第25話 混乱の半獣半人

  半獣半人座星系が、どのような状況なのか、

 それについても見ていこう。

 

 半獣半人座星系は、人類が到達して以来、最大

 の危機を迎えている、と言っていいかも

 しれない。

 

 ヤースケライネン教国、という国が星系内で

 最大の領土と人口を持っていたが、この国の

 国教であるシアジアン教は、反発展主義を

 掲げていた。

 

 人類は、元来愚かである。そのような種が、

 生息域を広げてはならない、という考え方だ。

 

 ヤースケライネン教国は、その宙域を拡大し、

 やがて星系内を統一し、そして、全てを

 管理しようとしている。

 

 人口も経済も科学技術も、すべて収束させる

 方向だ。そして、この考え方が、中間都市、

 つまり、半獣半人座星系と太陽系の中間に

 ある都市や、太陽系そのものにも広がりを

 見せようとしていた。

 

 半獣半人座星系は、三つの恒星を持つが、

 そのうちのふたつまでがヤースケライネン

 教国の宙域となり、最後のひとつの

 恒星周囲に、反発展主義と異なる考え方の

 国々が集まって抵抗を続けていた。

 

 この惑星セトでは、ほぼヤースケライネン

 教国の領土となっていたが、ラスター

 共和国という国が、それに反発して

 頑張っていた。

 

 イゾルデ王国は、この騒動が起きてからの

 百年余り、ずっと中立を貫いてきた。

 

 

  青い巨人を捕獲したのち、一週間ほどの

 準備期間を経て、ニコリッチ商会の支店が

 ある、トロンドヘイムという町を出る。

 

 そこから、100キロ近く離れた集落へ、

 三日かけて移動する。一種の限界集落で、

 人の住まなくなった大きな農家を借りて

 しばらく滞在する。

 

 そこからさらに三日の距離に、目的の洋館が

 ある。そして、洋館の位置から5キロの

 地点に、廃砦がある。

 

 そこはまだイゾルデ王国の領地で、

 ヤースケライネン教国の領地までは、さらに

 数百キロある。その間は荒れ地と砂漠と

 低い山岳地帯で、町や村などもなく、

 戦略的にはほとんど価値のない地域だ。

 

 その廃砦に、盗賊の一団が入るという

 情報が入っている。岩狼旅団という60名

 ほどの賊の集団であり、イゾルデ王国と

 ヤースケライネン教国の国境付近に居を

 構えて遠征などしていたようだ。

 

 しかし、最近ヤースケライネン教国に旅団

 ごと買収された可能性がある、という情報が

 入ってきた。

 

  それと同期するかたちで、別の情報も

 入ってきていた。洋館に関してだ。

 

 その洋館は、イゾルデ王国の王族のうちの

 一人が私物として所有していた。そこは、

 ニコリッチ商会の、数万年前の頭首の遺品が

 運び込まれていた、という話だ。

 

 その遺品とは、家具類などとともに、反出生

 主義という思想に関連した書籍が多数あった

 という。ヤースケライネン教国の反発展主義

 は、その反出生主義の思想に大きく影響を

 受けている、というのが一般的な解釈だ。

 

 つまり、イゾルデ王国が中立を保っていられる

 理由も、ヤースケライネン教国にとって、支え

 となる思想が生まれた聖地に近い扱い、という

 ことなのかもしれない。

 

 また、外交の面でも、そういった国の起源に

 関連した思想を、文化保存の意味で協力して

 やっていこう、といった内容で文化面の協力も

 合意もしていた。

 

  最近になって、イゾルデ王国内の富豪から、

 その洋館の賃借の申し出があったのだ。

 将来的に、文化保存の意味での洋館の移転、

 あるいは逆に、周辺環境の整備、などを見越し

 ているとのことだが、

 

 その富豪の、経営している主力会社の取引先が

 ヤースケライネン教国と関係が深い。教国の

 思惑が絡んでいるとみて間違いない。

 

 そこから、ニコリッチ商会の戦略企画部では、

 教国の重要人物の訪問を予測したのだ。

 

  ところで、そのニコリッチ商会、現在は

 どういった考え方を持っているのだろうか。

 現在は女性頭首、イルメリ・ニコリッチが

 トップに就いている。

 

 40代前半という比較的若い頭首であるが、

 実際のところ、心情的に反出生主義にも、反

 発展主義にも一切賛同できない。

 

 かつては反出生主義を信奉する頭首もいたかも

 しれないが、もう数万年も前の話である。

 だが、状況的に、反出生主義寄りと見せたほう

 が良さそうなので、そうしている。

 

 秘密裏にラスター共和国とも関連企業を通して

 連絡はとっている。

 

  第2種戦闘配備による移動でオップダール

 という集落に到着する。ここまでは特に問題

 なし。現場隊は建設業者の、本部は旅行者の

 いで立ちだ。

 

 民家は、もともと民宿に使用されていたとの

 ことで、12名でも広さは充分。商会の

 人間がすでに掃除も済ませていた。

 

 ここでの滞在期間は、廃砦に盗賊集団が、

 あるいは洋館に重要人物らしき者がいつ入るか

 に依存する。それまでは、商会の補給がある。

 玄想旅団が出発したあとは、商会の担当者が

 入り、補給拠点となる。

 

 この集落の農家からも、食料を買うことは

 可能だ。ホビット族の双子、イズミ・ヒノと

 ナズミ・ヒノは、こういうときに活躍する。

 

 実際そうなのだろうが、田舎から来た人間

 を好演するのだ。近所の人たちに、すぐ

 信用してもらえる。

 

 現場隊の中では人相のいいシャマーラ・

 トルベツコイも出て行って、食料調達に働く。

 他の5人は、とにかくニコニコしていろと

 言われている。

 

 この集落は、出稼ぎに行ってしまったのか、

 男性の姿がほとんど見えない。そこへ、

 こんな体格の男が5人もいると、それは

 あまり歓迎されるものではないだろう。

 

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