第9話 ルシオラside




―···数ヶ月前・異能力者集団ファントム総本部。



『此処(ファントム)から去るだと?』


『悪いな。

あんたらの組織の考えと僕が考えてる事、そんでもって僕のやりたい事が決定的に食い違ってるんでね』


『き、貴様! 我々ファントムの意思に逆らうとでも言うのか!?』

『じゃあ率直に聞くわ······前回の襲撃。お前ら何故同志を殺した?

ファントムの名前使えば、同じ異能力者も情け容赦なく殺して良いってか?』


『答えなどそんなもの決まっている!! 我らファントムに刃向かう者は例え同志だとしても···』


『ならさっさと僕をこの場で始末しろ。そうすればあんたらは、今この場で敬愛する【ルシオラ様】に褒めて貰えるぞ』

『き、貴様ぁ!!』



『もういい。止めろ』

『で···ですがこの男は我らを裏切って!!』



『···私は止めろと言っている!!』


『ひいっ! も、申し訳ございませんっ!!』



『伊遠、そこまで言うなら私は貴方を止めはしない。何処へでも去ると良い』

『お前に言われなくてもそうさせて貰うさ。

僕には僕自身の目的がある、ここ(ファントム)にいる以上目的一つすら達成出来そうにないわ。

···あぁ、一つ忠告してやる』


『何?』



『これからも馬鹿な事繰り返し続けてたら、何れお前らが後悔するぞ······ルシオ』




―···。




陸道伊遠がファントムを去った日の事を思い返していた。

伊遠のずば抜けた知識と頭脳は、ファントムに取って極めて有益かつ不可欠な物だった。

しかし一部のメンバーによる暴走が志(こころざし)を共にする同志を死なせてしまった。


伊遠が求めているものと自分が求めているものは決定的に違っている、自分には自分の目的があると告げ彼は組織から去っていった。

普段から相当力を抑えている見たいだったが、伊遠もまごう事無く『サイキッカー』だ。制御に関しては下手をすれば自分より上だろう、だが彼の『異能力』を自分を含めて誰も見た事がない。


しかし自分が止めなければ伊遠の挑発に乗った同志は、確実に彼の強力な念動力で返り討ちにあっていた。

部下達のネットワークにより日々増大していく多くの同志達だが、目的を取り違えた彼らの暴走は止まることを知らない。


聞けばまた末端の同志が同じ異能力者に対して騒ぎを起こしたと聞き、自身の現状の行いに対する不穏ばかりが高まっていく。

正に彼の言葉通り、ファントムと言う組織は自分の意図しない方向へ少しずつ目的を取り違え初めて来ている。



「あのー···」

「!···何か?」



気がつくといつの間にか少女が立っていた。

自分を覗き窺うかの視線で見る様に、薄紫の長い髪を二つのお下げにまとめた小柄な少女。

少女自身は念動力を制御して抑えているようだが、反応した時に微弱な念を感じ取った事から彼女は異能力者だ。


「あはは···いきなり声かけてすみませんっ、この辺りで薄紅色の長い髪の男の人見ませんでしたか?」

「いや···私は知らない」

「そうですか···」


目の前の少女は異能力者とは思えない程、明るい雰囲気をだしていた。

おそらく彼女は今も異能力者への非人道な実験等とは、無縁の世界で暮らしているのだろう。



「君は異能力者か?」



日本に長くいる為か流暢な日本語で話しかける、異能力者と言う言葉に反応したのか少女は目を丸くさせる。


「あ!? え、その···」

「気にする事はない。私も異能力者だから」


相手が異能力者なら自分の力の事も隠す必要はない。

だからと言って争いとは無関係の異能力者を、無理矢理組織へ勧誘する気自体などないが。


「いや···実は私が探してる人もそうなんです。普段から家族に力を隠せって言われてるんですけど」


やはりこの少女、普段から隠して暮らしていたようだ。それ以前に彼女は目の前の自分が恐くないのだろうか?

いや、そもそも自分を知らないのだから警戒しなくて当然だろう。



「すまない。野暮な事を聞いてすまなかった」

「いいえ、私の方こそ。答えてくれてありがとうございます」



異能力者の少女は頭を下げるとすぐに走り去っていった。

彼が放った言葉が酷く頭に焼き付く。


人間達に虐げられた異能力者達を解放すると誓った筈が、自分は一体何を間違えている。

『約束を果たす』と誓ったのに、何処で歯車が狂ってしまったのだろう。




『後悔するぞ······ルシオ』




薄紫の髪の少女の後ろ姿を見送る青年の名はルシオラ=コシュマール。

今、世界最大の脅威となりつつある異能力者集団・ファントムの若き総帥。



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