第68話 瑠奈side



―ファントム支部・八階待ち合い室。


瑠奈と鋼太朗はルシオラに案内され、八階奥待ち合い室へと入室する。部屋へ入った三人に続いた後、待ち合い室前に玄也とルミナがその場に待機するように立っている。


「ルシオラさん。お兄―···泪さんは何処にいるんですか?」

「そうだ。俺達は泪に会いに来たんだ、泪は何処にいる」


元々の目的を思い出した二人は、立て続けに泪が何処にいるのか質問する。二人はファントムに出向した泪に会いに来たのだ。先程廊下で対面した充と言う異能力者に、鋼太朗は何らかの疑問を感じていたようだが、今は泪の現状を聞くことが目的であり、彼の事を気にしている場合ではない。


「彼はこの支部にいない」

「何故? 俺達に会わせられないのか」


泪はここにいないと言う返答に鋼太朗は怪訝な顔をする。ルシオラの表情を見る限りでは、彼が嘘を付いているように思えない。


「泪さんは別の支部にいるって事?」

「彼と会わせる前に、君達に話したい事がある」


話したい事があると言われ、瑠奈と鋼太朗は再び顔を見合わせる。二人がソファーへ座ったのを確認するとルシオラは口を開いた。



「君達は宇都宮一族を知っているか?」



宇都宮一族の名に即座に反応したのは鋼太朗だった。この中で宇都宮一族と深い因縁があるのは、間違いなく彼なのだから。


「あぁ。奴らの噂は、嫌と言う位に聞いてる」

「知っているなら話は早い。彼らは表社会だけでなく裏社会でも有名な一族だ。奴らは私欲の為にありとあらゆる手段を使い表の財界で名を馳せてはいるが、その裏では裏社会の反政府組織とも繋がりを持つ。

そして裏との繋がりを使いながら、政府の目を盗みつつ表の財界での人脈と権力を活用し、複数の異能力研究所をも管轄下に置いている。


彼らは裏社会で得た力や知識、権力を一族管轄下に置いている私設や研究所の研究・警備の戦力として使い、数々の異能力者を無差別に捕らえては今も尚、『実験材料』として非人道な実験を行っている」


ルシオラは異能力研究所に捕らえられている異能力者が、政府や宇都宮によってどのような扱いを受けているのか淡々と語る。異能力者に対する迫害や現状を知れば知るほど、不安げな表情になっていく瑠奈に対し、逆に異能力者の立場を理解していた鋼太朗の表情は険しさを増していく。


「それも知ってる。俺も暁研究所に在籍してたから、宇都宮が何をやってるかも半分位知ってる」

「まさか···。君も研究所の···」


ルシオラが何かを答えようとするが、鋼太朗はルシオラの言葉を遮るように静かに首を横に振る。


「···いや。俺は泪やファントムの奴らと立場が違う。今まで異能力者が受けてた扱いや立場を、前もって知らなかった以上、俺は瑠奈の立ち位置に近い」


怪訝そうな表情をするルシオラと瑠奈達を余所に、鋼太朗は話を続ける。


「だけど宇都宮一族の事ならある程度話せる。宇都宮の連中は自分達が捕らえた異能力者を使って、何らかの研究を行ってる。地方有数の寒村とも言われてる暁村が、隣町との合併問題抱えていながら、町との合併すらも許されないのは村全体が、裏社会と繋がりの深い宇都宮一族の息が丸々掛かってるからだよ」

「やけに詳しいのだな」


「親父が宇都宮一族の管轄下で、異能力研究に関わってたからな。最終的に異能力者の現状を知った俺が、親父の管轄下で暴れたのが原因で、親父も数か月前に研究所を辞めた」


異能力研究者と聞いて、ルシオラの眉がぴくりと動く。


「何故、君の父親が関わっていたのだ」

「泪の家族が宇都宮に関わってたのもあった。正確には俺の家族も泪の家族も、宇都宮に利用されていたのが正しい」


鋼太朗の隣に座っている瑠奈は先ほどから、鋼太朗達の話を食い入るように聞いている。入り口前に待機している玄也やルミナも同様に聞き入っていた。


「利用?」

「宇都宮には一族を統括する本家と、複数の分家が存在する。国内にあるいくつかの異能力研究所を、自分達一族の管轄に、置いてるのが宇都宮本家で暁研究所もその内の一つ。

宇都宮本家当主は、元々大学院の特殊異能学専門の研究者だった俺の親父を利用して、異能力に関する複数の研究も行っていた。その研究の一つに親父は頑として反対したが、生まれて間もない俺が異能力者である事をダシに脅迫されて、結果的に宇都宮の研究に巻き込まれた。その歪みきった研究の末に誕生したのが本家当主の孫娘。

·········俺の腹違いの妹だ」


宇都宮一族当主の孫娘が鋼太朗の腹違いの妹と聞いて、瑠奈やルシオラ達は目を見開く。


「やっぱり···」

「言っとくが俺はあんな女が自分の妹だなんて絶対認めねぇ。表面上じゃ暁学園一番の品行方正完璧超人な麗しのお嬢様で通ってるみたいだが、所詮あいつが裏でやってる事はあの宇都宮夕妬と変わりないんだよ」


既にルシオラ達も無言で聞いている。鋼太朗が口を閉じた時、瑠奈が何かを思い出したか口を開き話し出す。


「その暁学園の事。前に勇羅達と色々調べたんだけど、宇都宮小夜って一年生が生徒会長務めてるとか」


「···そうだ、宇都宮本家次期当主候補・宇都宮小夜(うつみや さよ)。宇都宮一族当主の孫娘であると同時に、俺達四堂の腹違いの親族だ。能力自体は俺や親父に劣るが、あの女も俺と同じ力を持つ異能力者。ただ念動力が通常の異能力者より劣っていたのが、今まで異能力者としては認知されていなかった。

親父は宇都宮によって、無理矢理作らされた子どもを···宇都宮小夜を認めなかった。しかもその娘を生んだ母親は、宇都宮当主に『処分』された」


知らなかった。鋼太朗の父親は宇都宮小夜を自分の子どもと認めていない。鋼太朗の家族だけでなく、鋼太朗自身も複雑に違いない。

そして宇都宮一族。子どもを生んだ母親も躊躇いなく消してしまうとは、なんて残酷な事をする。


「だが政府の方は、数年前に彼女をとっくに異能力者認定している。宇都宮本家に彼女の引き渡しを政府は名指しで要求している。だが孫娘を溺愛している当主は、いまだに宇都宮小夜の引き渡しに応じていない。孫娘を異能力者だと認めなかった事が災いしてか、宇都宮当主は孫娘の件を分家からも責められていて、現状は宇都宮一族全体が少しずつ追い込まれ掛けている」


既にこの場にいる全員が鋼太朗の話を無言で、そして真剣に聞いていた。暫くの沈黙の後、ルシオラは再び口を開く。


「······なるほど。要するにその女も『ゲーム』と『殲滅者』に関わっていたのか」


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