第50話 曼陀羅とダイス

  ニコロ塾は、けっきょくその大会で

 ベスト16で終わったわけだが、

 ニコロス・ニコロディ塾長の機嫌はその後

 どんどん良くなっていった。

 

 ひとつには、キムラ塾がそのあと決勝まで

 進み、けっきょく優勝したこと。そして、

 他のチームが、引き分けはあったものの、

 キムラ塾から一勝も挙げられなかったこと。

 

 翌日の個人戦、ニコロ塾はエントリーして

 いなかったが、キムラ塾はポイント

 ゲッターの3人とも優勝する結果となった。

 

 一方キムラ塾の塾長、マサコ・キムラの

 機嫌が少し悪かったのは、それだけ今回の

 メンバーに自信があったからだ。

 

 でも、今回の苦戦をそれほど深刻に考えない

 のは、地方大会とは言え、こういったことが

 起こり得るのを経験上知っていたから。

 

 キムラ塾は、その後曼陀羅大会で

 優勝し、宙域大会で優勝し、宇宙大会で

 ベスト4となる。団体戦は、特にトウドウ

 選手の活躍が大きく光った。

 

 リチャード・キムラは、宇宙大会個人戦で

 優勝してしまった。その時は、ニコロ塾

 と戦った時より数段強くなっていたが、

 

 彼が市民大会後にさらに練習に打ち込んだ

 理由に、ニコロ塾との対戦での経験や、

 ニコロ塾の対戦相手が実は女性だと後で

 知ったことなどが、少なからず影響して

 いた。

 

 

  ヴァイ・フォウたちが、ダウンヒルや

 サンボの大会を行っていたのは、いったい

 どこの都市なのだろうか。

 

 太陽系から、約4光年の位置に、ケンタ

 ウルス座星系というのがある。この、

 太陽系とケンタウルス座星系のちょうど

 中間地点にある都市。

 

 単純に、中間都市、とも呼ばれるが、

 現在人類は、太陽系以外の恒星系として

 ケンタウルス座星系にしか進出して

 いない。

 

 従って、中間都市といってもひとつしか

 ないのだが、今後進出する恒星系が

 増えるごとに、呼び方を検討しないと

 いけなくなるかもしれない。

 

  その中間都市に、曼陀羅型都市、と

 呼ばれる宇宙構造都市がある。

 

 太い円柱型、と言えばよいだろうか、全体

 構造は、直径300キロ、幅が200キロ。

 

 元々、バームクーヘン型都市、とも呼ばれ

 た時期があったが、直径100キロの

 無重力ユニットで中央部が埋められた

 ため、曼陀羅型と呼ばれるようになった。

 

 半径50キロから150キロの部分は、

 回転して重力を生むようになっている。

 そのドーナツ型の構造は、4分割され、

 内部は階層化されている。

 

 その100キロ幅を、10階層に区分

 されているのだが、かつて恒星間を

 移動した、移動都市と呼ばれる建造物は、

 その中が50階層にも分割されていた

 らしい。

 

 つまり、過去の建造物に比べると、かなり

 余裕のある造りになっている。階層の

 地面から天井までが、約8キロほどある。

 

  この曼陀羅都市が、中間都市と呼ばれる

 宙域に、1万基ほどある。

 

 この曼陀羅型とは別に、キューブ型都市、

 というものがある。300キロ立方の

 都市だが、実際は、100キロ立方の

 都市が27個集まって出来ている。

 

 そのほかに、螺旋型、というのもあるが、

 それは後ほど訪問する機会があるだろうか。

 

  曼陀羅型都市は、4つのブロックに

 分割されている。それぞれ、セイリュウ、

 スザク、ビャッコ、ゲンブと呼ばれる。

 

 曼陀羅型都市は数が多いので、一般に

 番号で呼ばれるが、ヴァイ・フォウのいる

 場所は、曼陀羅都市9999番、ビャッコ

 ブロックの、10階層のうちの9層目、

 ということになる。そこが舞台だ。

 

 ビャッコブロックは、約1億人が住む。

 10階層にそれぞれ1000万人が

 住むが、上層にいくほど面積が狭く

 なるので、人口密度が上がる。

 

 他のブロックも同様に一億、曼陀羅都市

 中央の無重力ブロックにも、1億の人が

 住むため、曼陀羅型全体で約5億人が

 住むことになる。

 

 

 「あいつ、絶対10年に一人の逸材だよ」

 

 ヴァイの置いたグラスが思った以上に大きな

 音を立てたため、隣に座るオンドレイが

 周りの客に目で謝る。

 

「でも、それに勝ちかけるって、ヴァイねえ

 もほんと凄いって」

 ワルターの言葉に、お前もうそれ5回目

 じゃねえ? と返すオンドレイ。

 

「でもなあ、フォーナインで最凶と言われる

 レディースチームから毎年勧誘がくる

 ぐらいだからなあ、総長直々に」

 ヤーゴが久しぶりに口を開く。

 

「大将、えんがわ握ってくれない?」

 ヘイゼル山の麓、パイン市のパイン駅近く

 にある、居酒屋のカウンターに並ぶ4人。

 

「そういやあさあ、また秘密結社の活動ある

 よね」

「来週だっけか」

「へいえんがわ」

「そろそろ決着付けないとな、うめぇこれ」

 

 そこへもう一人到着する。

「ごめんごめーん」

 アナ・ボナがやって来て、ヤーゴの隣に

 座る。5人で乾杯しなおす。

 

「キムラ塾にしばらく通ってたんだって?」

 ヴァイがアナに尋ねる。

 

「うん、キムラ塾長から、軽量級の背負い投げ

 の防ぎ方を叩き込みたいって」

 

「キムラ塾のトウドウだったら一発食らえば

 もう憶えるだろ」

 

「他の選手のレベルアップもあったんじゃない」

 答えるアナ。

 

「そういやあさあ、アナねえは軍に行くとか

 聞いたよ?」

 ワルターが真ん中で声を上げる。

 

「うん、おれ、軍事の適正あるの判明したんだ」

 この4人といると、なぜか一人称がおれ、に

 なってしまうアナ。

 

「一番上の兄貴もだろ?」

「うん、まあ兄貴とおれは軍事と言ってもだいぶ

 分野が違うけど。兄貴はどちらかというと

 戦略系、それも作戦立案とかで、おれは人型

 機械の操縦」

 

「かっけえ!」

 喜ぶ男3人だが、

 

「近いうちに衝突があるって?」

 ヴァイが深刻そうに聞く。

 

「らしいけどね。でも、まず訓練から入るから、

 実戦出るのはだいぶ先だと思うよ」

 

 彼らの国では、飲酒は年齢ではなく、適正に

 より飲める量などが制限される。ふだんは

 サンボのトレーニングなどもあり、ほとんど

 飲まない彼らだが、久しぶりに遅くまで

 飲むこととなった。

 

 アナはすでに18歳までの教育課程を全て

 終えているが、他の4人は高校に行って

 いない。

 

 そのかわりに、ニコロ塾の寺子屋に午前中

 通っているのだが、翌日は寺子屋もサンボ

 の練習もなかった。

 

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