第67話 瑠奈side
―某所・ファントム支部。
昨日の泪の失踪後。少しでも泪の居場所の手掛かりを捜そうと、勇羅と一緒に事務所のPCを閲覧していた砂織は、泪のPCのメールボックスに一通のメールが届いていたのを確認し、神在市内を車やバイク使って捜し回っていた和真や鋼太朗達に連絡した。事務所のPCに届いたメールは、昨日の晩に丁度話し合いで話題に出していた、あのファントム総帥・ルシオラからだった。
砂織から連絡を受けて。急ぎ事務所へと駆けつけた和真達にメールを確認して貰った所、メールの内容は一種の招待状のようなものであり、更に文章の内容から行方知れずとなった泪は、ファントム支部に滞在している事が示されていた。文章の最後には支部のアクセス方法と泪に合わせる条件として、勇羅や鋼太朗と同じくルシオラと面識のある真宮瑠奈の名前と、彼女の同伴が指定されていた。
全てを確認した一行はすぐ茉莉に連絡を取り、一連の事情を説明した。
瑠奈をファントムに行かせる事に対し、事情を聞いた茉莉はかなり難色を示していたが、泪失踪の一件もあって、いずれは泪やファントム総帥と関わった彼女にも、協力して貰わなくてはならないと和真や鋼太朗から説得を受け、結局瑠奈を呼び出さざるを得なくなった。
「此処がファントムの···?」
「そうだ。普政府の目を隠す為の一環として普段は一般企業としても機能している」
「普通の建物だったから意外。もっと悪の組織見たいな禍々しいの想像してた」
メールに書かれた内容に出された条件を呑み、異能力者集団ファントムへ出向した泪に会いに行き事情を聞き出す為。メールの添付に張られた地図を頼りに、支部へ向かったのは瑠奈と鋼太朗。到着したビルの前で出迎えていたルシオラに連れられ、瑠奈と鋼太朗はファントム支部の中を歩く。
ファントムのアジトへ向かう約一時間前。勇羅も瑠奈達に同行を申し出たが、以前の学園の騒動で和真達に絞められ、勇羅の身に起きている原因不明の体調不良が、またいつ起きるか分からない為、結局瑠奈と現在最も異能力者の事情に詳しい、鋼太朗だけがファントムへ行くことになった。
建物の中に入る前。ルシオラに案内された二人が目にしたのは、普通の企業と何ら変わらない大きなビル。十階以上はある大きなビルを見ながら、二人は呆然とした表情で立ち尽くしていた。直後に悪の組織と言う言葉を放った瑠奈に対し、鋼太朗は思わず顔を引き吊らせ、ルシオラは相変わらずの無表情だが『?』を浮かべそうな顔で瑠奈とビルを交互に見ていた。
「支部とは言っても、この場所も数多く存在する同志達のアジトの一つに過ぎない。今でも同志達が色々な建物や店舗を使用したりあらゆるカモフラージュをしながら支部を広げている」
「世界中にファントムのアジトが···」
組織の内情を歩きながら淡々と話すルシオラの声を聞きつつ、建物の内部を見渡しルシオラの後ろを付いて歩く二人。ファントムの構成員は力を隠し身を偽りながら目的の為に潜んでいる。構内を歩き続ける三人の前を一人の男が近付いて来た。
「おや、ルシオラ様。また新たなる同志を招いて来たのですね」
廊下を歩いている時にもファントムの異能力者を何人か見かけたが、ルシオラの後ろを歩く瑠奈や鋼太朗を、自分達の敵を見るような目つきで睨んでいた。目の前の彼もファントムの異能力者のようだ。ルシオラの一歩後ろに立っていた瑠奈も鋼太朗も険しくなる。
「いや。彼らも異能力者だが、今回はこちらの事情で客人として来て貰っている。ファントムとは関係ない」
男の背は鋼太朗とほぼ同じ位。黒い髪にキツネの様な細く鋭い目をしている。
「そうですか。念の強さを確認致しましたが、お二人共かなり手練れの能力者と見られます。我々の同志となるならば大いに歓迎したのですがねぇ」
男の慇懃な態度に鋼太朗はあらかさまに不快感を表している。黒髪の男は自分を警戒心剥き出しで、睨み付けてくる鋼太朗には目もくれず、瑠奈の方に視線を移した。
「そちらのお嬢さんは?」
男は笑みを浮かべながら、鋼太朗同様に男を睨み付ける瑠奈を見つめている。男の視線は全身を舐めまわされている感じで気分が悪い。瑠奈が表情を歪めるとルシオラが二人を庇うように前へ一歩歩く。
「もう良いだろう。私は今彼らを案内している途中だ」
「やれやれ、私もすっかり嫌われているものですね。それでは失礼します」
「······」
ルシオラは男に目もくれず先へ進むので鋼太朗も続く。二人を見た瑠奈も慌てて付いていく。
「どうした」
歩きながら顎に手を寄せて考え事をしている鋼太朗に気付き、ルシオラは声を掛ける。
「いや。あのオッサンの声、どっかで聞いた様な···」
「充の事か? 彼は数年前にファントムの同志となったのだが、君の言う通り掴み所がないのも一理あるな。単純な話、充は現在のファントムの戦力維持を重視している。元々ファントムの考え方が合わず、組織を抜けた異能力者も少なくない。特に元同胞とは反りが合わなかったが」
「元同胞?」
「ああ。彼は以前この組織に所属していた同胞の弟子だったらしいが、同胞とは対立しているそうだ」
ファントムを離反した同胞の弟子。やはり異能力者同士でも考え方などで反りが合わないと言う訳か。
「なんだ。新しい同胞か?」
次にルシオラ達に声を掛けてきたのは男性と女性。一人は長い髪をシニヨンで纏め、長身でスリットの入った上品な雰囲気のワンピースを身に付けた女性。声を掛けてきた男性の方はスキンヘッドと、鋼太朗以上に筋肉の付いた逞(たくま)しい肉体が印象的で、先ほど出会った充と言う男と違い気さくな雰囲気を出している。
「ルシオ。後ろの二人は新人か?」
「二人共異能力者なのね」
同伴を希望していた勇羅を連れて来なくて正解だった。勇羅の理想的な鍛え方をしている玄也を見れば、確実に目を輝かせるだろう。
「紹介しよう。ファントムに所属する玄也とヴィルヘルミナだ」
「よ、よろしく」
鋼太朗は咄嗟に挨拶を返す。つられるように瑠奈もルシオラの側にいる二人へ挨拶する。
「そんなに硬くならないで。後、私の事はルミナでいいわ」
ルミナと呼んだ女性は穏やかな笑顔を瑠奈に向ける。
先ほどの充とは全く違う雰囲気の優しい笑顔を見た瑠奈は、ほっとしたように息をはく。
「これから二人を案内する。お前達も一緒に来てくれ」
「わかった」
瑠奈と鋼太朗は怪訝そうにお互いの顔を見合せた後、三人の後へ続くように歩き始めた。
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