第28話 瑠奈side



―···。


「こ、此処がお兄ちゃんの精神(こころ)の中···」


瑠奈は自分の持つ異能力・精神侵入(サイコダイブ)を使い、泪の精神世界に侵入し改めて驚愕した。

泪の精神世界には瑠奈が目を丸くして驚くほど何もなかった。いくら歩き回ろうとも一向に向こうが見えない純粋に暗闇だけが広がる世界。



『瑠奈ー···様子はどうー?』

「何もないよ~···」



泪の精神世界をさ迷う、瑠奈の頭の中に話しかけているのは琳。

瑠奈が異能力を使って対象の精神世界に侵入している間、当然瑠奈の意識は侵入対象の精神の中に居る為、瑠奈本人の身体は睡眠状態に入り完全に無防備となる。

琳ならば琳自身の異能力で、精神世界に侵入状態の瑠奈へ干渉出来るとの事で、予め琳にも事情を全て説明した。


琳の高度な精神感応なら、琳の方が表で瑠奈に何が起きているのかも、ある程度把握出来ると同時に、精神世界で瑠奈自身に異変が起きた時、琳は表でしっかり動けるから琳の力を使い、強制的に自分の意識を覚醒させる事が可能だ。


「···本当に、何もないの。前に他の人の精神世界に入った時は、いろんな物があったのに」


『いろんな物ってー···あっ、瑠奈言ってたね。私のお母さんの精神世界には大観覧車やメリーゴーランドとかも遊園地があったり、瑠奈のお父さんの精神世界に沢山のお菓子の家あったりとかー···。

後、姉さんの精神世界に筋肉ムキムキなプロレスラーの黄金像!

それから変な目した馬のマスク被った奴! あれ勇羅君と雪彦先輩喜びそうだよ!』

「私が前に話した事よく覚えてたねぇ···」


琳は自分の異能力を使っている時よく喋る、普段大人しい分その反動なのだろう。

だからといって、以前身内の精神世界に入った事を今は話さないでほしい。両親のお互いの精神世界構図を暴露して、正座させられてこっぴどく叱られたのは苦い思い出だ。

茉莉に至っては従妹に自分の性癖を暴露された羞恥で、顔を真っ赤にしていた。


「とにかくー、今回の精神世界はすごく嫌な予感がするの。表で眠ってる私に何かあったらサポートよろしく」

『うん、こっちの方は任せて』


幸い琳の周りには鋼太朗や水海兄妹も居る、現在力を使って眠っている自分の身体もベッドの上だ。



―···精神世界に侵入する一時間前。



鋼太朗と京香から事情を聞かされた和真は、泪を説得する事にあっさり承諾してくれた。その後が別の意味で何も言えなかった。

泪を説得する筈の和真はあろう事か、自分の心を覗かれる事を頑なに拒否する泪に対し、気絶させると言う強硬手段に出た。


恐る恐る気絶させた理由を聞けば、『泪みたいに頑固で融通利かない奴には拳が一番』。


前に泪から聞かされた、最凶最悪の問題児の名は伊達ではない。

しかし瑠奈がこうして泪の精神世界へ簡単に潜り込む事が出来ているのは、紛れもなく和真のおかげである。


「本当に何もないのかなぁ···」

『あっ···前に京香先輩が言ってたよね。泪先輩数年前に路地裏で倒れてた所を、和真さんに助けられたって。それと関係あるんじゃあ』


「そうか、鋼太朗や茉莉姉も言ってたな。

心の闇とかトラウマとか、周りが気にしなくても自分にとっては、何がなんでも隠さなければいけないもの」


今まで瑠奈が精神世界で見て来たのは、あくまでも『表層意識』。今回は精神の深い部分に侵入する。


『潜在意識』や『無意識』と言った深層心理は対象側が隠している事が多く、こちらが意識して探さなければ侵入出来ない。精神構造の深い部分における防衛が強制的に働き、侵入者を排除しようと牙を向けてくるからだ。


気を引き締めながら暗闇の中をしばらく歩いてると、小さな光が見えてきた。


「あれかな···」


近づくとそれは小さな光がふよふよと浮いている。蛍を思わせる小さな光だが、それはぼんやりと光を放っている。


「!?」


小さな光に触れた瞬間、瑠奈は光に吸い込まれていった。


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