第67話 勇羅&夕妬side
「つ、継美さんが聖龍に拉致!?」
妹を捜しに自宅を飛び出したまま行方不明の友江継美が、聖龍に拉致されていると聞き、京香の無事を確認出来た矢先に、和真から出された情報に再び一行がざわつき出す。
『そもそもこれ自体が、まだ報道にも隠されてるんだが…。実は警察の捜査で複数の人間の体液が確認、殺人事件が起きた現場の中で、聖龍の連中が数時間以上前に、集団暴行を行っていた情報が確定してる。ただ当の殺害現場に、女性の遺体は一つも確認出来なかったそうだ。宇都宮夕妬が事件に関係してるなら、継美本人は生きてると思っていい』
集団暴行と聞いて、勇羅を始めとした一行は顔を見合わせるが、砂織だけは無意識に顔を歪める。継美が聖龍に何をされたのかすぐに把握したらしい。砂織の表情を見て、奏も継美の状況をある程度察したのか一気に深刻な顔になる。
「さ、砂織さん…どうしたんですか? そんな深刻な顔して…継美、さんは…?」
「和真兄ちゃん、何て?」
「あ、あんまり…この場所で、話す話題…じゃない…かもー…」
興味津々で聞き出そうとする勇羅や二羽に、年長の砂織や奏は思わず言葉を濁す。二羽にだけでも詳しい経緯を話す事を躊躇うのに、雪彦を筆頭とした他の面々の耳年増にも、キツすぎる話題だと本能的に判断している。内容を話せば話したらで、まず雪彦の方は大激怒する案件には間違いないが。
『お。京香からメールだ、タクシー乗ってもうすぐそこまで来てるってさ。これからは宇都宮夕妬の行動に、宇都宮の本家が介入している分、くれぐれも警戒はしておいてくれ』
「ありがとう。こっちもみんなに伝えておく」
砂織が和真との通話を終えたと同時。自動ドア前に一台のタクシーが止まり、そのタクシーからは金髪の少女―水海京香の姿が現れた。
―同時刻・郊外聖龍アジト。
「どう言う事だぁ!? 女に逃げられただぁ!?」
「あんな上玉をおめおめ見逃すなんて、何考えてんだ!?」
「上手くいきゃあ、あの大企業のお嬢様使って身内を脅迫して、大金ガッポリ手に入れられたんだぞ!!」
「……」
聖龍が屯(たむろ)っているアジトの一つへ帰還した夕妬は、アジトに待機していた聖龍古参メンバー達から、激しい叱責を受けている。今日は授業だが試験日でもなく、夕妬の欠席は何時もの事だと、周りから認識されているので問題ない。何よりも聖龍と言うグループ自体、普段から場所を転々としている為、余程の事でない限り見つかる心配はない。夕妬自身は己のミスを否定する気はないし、分家とはいえ自分は宇都宮一族の跡取りでもある。人の上に立つ者として、こうあるべきだと言うのは十分に分かっている。
聖龍の捕縛対象の一人である、篠崎砂織の捕獲には失敗したが、自分を慕うメンバーが幸運にも拉致してきた水海京香は、突然現れた宇都宮本家の者に、捕らえた京香を連れていかれてしまった。
彼らは宇都宮本家当主直々の命令により、令嬢である水海京香の保護に現れた。当然聖龍メンバーは、京香を連れていかれるのを阻止しようとしたが、夕妬は興奮する彼らを止めた。本家当主から直々に命を受けたと言う事は、彼らは夕妬の単独行動に対して最終警告に来たと言う。これ以上夕妬が宇都宮の権力を行使し続けるなら、夕妬の宇都宮分家相続権の資格を剥奪すると。
夕妬の命令で聖龍の拘束からあっさり解放された京香は、宇都宮の者が乗って来た車に乗る直前、京香は夕妬の方を向き告げた。
『…ここまで来ると、怒りなんか通り越して、あなたの事が哀れに思えてくるわ。いつまでも自分の思い通りに行くと思ってたなんて』
宇都宮の者の話では聖龍による京香の誘拐は、既に水海や彼女の父方の親族に、知れ渡っていると言う事。外国企業の令嬢である、京香失踪が社会へ表沙汰になれば、宇都宮一族全体にも莫大な被害が及びかねない事。更に夕妬の本家に対する出方次第では、聖龍だけならいざ知らず、宇都宮一族全てが社会全体から、抹殺される危険性を帯びている事だった。
「大体宇都宮一族は、てめェの味方じゃなかったのかよ!?」
あちら側が厳重に規制を掛けてくれているお陰か、幸い報道には一切知られていないようだが、京香の誘拐が広範囲に知れ渡った事により、宇都宮本家も本格的に動き出した事が、他の聖龍メンバーにも知られ始めた事になってしまった。味方だと思っていたものの裏切りに、若手メンバー達からも動揺が出ている。
「どうする? 郊外のアジトの奴らからの連絡もまだ付いてねぇんだぞ」
「問題ねぇ、幸い向こうのGPSはまだ機能してる。サツと報道が引き次第、裏から確認しに行けばいい」
「だがあいつらを殺った犯人も気になる。今だ解決してない連続殺人事件に巻き込まれた訳でもねぇし」
彼らからの連絡が付かないのは当然だ。どう言う事か宇都宮一族の秘密を、知っている宝條学園の探偵部部長・赤石泪が、アジトに居た連中を全て殺害している。そして連中を殺害した彼の行方も今だ分からない。
しかもあれだけ派手な形跡を残していれば、既に犯人が知れていてもおかしくない筈だ。一番の不名誉な点は、現場を訪れた自分を泪はあっさりと見逃し、アジトに監禁されていた継美には、一切手を出さなかった事。連中のアジトに捕らわれていた継美は、現在夕妬のマンションで保護している。その場で拘束を解くのは難しいと判断した夕妬は、秘書に命じ椅子に拘束されたままの継美を慎重に運びだし、車へ乗せた。
継美は元々身体が丈夫でない故に、劣悪な中での長時間に及ぶ暴行と監禁により心身共に衰弱が酷く、秘書からは今すぐ入院手続きが必要だと言われたが、夕妬は継美を入院させるのを拒否した。継美を病院に入院させる事で、聖龍の起こした事件が公になるのを防ぐのも理由だが、やっと自分の元へ現れた継美を、夕妬の手元に置いて置きたかった。
友江芙海の姉でありながら、その気質は芙海とは全くの真逆で、本質を見抜いたのか常に夕妬を避け続け、怯えた態度を取る継美。夕妬が彼女に惹かれたのは運命だったのかもしれない。もう彼女を何処にも誰にも渡したくない。
「夕妬さんよぉ。この落とし前はどうやって着けるんだ?」
「まさか宝條から手を引く、って言い出すんじゃねえだろうなぁ?」
継美の事を考えていた夕妬は、彼らの責め立てに的確な返答を返す事が出来ない。宇都宮本家の裏切りを、古参メンバーに知られたのが一番厄介だった。常に餌を与えねば暴走しかねない彼らは、実際夕妬にとっても手の掛かる集団なのだ。常に極上の獲物だけを欲しがり、ごねる彼らを抑える為に容姿の整った芙海を差し出したが、結果的に目の前に出された獲物を、がむしゃらに貪り食うことしか能のない、下衆共に大切な継美を弄ばれた。
聖龍の古参連中を殺害した赤石泪を見逃し、継美を再び監禁に追いやってこの有り様だ。本家によって聖龍から解放された京香は、必ず水海和真に報告するだろう。聖龍が崩壊するのも時間の問題だ。
「おいっ! ちゃんと聞いてんのか!? 宇都宮さんよぉ!!」
散々怒鳴っていた小太りの男が、夕妬に一歩近づこうとした時、扉を乱暴に叩く音が何回も響く。
「おい宇都宮っ! 居るか!? 誰でもいいから居たら返事しろっ!」
何回も響くノック音に対し、男の一人が面倒臭そうに扉を開けると、聖龍に入ったばかりの新参の若い男が、部屋の中に飛び込んできた。
「おいおいどうした。新しい獲物の事で何か分かったのかぁ」
男が息を切らしながらも、ゆっくり頭を上げ次に口を開くと夕妬達に驚くべき事実を告げた。
「た、大変だ……。俺らの運営してる裏サイトのURLが…ど、どういう訳か知らねぇが、表のネット検索に流出して…つ、ツイッター上で晒されて……えっ…炎上してやがる…っ」
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