第61話 瑠奈side



―同時刻・一年A組教室。


「あんた達。ちょっと顔貸してくれない」

「何よ真宮。あたし達は今から、翠恋と遊びに行くんだけど」

「私達はあんたみたいなバカに用なんて無いのよ。そこ邪魔だからさっさとどいて」


「あんた達には関係無くても私にはあるの」


授業が終わってすぐにA組教室へと向かい、帰宅準備の真っ最中だった翠恋の友人三人組と会う。彼女達が全員翠恋と別のクラスなのは知っていた。友人三人の内一人が琳と同じクラスで、授業が終わった後で三人が一緒に集まる事を又聞きした為、今日翠恋が泪と一緒に帰る事を機会に教室前で待ち伏せ、彼女達を問い詰める事にした。


「朝。私だけでなく鈴原さんの靴箱に玩具の爬虫類やゴキブリぶちこんだり、移動教室の間に私のノートに余計な落書きしたり、篠崎君の机の中にカッターの刃出しっぱなしで仕込んだのあんた達?」

「な、何の事よ?」


向こうはあくまで自分達への嫌がらせに対し、徹底的にシラを切るつもりだろう。口論の末の乱闘になって停学処分を食らおうが勇者と言われようが、こちらは徹底的に問い詰めさせてもらう。自分はともかく今回は勇羅や麗二、芽衣子まで被害にあっている。

瑠奈は無言で自分に対する陰湿な中傷発言が、ページ一面にビッシリ書きまくられたノートを取り出し、翠恋の取り巻き達に見せつける。


「三間坂が裏で相手を蹴落とすタイプじゃないの知ってる。ならこんな幼稚な事出来るの、三間坂の周りに居るあんた達しか居ない」


翠恋は他人を遠回しに蹴落とすと言う手段は絶対に使わない。友人達が周りを出し抜く為に、彼女へ姑息な手段を先導しようとしても、翠恋自身が頑として拒否するからだ。ここに来て互いに仲の悪い相手の思考パターンを、毎回翠恋と喧嘩している瑠奈自身が理解してるとは何とも皮肉な物だ。


「は? ふ、ふざけんじゃないわよっ!! 元はあんたや篠崎が榊原君。赤石先輩と仲良いからいけないんでしょ!?」

「いい加減さ。翠恋の一途な恋心を立てて先輩から身を退いたらどうなの? もうあんたはとっくに赤石先輩とは関係ないんでしょう?」


やはり泪が原因か。今の状況で自分のイジメがバレてもスルー確実だが、今回は泪とほとんど接点のない芽衣子まで被害にあってるので、無視する選択肢などない。


「···三間坂がこれ知ったらどんな顔するかな? あいつ真っ正面から相手と喧嘩するのモットーにしてるし、あんた達が裏で私や篠崎君達陥れてるの知ったら、八つ当たりだけじゃ済まされないかも。それに今日三間坂が別件ある事知ってて、三間坂を遊びに誘う気だった?」

「ち、ちょっとそれどう言う事よ!? そんなのあんたの出任せじゃない!! 翠恋は午後からあたし達と遊びに行くんだからっ!」


これは待ち伏せをして正解だった。今日翠恋が泪と一緒に帰る約束があるのを知っていながら、翠恋の意志を無視し強引に二人へ、付いて行くと言うのならば余りにも性質が悪すぎる。


「三間坂が自分の事に横槍入れられるのを酷く嫌がるの。一番理解してるのは、あんた達の方じゃない? もしそれが赤石先輩との件で横槍入れるなら、あんた達の方がよっぽど性質悪い」

「ぐっ···っ!!」


自分達にとって大親友であれ翠恋の話を持ちだすと、流石に取り巻き達も狼狽え出し始める。


「や、やっぱりもうやめようよ~。翠恋に黙ってやったのは、まずかったんだし···」

「でもっ! 翠恋がっ!」


「昼休みに榊原君も巻き添えで怪我しちゃったんだよ? この事が他のクラスの女子にも探られたら私達の方がヤバイよぉ」


三人の内二人は自分達が原因で、同学年女子や部活の先輩達に一目置かれている麗二が、巻き添えとなって怪我したのが流石に堪えたようだ。しかしリーダー格の一人は本来の嫌がらせのターゲットである瑠奈の方が、全く折れてない状況に納得いっておらずまだごねる。


「な、何であたし達がこいつらに謝んなきゃ···」

「もういい加減にしてよ! これ以上翠恋が赤石先輩に嫌われてもいいの!?」


取り巻きの一人に強く迫られ気の強いリーダー格も狼狽える。それでもまだ納得がいってないのかぷい、と口を尖らせながら顔をそっぽ向けた。


「ご···ごめん真宮。後で、鈴原さん達にも謝っとく」


三人は少し躊躇しながらも渋々瑠奈に頭を下げると、すごすごと気まずそうな顔をしたまま教室から出ていった。


翠恋はとにかく第三者の横槍を嫌う。怒りの沸点が低い癖に根っこの生真面目な性質が仇となり、実際何でも抱えてしまう。関わらなくて良いものまで抱えてしまうので、結果的に抱え込み過ぎてしまうのだ。


「あいつ······」


正直翠恋は泪に似ている。特に自分にとってマイナスになる問題を、自分自身で抱え込んでしまう所は。翠恋側に全く親展がないと言う事は、やはり泪は翠恋にも心を許していない。翠恋が泪の件で抱え込んでしまったから、結果的に友人の暴走を招いてしまったのだろう。


「瑠奈っ!! よ、良かった!! こっ、此処に、居たん、だ···っ」


突然、三人のクラスメイト達と入れ替わるかの如く、勇羅が倒れんばかりの勢いでA組の教室へ駆け込んで来た。


「勇羅っ? ど、どうしたのそんなに息切らして」

「そっ、それが······―」


勇羅の説明を一通り聞いた瑠奈は顔面が一気に蒼白になった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る