第40話 花形と裏方と

  金属のウロコの上を、焦らず慌てず

 歩いていく。近づいてみると、標的の部分

 の二か所は、なんとなくこんもりと盛り

 上がって見える。わかり易い。

 

 下を見ると、白狐旅団と麒麟旅団が派手な

 戦いを繰り広げている。シャビ・タトの

 アクロバティックな剣技が決まり、

 そのすぐあとにゾエ・ディエの豪快な

 魔法が決まる。

 

 まるで何かを競いあってでもいるかの

 ような光景だが、こちらもそろそろその

 争いに参加しよう。

 

 ヨミー・セカンドの話では、なるべく

 間断を置かずに、二か所を攻撃したほうが

 よいという。片脳が落ちたときに、巨竜が

 どのような挙動を示すかわからないからだ。

 

 兵は拙速を貴ぶ、それはわかるのだが、

 スピードに加えて、確実性もおれは求め

 たい。まずは軽く巨竜の急所ではない

 ところをゴンゴンと叩き、感覚を掴む。

 

 巨竜のステップの揺れの感覚も掴む。

 武術というのは、最終的にはスピードじゃ

 ない、リズムだ。小脳をフル回転させて

 打撃のイメージを作り出す。

 

 尻尾側から見て、右側をそこそこの力で

 ゴーン、と叩く。そして、すぐに数メートル

 下がり、ダッシュして、ジャンプして、

 思いっきり叩く。

 

「よーういっしょ!」

 

 入った。金属ではない何かを叩いたような

 鈍い音。巨竜は、片脳を潰されたような

 反応は見せない。予備側だったか。

 掛け声が独特なのは無視してくれ。

 

  そして、すぐにまたいったんそこそこの

 力でもうひとつのコブを叩き、すぐに

 下がって、ダッシュ、ジャンプ、思いっきり

 叩く。

 

「よーっしゃはーっ!」

 

 その間、巨竜が暴れて振り落とされる、という

 ことはなかった。一瞬間を置いて、ドーンと

 いう音とともに、巨竜の腹が着地する。

 

 巨竜が動かなくなった後、念のためもう一発

 づつ打撃を決めておく。これでいいだろう。

 

 スヴェンとアントンが梯子を持ってきて

 くれる。一仕事終えて、ゆっくりと

 降りていく。

 

 宿営地は歓声に包まれていた。しかし、

 その歓声は、どちらかというと白狐旅団の

 シャビ・タトと、麒麟旅団のゾエ・ディエに

 向いているようだ。

 

 理由は分かっている。このベルンハード・

 ハネルが二つ目のコブに打撃を決めたすぐ

 あとに、より派手な剣技と魔法が同時に

 決まっていた。

 

 おれが決めに入ったのを確認してのことだ。

 

 シャビ・タトもゾエ・ディエも、おれの

 ほうを見て親指を立てる。ここにいる旅団の

 メンバーは、よく分かっていてジョークの

 つもりで剣士と魔法士を讃えているが、

 素人が見たら完全に勘違いするだろうな。

 

 しかし、おれの技はあまり良い子がマネ

 してはいけない技だ。こういう扱いのほうが

 助かる。今回の攻略の様子も、編集されて

 そのうち配信されるだろう。 

 

  その日はそこで宿営となった。

 巨竜を倒したものの、翌日からは地下9階だ。

 確実に難易度が上がる。麦酒で一杯、という

 雰囲気にもならなかった。

 

 そして翌朝、臥龍旅団と神姫旅団がまず合流。

 上級クラスの旅団も続々と到着。計18旅団。

 教国の多脚型アンドロイドも合流し、地下

 8階の階層ボスの部屋周辺に駐屯する。

 

 そして、その位置から上級クラス旅団が

 南側エリアを攻略していく。

 補給部隊も到着し、食料や魔法デバイスを

 供給し、恒久的な照明を設置していく。

 

 

  トップ12旅団が地下9階へ進む。

 階段を降り、北へ進んでから反時計回りに

 回り込むパターンだ。

 

 しかし、少し変なのが、北側エリアに入る

 通路や扉がない。しばらく進んで、西端に

 達したとき、ブロックごとに扉が並んで

 いるのがわかった。

 

 そして、中央通路が無いことが判明する。

 西端の通路に南北にズラリと扉が並ぶ。

 とりあえず、扉を一つ開けてみる。

 

 事前の解析からもわかっていたが、その中

 は巨大な空間が広がっていた。

 18ブロック四方の空間。その中央奥に、

 階層ボスのいるブロックがある。

 

 そして、明らかに次の相手であろう、

 2キロ近い距離にたむろしているのが

 わかる。浮かんでくる言葉は、そう、

 闘技場だ。

 

 向こうもこちらに気づいているはずだが、

 近づいてくる気配が無いので、いったん

 扉を閉めて作戦会議だ。扉の向こうには

 各探査ドローンが残されて、様子を

 見ている。

 

  まずは向こうの戦力だ。6人の冒険者

 グループが、18ある。一ブロックづつ

 ひとつのグループが、南北に並んで

 いるかたちだ。

 

 見た目は冒険者だが、おそらくアンドロイド

 だ。そして、役割分担もできている

 ようで、戦士、魔法士、剣士、弓兵、銃士、

 治癒士などがいる。それぞれグループにより

 構成が異なる。

 

 そして、北寄り、向かって左側が、より

 防御的な構成、南寄り、向かって右側が

 攻撃的な構成のようだ。

 

 人数は偶然にもこちらと同じ、そして、

 質も含めてほぼ互角のようだ。戦い方に

 工夫がいる。

 

  こちらの布陣が検討され、発表される。

 全体を、3つに分ける。中央の主力が、

 白狐、麒麟、鳳凰、神亀の4旅団。左翼が、

 臥龍、神姫、狂獣、甲殻の4旅団。右翼が、

 纏魔、陰陽の2旅団。予備が玄想と百足

 の2旅団。

 

 左右非対称な、斜線陣と呼ばれるものだ。

 それぞれ、中央、北側、南側と別れ、

 同時に扉を開けて入る。

 

 相手はこちらが3隊に分かれたのを見て、

 6グループづつに別れてこちらに

 接近してくる。

 

 このままいくと、ほぼ中央の位置で両軍

 が激突する。ある程度近づいた段階で、

 各旅団の団長が攻撃命令を下す。

 

「抜刀ーっ!」

「構えーぃ!」

「乱戦よーぃっ!」

 

 旅団ごとに異なる声が飛び交う。

 

 玄想旅団も予備でスタートだが、12人

 全員で戦う。いよいよ地下9階、闘技場での

 戦いが始まった。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る