ほとんど伝統演劇だ。

 

 例えば、その次の週末は、地元のお祭りに

 合わせて舞台で伝統舞踊の演目がある。

 3人で、静かな曲に合わせて静かに舞う。

 

 夕方のまだ明るいうちに屋外の舞台で舞い

 を披露し、そのあとはたいてい禍福社の

 夜店が出て、同じく禍福社が手配する

 花火なども上がる。

 

 舞い終えたモモ・テオたち三人は、バンカラ

 風の格好で祭りの中を歩く。金剛石の4人が、

 出店で焼きそばを売るのを手伝っていた。

 

 重力ありの宇宙構造都市は、比較的惑星時代

 の文化を強く引き継いでおり、構造都市

 ごとに特色がある。

 

 こういった祭りの風景は、曼陀羅型

 9999番以外にも観ることができるが、

 全体として比較的珍しいもののため、

 遠方からも観光客が訪れたりする。

 

 ビャッコブロックは、この9層だけでなく、

 どの階層でも様々な祭りが毎年行われて

 いるからだ。

 

 特に8層目で行われる、アホウ祭りの中の

 アホウ踊りは、大通りを数万人の市民が

 踊る総踊りが中間都市の中でも特に有名だ。

 

 そして7層目では、巨大な神輿同士がぶつ

 かり合うケンカ祭り。毎年死傷者が出る

 ぐらいの激しい祭りだが、その地元出身者

 は必ずその時期に帰郷して祭りに参加する

 という。

 

 

  モモ・テオは、恒星系の惑星上での

 暮らしに強い憧れを抱いていた。彼は、

 太陽系にも半獣半人座星系にも知り合いが

 いて、その知り合いが送ってくる映像を

 見てさらに憧れを強めた。

 

 まず最も違うのが、地平線や水平線だ。

 惑星が球面上に居るのに対して、宇宙構造

 都市は円柱の内面に住む。

 

 惑星上に住む人間には、それはそれで見て

 みたい風景となるようだが、星系内には

 そういった宇宙構造都市も存在するため、

 興味があれば行くことができる。

 

 しかし、中間都市に住む人々は、どれだけ

 長生きできたとしても、どちらかの恒星系

 に辿り着くことはできない。

 

 死んだ後の骨をどちらかの恒星系の惑星上

 で自然葬や墓に入れるサービスまで存在する。

 けして出来ないこと、には人々はどうしても

 強い気持ちが湧いてしまうようだ。

 

 したがって、モモ・テオに限らず、中間都市

 に住む多くのひとが、そういった惑星の

 暮らしに憧れる。

 

 人類が、自らの力で、資源以外何もない

 宙域に、恒星や惑星を再現できる日はくるの

 だろうか。

 

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