第77話

エルベレスの部屋にはいつも通りエルフの侍女たちが溜まっていた。

非番の子達も夜になるとエルフ王の部屋に集まってくる習性がある。

今日はエルベレスもその中に混じってカードゲームをやっている。

タマが土産に持ち込んだトランプだろう。

輪の中にはサルビアの顔も見える。

隣に座った侍女が遊び方の手ほどきをしているようだ。

「あ」

エルベレスが気付いて立ち上がろうとしたのを手で制し、隣まで歩いて行った。

侍女たちは気を利かせて輪を広げ、2人分のスペースを作ってくれる。

彼女たちがロングスカートでふわっと座る姿が気に入っていることは伝えてあるので、茶菓子を準備に行った当番の侍女以外は座ったままでにこやかにしている。

「エルベレス」

「はい」

隣に座ったついでに肩を抱いて軽くキスをする。

「お前に聞きたいことがある」

「人払いはしなくてよろしいですか?」

「この部屋の前までは転移で来たからな、邪魔者はいない」

「この子たちに聞かせても?」

「エルフの事だから」

「わかりました。なんでしょうか」

エルベレスは座ったままこちらに身体を正対させた。

「ギルリルはエルフ王候補だよな」

「はい」

「俺の正妻にしたら何か問題はあるか?」

「王としてお答えします」

「うん」

「問題はありません。他の候補者を正妻にしない場合、後継者はギルリルで確定します」

「そうか」

「母親として伺ってもよろしいですか?」

「うん」

「ギルリルを正妻にするという事は皇后陛下も承諾されているのでしょうか」

「もちろん」

「ギルリル、あなたはそれを本心から望んでいるの?」

「はいです!」

エルベレスはふっと微笑みを浮かべ

「あなたの女として発言してもよろしいですか?」

「もちろん」

「優一、ありがとう、嬉しい」

そう言って目を潤ませた。

同じ後宮にいても妻と妾とでは待遇をはじめ様々な面で天と地ほどの開きがある。

エルベレスが恐れていたのは、自分が最も目を掛けていた娘が侍女から妾となって落ち着いてしまうことだったろう。

「優一に一度聞きたいと思っていました」

「うん?」

「それぞれの妻についてどう思っているかです」

「ああ」

まあ、それは妻として当然聞く権利があるだろう。

「まずミケは女を知らなかった俺に、女の抱き方を指導してくれた先輩でもあり、常に一緒に居る魂の片割れだとも思っている」

「はい」

「タマは性別人数なんでもありだが、人間の常識で縛ってはいけない奴だ。壮太やラミアとも積極的にヤっているのは知っているが、タマにとってはただの遊戯だからな。俺の目の前でミケと同じ姿でヤるのでなければ良いと許容している」

「そうなんですか」

「お前も人数は多い方が好きだよな。お前と一緒に居ると精霊っぽい感性が新鮮に感じていいよ。あと、察しているとは思うがお前の胸の形と大きさは最高だ」

「まあ」

「メルミアは、今でも高値で買い取って命を救ったことを感謝し誇りに思ってくれているな。毎回ベッドでその話から始まるよ」

「お嫌ですか?」

「まさか。そこから毎回メルミアがいかに俺を愛しているかという話になってどっぷりと濡れて行くんだよ。可愛いなんてもんじゃない」

「そうでしたか」

「メルミアはミケと同じ特性があって、性交してもしなくても、一緒に居るだけで満足が得られる」

「まあ、そうなんですね」

「すまん、お前に惚気のろける話でもなかった」

「いえ、聞いていて楽しいです。でもそうなると」

「ん?」

「ギルリルはどういう立ち位置になるのでしょう」

「人生の旅に帯同する妻だな。ギルリルの感性、頭の回転共に好ましいし、それ以上に一緒に居るとワクワクする」

「わかりました」

エルベレスはそう言うと立ち上がり、釣られて立ち上がった俺とギルリルを一緒に抱き締め

「私からお二人への贈り物です」

そう言いながら何か魔法を発動した。

素早くギルリルのステータスを開いてみると【精霊王の加護】というものがついている。

「どこへ行っても精霊の協力が得られます」

「ありがとうエルベレス」

エルフの外見について質問をする前に、女に聞いてはいけないタブーに触れていないかをチェックしてみる。

・年齢⇒エルフに限らず女に実年齢を聞いてはならないという常識は共通。

   目の前の美少女に何千何百年生きているか聞きだしてどうする・・・

・父親は誰か⇒帝国においては父親になって欲しい相手を女が決める慣習がある。

      種馬よりも共に育てたい相手が重要なのだ。

・子供の数⇒生命魔力が定着しないで3歳未満で亡くなる子供が多いため、

     帝国では3歳になってから子供としてカウントする慣習がある。

     母親の中では亡くなった子も実の子なので

     子供の数を母親に問うのはデリカシーのない行為と見做される。

(大丈夫そうだ)

「エルベレス」

「はい」

「これからギルリルを外国に帯同しようと思う。ただ、そこは人類至上共和国と言う人間以外は排除しようとする国の可能性がある。だからギルリルの外見を人間の少女に擬態させたいが、かまわないだろうか」

「はい、エルフにとって重要なのは外見よりも、森の中で生き抜く力ですから」

(そういえば、メルミアを耳のとがった美少女という、俺好みの姿に変えた時も何も言わなかったな)

「そうか、ありがとう、ではギルリル」

「はいです」

「改めて問う、汝は我妻となることを望むか」

言葉は少し変であるが、宣誓は公式な発言となる。

今までのオフレコの話とは違い、エルフ王立会の下、いつどこでかくのごとく誓いが立てられたと公式文書に記録されることになる。

もちろんそれは当番の侍女が筆を走らせ、エルベレスの決裁の後、皇女にわたることになるのだが公式な発言である以上、求婚であっても皇帝が臣下にお願いするなどという形はとれないのだ。

「はいです。ギルリルは生涯、あなたにすべてを捧げることを誓いますです」

これ以上ない返事がギルリルから帰って来た。

侍女達は一斉にわぁっという歓声を上げた。

すぐにこの話はエルフのネットワークでも広がるだろう。








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