第26話 瑠奈side
「泪の心の中をお前の力で覗く? 出来るのか?」
「うん」
翌日放課後、瑠奈と鋼太朗は例の喫茶店で話し合う事になった。
茉莉から瑠奈の護衛を頼まれている泪は、昨日の件で瑠奈を単独行動させる事に対し苦い顔をしたが、鋼太朗が泪の代わりに瑠奈を家まで送って行くと告げれば渋々承諾した。
以前ファントムの件で店内で乱闘騒ぎを起こした為、騒ぎを起こした一端の一人でもある瑠奈にとっては、店の中の周りの目線が気になり居心地が悪かったが、元々店の常連客である鋼太朗が店長と話を着けてくれたので、何事もなくすんでいる。
「家族からは無闇に使うなって言われてるけど、私の異能力は相手の心の中に私自身が直接干渉出来る能力なの」
「力を使うな、って事はその力はお前の方にも相当リスクがある異能力らしいな」
「うっ。そこまでは···」
以前瑠奈が自分の力を使った事があるのは本当だ。
ただしあくまでも普段の性格とも言う『表層意識』の範囲であり、相手の『トラウマ』や『深層意識』と言った、相手の心の深い部分へ干渉した事は一度もなかった。
今回瑠奈が自分の異能力で行おうとするのは、泪の『心の闇』に干渉する行為。
相手の心の中を覗きみるだけでもかなり危険な行為なのに、その相手の深い部分―相手にとって周りから見られたくない所に潜った時、瑠奈自身にもどんな反動が起こるか実際に想像も付かない。
「···精神を覗く、と簡単に言ってはなんだけど。相手があのガードの固いお兄ちゃんだから、簡単に覗かせてはくれないよねぇ」
「なら俺が行ってもますます駄目だな」
問題はどうやって泪の心に侵入する方法を探すか。
心の中を覗かせてくれ、と言って簡単に覗かせてくれる程泪に隙はない。鋼太朗が言うように常に柔らかな笑顔と、冷徹な虚飾の仮面を被り泪は自分を守っている。
「そうだ、潜る前に昔のお兄ちゃんの事教えて。私、お兄ちゃんの事もっと色々知りたい」
「······分かった。その代わり泪の心の中に潜った後で、何があったのか聞かせてくれ」
鋼太朗の出した返答に黙って頷く瑠奈。今話をしているのは泪の過去を知る相手だ、当然彼にも知る権利はある。
「昔の泪って言っても、俺が初めて泪と会った時も一人だった」
瑠奈が泪と施設で初めて会った時と似ていた。
あの時の泪は薄汚れた襤褸を纏い、窓が一つしかない殺風景な狭い部屋の隅で、うずくまる様に一人で座っていた。
「···泪には父親と姉さんが二人いる。実は三つ子の姉弟で泪は末っ子の長男。
でも泪は家族の顔自体知らないし、親父から聞いた話じゃ持って生まれた念動力が強すぎるのが原因で、生まれた頃から実の家族と引き離された」
「!?」
「俺が何度も話した時、家族の名前だけは知ってた見たいだし、誰かから一通り聞かされたんだろうけどさ。
泪の方は生まれてからずっと一人だと思ってるし、自分には家族そのものが居ないんだと確信してる」
全く持って知らなかった。
泪にとって家族そのものが自分の中に存在していない。
現実では家族が健在なのに、泪の中では家族の存在自体が始めから居ないものとしている、泪は精神的に孤独なのだ。
「···じゃあ、和真さんや勇羅達と会った時の事は?」
泪が和真や勇羅、京香とよく話しているのは今も知っている。
特に勇羅や探偵部前部長和真に振り回されているが、瑠奈が知る限り篠崎姉弟や水海兄妹と話している時は、泪は満更でもなく穏やかな表情をしている。
「悪い。俺はその辺りの事情は全然知らねぇから···でも、泪の奴が和真さんの事慕ってるのと、勇羅を気にかけてるのは良い兆しだけど」
どうやら鍵を握っているのは、数年前に泪を保護した和真だ。
泪は和真を先輩として慕っているし、和真も何かと泪を気に掛けているから協力を得られるかもしれない。
「···もしかしたら。お兄ちゃんの事助けた和真さんだったら協力してくれるかも」
「そうか。俺らが無理なら和真さんに掛け合って、泪を説得して貰うって訳だな」
方法はそれしかない。
泪の過去に近い場所に居る自分達が駄目なら、泪自身が信頼している人物に橋渡しをして貰うしかない。
「和真さんにどうやって接触する?」
「普段から仕事で忙しい人、って聞くな」
勇羅に頼めばすぐにでも和真に接触出来るだろうが、彼に頼むのはどうしても気が引けた。下手すれば泪だけでなく、只今休部中の探偵部全員にバレる可能性が高い。
消去法で探偵部でも比較的口の固い雪彦や万里の名前も上がったが、更に二人は頭を抱える事になった。
「仕方ない。ダメ元で水海に頼んで、和真さんに取り合って貰うしかないな」
「水海って···京香先輩?」
「あぁ、知ってたら話早いな。
あいつ泪と同じクラスなんだよ。本人に聞いたけど一年の時から泪とずっと同じクラス見たいだし、泪の事も和真さんから色々聞かされてるそうだ」
和真の妹京香の事は勇羅から聞いている。
事件の時も泪同様に頼れる先輩として色々世話になっていたが、泪と一年から同じクラスだったとは盲点だった。
瑠奈はまた一つ知らなかった事が増えてしまった。
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