第24話 理想と現実

  その女性は、ニコリッチ商会、

 惑星セト営業部、庶務担当のマチルダ・

 マルチネスです、と答えた。

 

 20年前に、ミス・ニコリッチも取った

 ことのある、元美人だ。

 

 つまり、若手冒険者グループを対象とした

 コンテストに、熟練者としてデモを行った

 のだ。出てきた敵はすべてニコリッチ商会

 で修理可能なアンドロイドだ。

 

 その様子は、リアルタイム配信されていた。

 彼らが持っていた武器は、ふだんとは

 違うもので、それぞれニコリッチ商会に 

 臨時で借りていたものだ。

 

 おれは巨大な剣、アントン・カントールは、

 方天画戟、スヴェン・スペイデルは、

 銀色に輝く槌がふたつ。今回盾はなし。

 

  今回のコンテストは、若手にとっては

 かなり高難度だ。まず、3分の1のグループ

 が、最初の落とし穴にはまる。

 

 内部の対策に集中しすぎてしまうのだ。

 落とし穴は、バランス感覚の重要性を教える。

 全員が落ちなくても、一人でも落ちれば

 もうそのあとの攻略は困難だ。

 

 そのあとの、スケルトン兵士も地味に強敵

 なのだが、そのあとのリザードマンが

 難敵だ。催眠の呪文を使わなければ、

 経験の少ない冒険者グループが実力で

 勝つのは難しい。

 

 今回は、全てのグループで標準的な呪文

 デバイスを同じだけ与えられている。

 事前にそれっぽいヒントも出されては

 いるのだが。

 

 そして、最後のガーゴイルと戦う際の、

 階下からの奇襲。これは、事前には

 わかっていない攻撃だ。

 

 いったん地上階で探査デバイスを使用し、

 何もいないことを確認する。つまり、

 外から入ってきたという設定だ。

 

 玄想旅団であれば、ああいった状況では、

 本部を建物近くに呼び寄せ、外部からの

 接近や侵入を全て監視する。なので、

 挟み撃ちになることはない。

 

 若手たちに、バックアップ、支援の重要性

 を教えるのだ。

 

  けっきょくのところ、今回のコンテスト

 ミッションをクリアできた若手グループは

 いない。どこまで到達したかで順位が

 決められた。

 

 人質役のマチルダも、暇だったという。

 最後に奇襲する4人だが、まず兵士が自動

 シールド装置を付けている。

 

 玄想旅団はイスハークとセイジェンが易々

 と倒しているように見えるが、中堅の

 冒険者グループであったとしても難敵だ。

 

 正解は、書斎や書庫に二人ほど潜んでおき、

 挟み撃ちをさらに挟み撃ちにすること

 だったらしい。

 

 イスハークの早撃ちだが、抜くスピードが

 早すぎる、というのもあるが、抜くたびに

 形状が変わる特殊な短銃を使っている。

 銃口判定が毎回100分の何秒か遅れる。

 

 従って、早撃ち銃士ぽいのがいたら、

 シールドの張りっぱなしをお奨めする。

 居合の達人と同じで、勝負を即決するか、

 逃げるかの選択となる。

 

 最後に本部のメンバーも加わって、優勝した

 若手グループと記念撮影だ。優勝チームは、

 見た目でいうとほとんど玄想旅団と

 遜色ない。

 

 もし玄想旅団の前衛3人が、ふだんの装備を

 したなら、見た目では負けているかも

 しれない。

 

 しかし、まだ支援やバックアップのメンバー

 が足りていないのがまず大きい。ニコリッチ

 商会は、今後支援担当の若手もコンテスト

 を開催するなどして育成していく方針だ。

 

 そして、出場者すべてのメンバーで

 バーベキューだ。年々参加グループのレベル

 は上がってきてはいるのだが、玄想旅団

 レベルに到達しそうなグループは今回

 なさそうだ。

 

 10年に一度、いや、100年に一度の逸材が

 揃っている、そのように評価する人もいる。

 

  青い巨人を倒した同じ地域で、一か月前

 にデモを行った洋館のモデルになった場所に

 おけるミッションがある。

 

 一行は、ニコリッチ商会に捕獲した巨人を引き

 渡したあと、いったん町へ戻り、時期を待つ。

 

 本物の洋館のほうは、かなりの難易度が

 予想されている。まず、ニコリッチ商会の

 支店がある町から、距離がある。

 

 町から、第2種戦闘配備で三日進んだ距離に、

 まず集落があり、そこからさらに三日進んだ

 山の麓に、目的地の洋館がある。

 

 その洋館にいると予想されるその目的の人物

 を生きたまま確保すると、かなりの、玄想

 旅団でいうと発足以来最高額の報酬が

 得られる。

 

 殺害してしまった場合でも、報酬は10分の

 1程度に減るが、それでも巨額だ。

 

 しかし、その目的の人物自体が、かなりの

 魔法の使い手で、さらに洋館自体にも

 相当な障害があることが予想される。

 

 ある国の、重要人物という噂だ。

 

  ここら辺で、そろそろ自分たちが属する

 国について語っておこう。われわれ玄想

 旅団は、全員同じある国に属している。

 それが、イゾルデ王国だ。

 

 惑星セトの、イゾルデ王国の歴史は古い。

 その由来は、かつて太陽系で、ニコリッチ

 商会の頭首が失脚し、半獣半人座星系

 へ島流しとなった。

 

 その頭首が到着して作った国、それが

 イゾルデ王国だという。したがって、

 ニコリッチ商会との繋がりも強いのだ。

 

 だが、その頭首というのが生存したのが、

 太陽系星系外への挑戦がちょうど始まった

 時期。太陽系星系から半獣半人座星系まで、

 最初に到達するのにかかった年月は、

 約6万年。

 

 そこから、星系の開拓ののち、惑星の居住化

 が始まるので、実に7万年ほど生きている

 計算になる。

 

 そのため、この国が建国された5千年ほど

 前に、そのころの人たちがその頭首を

 偲んで名前が付けられた、というのが本当

 のところだろう。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る