35.サラァサは触れ合いたい(3)
「マスター」
「なんだい、サラァサ」
「ここのところ、ずっと寝たきりだったでしょう? 身体も汚れてるわ。ですので、リフレッシュのために温泉に行きましょう」
――宿の一室。皆が集まっている場で、サラァサは切り出した。
「オールデンには立派な公衆浴場があるんですって。住人だけでなく、旅人たちの憩いの場にもなっているそうよ。情報収集にはもってこいじゃないかしら。みんなで一緒に行きましょうよ」
温泉か……と、どこか懐かしそうに目を細めるコウタ。エナたちも「そういうことなら」と納得顔である。
サラァサは満面の笑みで付け加えた。
「ちなみに『混浴』だから。よろしくね」
エナとイスナが固まった。
――都市オールデンの一画に設けられた公衆浴場は、サラァサの言う通り実に立派なものであった。
広さもさることながら、周囲の石壁には
浴場といっても、コウタが元いた世界のそれと違い、腰掛けて足だけ
驚きなのは、二メートルほどの石壁で
「あ、あのお……サラァサさん。私やっぱり見学を」
「わ、私もイスナと一緒がいい、かな?」
「二人とも。ここまで来てなに言ってんの。ほら、アトロせんせーを見習いなさいな。あんなに堂々としてるわよ」
「いや。別に堂々としているわけでは。ただ私が育ったところでは混浴が珍しくなかったから慣れているというだけで」
「聞いた? アンタたちもさっさと慣れるのよ。マスターを一人寂しく放っておく気? 別に素っ裸ってわけじゃないんだから」
「うぅ……」
渋るエナとイスナを、なんやかやと理由を付けて連れ出すサラァサ。
彼女たちが身につけているのは、浴場で購入した着衣型の特殊なバスタオルである。見た目はタオル地のビキニと言うべきもので、胸と腰以外はすべて余すところなく
アトロと違い、混浴に免疫がない二人は、コウタを見つけるなり火が付いたように赤くなった。
事情を知ってか知らずか、コウタは「今日はゆっくりしよう」といつものように微笑んだ。混浴よりも、情緒溢れる雰囲気を楽しんでいる様子である。
(きっとエナたちを恥ずかしがらせないようにするためね。ま、マスターの反応は想定内。今日はむしろ……)
「エナー、イスナー。こっち座って。髪と身体を洗ったげる」
サラァサは、先日購入した石けんを取り出して言った。
「ツヤツヤ、スベスベになるって評判の逸品よ。サキュバスたる私の技術で、アンタたちをもっと輝かせてあげるわ」
「えー……」
「なによヤル気のない返事ね。別に変なことなんてしないわよ。私が寝込んでたときには迷惑掛けちゃったから、そのお詫びもかねて洗ったげようって言ってるのに」
「まあ、そういうことなら」
「ふふ。任せなさい。二人とも素材はいいんだから、もっと綺麗にならないとね」
マスターのためにも――その言葉を飲み込んで、サラァサはエナたちの傍らにしゃがんだ。くすりと笑う。
(さぁて。女っぷりの観察開始、っと)
まずはエナ。
石けんを泡立て、金髪に指を通していく。
さすがにイヴの姉、良いところのお嬢様だけあって、指先が気持ちいいほどすんなりと動く。水気を含んだ髪は一枚の布ように滑らかだ。頭のツボを押してやると「うーあー……」と呆けた声を出すのがちょっと可愛らしい。
後ろから見ると、身体付きは華奢とは言えず、しかし「がっちり」ともまた違い、ちゃんと女らしい。前衛剣士のくせに絶妙なバランスだ。健康的で若々しい肌は、日焼けする機能を放棄したのではないかと思えるほど白い。
「次、前ね」
「ちょっと!」
抗議を無視して胸元や腰回りを洗う。わざと素手を使い、身体の要所をマッサージしていく。
「……っ! だ、だからちょっと待って!」
「待たなーい。いいから大人しくしてなさい。こうするとより引き締まって、綺麗に見えるんだから」
「ほ、ほんと?」
「サキュバスが女の身体のことで嘘ついてどうすんの」
「うぅ……んっ……」
「ほう。ここが気持ちいいの?」
「うわわわっ! ちがう違う違うって! ていうか、なんでそんなトコまで!?」
「決まってるじゃない。いざ
「絵的にってぇ!?」
「ほらほら。力抜いて。それ」
「ひゃん!?」
「うん。やっぱイイ身体だわ。これ」
――こうしてサラァサは、エナを隅々まで堪能した。有言実行、サキュバスの本気の
サラァサは顔を上げた。
「さて――逃げるなイスナ。次はアンタよ」
「あうぅぅ……許してくださーい……」
「ダ、メ」
満面の笑みで、サラァサはイスナを捕まえた。
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