第66話 茉莉side



―午後八時・真宮家茉莉の部屋。


「例の事件の個人情報漏れ。何かわかった?」

『あぁ、あの人気歌い手逮捕の件か。あの歌い手完全に白だよ。正直あんな巧妙かつ姑息な手段取れる程、あの歌い手は頭の回転良くないわ』


あの後。速攻で伊遠に連絡し、歌い手逮捕や千本妓寧々が学園で起こした一連の事情などを伝え、歌い手の一件も調べてもらった。例の歌い手の情報を伊遠と協力して集めた所、今回の件で逮捕された歌い手は、自分の歌い手としての知名度や人気を、数多くの人間に広める為だけに行ったものだった。


『世間一般の注目集めたいにしては、今回ばっかりは完全にやり過ぎだな~。つかこの前の炎上沙汰と言い、あんなガキみたいなやり方で、世間の支持が取れると思ってんのかねぇ』

「歌い手のツイッターも、まだまだ大炎上したまま荒れてるわよ~。個人情報無断流出だけならまだしも、過去にやってた騒ぎが一般でも、擁護出来ないレベルで大きすぎるから、どう足掻いても実刑は免れないのに、こいつの無実を信じてる熱狂的ファンもどうかしてるわ~」


今も炎上が絶えず止むことがない歌い手のツイッターを見ながら。表では普通のしがない一般人でも裏で怪しい仕事をしているお前らに、言われたくないと言わんばかりに、伊遠と茉莉は言いたい放題、恐らく二度と表へ出てくる事の無いだろう歌い手を罵る。


数あるネットニュースの情報では、既に熱狂的ぱふっこファンによる、歌い手ぱふっこ釈放の署名活動まで行われている。だがいくらファンが彼の無実を呼びかけた所で、一夜明けた今ではぱふっこによる数々の悪行が一気に知れ渡り、匿名掲示板でも大絶賛炎上中である。

更にネットだけでなく、朝のテレビのニュースやワイドショーなどで、歌い手ぱふっこのイメージとは程遠い平凡すぎる本名を全国的に曝された『元』人気歌い手は、その後数時間も経たずに既に多方向から訴えられている。


個人情報を流した元凶が逮捕された事で歌い手個人のツイッターも、運営と歌い手の所属事務所だけでなく不特定多数のユーザーが、表だっての個人情報掲載は余りも悪質と報告した事により、数日中には削除されるだろう。


『その後のニュース見たけど、有名人気歌手と人気俳優が芸能事務所ぐるみで、名誉毀損その他諸々でこいつ訴える準備してるらしいから、もう色んな意味で終わりだな』

「やだ~」


数人の個人情報を表に晒しただけで、一人生をあっという間に棒に振るとは、ネットとは何とも恐ろしいものである。


『これ以上、こいつの話題話しまくると、色々脱線しそうだから話戻すわ。赤石泪の個人情報を何故一般人の歌い手が知っていただったか』

「そう、実は泪君のアドレス。知ってる人間が限られてるのよ。泪君の性格上自分から絶対に相手に言う事無いし、誰かが言わない限りはアドレスは漏れる筈ない」


『じゃあ先日退学処分下った女子生徒は?』

「千本妓寧々? 無理ね。職員室に連行した時も誰彼構わず暴言吐いて暴れて、会話にすらならなかったわ」

『『アレ』······。だったってな』


「そう。病院に搬送した時点で、言動も支離滅裂で周りが見えてなかった感じだし、医者の話だと症状が酷かったから······ね」


総合病院内の看護師達からの噂話を耳にして聞いた形になるが、寧々はもう病院の外から出ることはない。家族の実の娘をあっさり見捨てる対応からしても、今後の彼女の行き先は完全に不透明だ。

もし奇跡的に退院できたとしても、薬物による禁断症状の反動も酷く良くて病院へ逆戻り。家族や親族にも見捨てられた彼女は最悪の場合、自分の居場所すら分からぬまま何処かへ失踪する可能性が非常に高いだろう。



『······聖域事件の被害者と同じって訳か』

「ちょっと力使って調べてみたけど、千本妓さん。大分前から東皇寺の連中···聖龍の奴らに突け込まれてたみたい。担任の話だと元々周りへの承認欲求が相当強かったらしいし、自分を良く見せて周りに認められる為なら、他の生徒にも危害加えてたみたいで担任も手を焼いてたそう。とにかく認められる為なら何でもするあの娘は、奴等に取って格好のカモだった様ね」


『東皇寺の宇都宮家は? 管轄の研究所持ってるからして、奴等なら在りうる』

「成る程」

『万が一に備えてルシオにも情報を回してある。あいつ自身、今の組織の内情に不信抱いてるからな。最悪の場合···』



携帯越しからの伊遠の声がワントーン低くなる。


「彼は大丈夫?」


伊遠が気を許しているとはいえ、あのファントム総帥。異能力者に害を成すならば異能力者相手でも容赦しない相手だ。


『あいつは僕が見込んだ男だぞ。女の扱いは慣れてないが、腕は保障する』

「それを聞いて安心したわ~。でも、さすがに女の立場と意思は尊重しなきゃ嫌われるわよ~」


『お前の事だから言うと思ったよ。それから、玖苑充の件だが―』


伊遠は先日、ルシオラから受け取った伝言を茉莉へ伝える。伝言を聞いた茉莉の表情は一瞬にして真剣なものへ変わっていった。


「······わかったわ」


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