第74話

『陛下』

ミケの所へ戻ってくつろいでいるとファイアフライから念話が入った。

『どうした?』

『潜伏中の魔物から映像通信が届きましたので大ハマグリに送っています。映像を記録再生する能力があると聞き及んでいます。そちらでご覧ください』

『わかった。良い判断だ』

『では引き続き監視を続行します』

『頼んだぞ』

潜伏中の魔物とは先日タマが各貴族に向け潜入させた魔物達のことだ。

竜が放った探索魔法に気が付いた魔物が利用を思い付いたのだろう。

タマにダイレクトに情報を送るより近距離なので魔力消費が少なくて済む。

「ミケ」

「はい」

ミケに顔を向けた瞬間、俺とミケとギルリルだけが大ハマグリの部屋に転移していた。サルビアにはエルベレスがうまく対応してくれるだろう。

「おい、大ハマグリ」

「挨拶は抜きでええね」

「おう、再生してくれ」

タマは何かをしていても俺に必ず目をつけている。呼ばなくても大丈夫だろう。


「ハマちゃん、ホタルちゃんが言った通り、映像を中継するから記録してね」

暗転した部屋の中にまず映電の声が響く。

「ええで」


ぱっと目の前に応接室を上から撮影したような映像が出た。

角度的にシャンデリアにでもくっ付いているのだろう。

「・・・それも困ったものなのですが」

肥満体の男が汗を拭きながら話している。

「頭領からお借りした杖も奪われたようなのです」

頭領という事は、話し相手の老人がカシーノという事になる。

「なに、あの杖は魔力を流さない限りただの棒でしかない。ろくに魔力のない無能な王にわかるわけなどないわ」

「そうですな、あの女の姉妹を人質にしている以上、暴露される恐れもないですな」

「そういえばそいつらはどうした?」

「いつもの通りです。穴の中にいたところ落石事故がありましてな」

「そうかそうか、それを知らずにあの女は今頃王に切り刻まれていることだろう」

「王は特殊娼館で遊んでいるようですな」

「王城でなくてか」

「空で戻った馬車の御者に確認したそうなので間違いありますまい」

「馬車を返すという事は泊まるつもりだな」

「悪逆非道な王らしいといえばらしいですな」

「こちらも安心して攻城砲を推進できるわ」

「鉱山や砕石運搬用の木材採取とエルフ連中を騙して王城のすぐ近くまで森の中の道を作らせたのがうまくいきましたな」

「それを知る最後のエルフの口もあの女連中に封じさせたわけだしな」

「さすが頭領のお考えは違う」

「お前では無理だったであろう? ずいぶんとお気に入りだったらしいしな」

「いえいえ、たかがエルフ。ですが手を汚さずに済んだのは助かりました」

「ところで、餌の方はうまくいっているか?」

「日和見で生き残った貴族連中には暴発の種を仕込んでおります」

「王は無能でも若い女だけの部隊は強いようだからな。王都からできるだけ離れてもらわねば困る」

「辺境伯領で狼煙のろしが上がる手筈てはずですので」

「十分だな。奴らと戦端を開いたタイミングで王城を砲撃し、混乱に乗じて突入、王を討ち取って成り代わってしまおう」

「時期的にもいいタイミングですな」

「そうよ、部隊もそうだが内政も優秀な官僚が支えているということだ。財宝も後宮も含め、全て乗っ取ってしまえば良い。どうせ無能な王が俺とすり替わったところで誰も気にしないだろう」

「他国への支払いはかなり厳しくはなりそうですが」

「なに、俺とお前が贅沢して暮らせれば国の半分くらいくれてやっても問題ない。逆に連中の方が金を生むかもしれんぞ。惜しげもなく分解した攻城砲を技術者と一緒に大量に寄越すような奴らだ」

「まあ、外交は頭領にお任せいたしましょう。私めは一介の商人ですので」

「その商人があまりにも破格な値段で武器を提供しすぎていたりはしないな」

「そのあたりはご安心を。戦勝の暁に王城に眠る財からお支払いいただくという密約で進んでおります」

「よし、では暴発の種を芽吹かせろ」

「承知いたしました。頭領もご武運を」


ハンスが部屋から退出し、カシーノがソファで仮眠を始めたところで映像が終わった。

「これでおしまい」

「ああ、大ハマグリありがとう」

「へへっ」

「ミケ」

「はい」

「帝都に向けて森林内をゆっくりと進む部隊を感知できるか」

「たくさんの人間が森林内を行き来しているのは感知できます」

「伏撃や襲撃に適する地点を見積もってくれないか」

「はい。師団長と一緒に作戦室で見積もります」

「出来たらメルミアも呼んで部隊運用を考えさせてくれ」

「わかりました」

「ギルリル」

「はいです」

「お前はメルミアの所に戻り、サルビアを連れだしてしばらく面倒を見てやれ。侍女仲間や非番のエルフの所へ行ってもいいし、細部は任せる」

「わかりましたです」

「ミケ、送ってやれ」

「はい」

その場からギルリルの姿が消えた。

「俺は少しここで仮眠してから作戦室へ行く」

「はい。ではお食事を作戦室の方に準備しておきますね」

ミケの姿も消えた。

「大ハマグリ、貝に入れてくれ」

「ええで」

貝殻がぱかっと開いた。

とりあえず服を脱いで貝の中に入り、仰向けになるとジェル状の物体が身体を包んでふわっと浮かんだ。

「抜かんでええの?」

「ああ、今はただ、2時間ほどぐっすり眠らせてくれ。夢もいらん」

「わかった、閉めるで」

いつもなら圧迫感を感じさせないよう星座などの投影をしてくるのだが、今日は真っ暗なままだ。

大ハマグリが身体をくっ付けて来る。

海の生物らしいひんやりとした感触が心地よい。








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