第54話

「これは、貝だな」

部屋の中に巨大な貝がいる。

王宮に戻り、馬車から降りた時に大ハマグリが

『来てや~』

というので彼女の部屋に行ってみると明らかに寝台よりも大きな貝がそこにいた。

「これを焼いて食ってくれという事か?」

「ちゃうわ!」

貝がぱかっと開いて、全裸の大ハマグリが手招きをした。

「二人とも入って来てや~」

ミケはふうっとため息を吐くと

「大丈夫、危険はないですよ」

と後方に控えていた娘2人を招いて服を脱ぐと、先に貝の中に入って行った。

娘たちは俺の服も脱がしてくれる。

「どれどれ」

磯の匂いのする貝殻の中に入ると、そこに満ちていたのはただの液体ではなく。ゼリーのようなゲル化されたものであった。

「仰向けに、そうそう」

身体は沈むことなく仰向けに寝た状態で柔らかいゼリーのようなものにホールドされた。

貝の蓋が閉まると、暗闇に星空が現れた。

プラネタリウムのつもりなのかもしれない。

「大ハマグリ、無理だぞ」

「なにが?」

「帝国に宇宙船はない。あの星をくれというおねだりなら今は無理だ」

「なんでそうなるねん」

「違うのか」

「ちゃうって」

「では、なんなんだ?」

「ほら、星空見ると、ロマンチックな気分になる言うやろ?」

「お前が星座の解説とかしてくれるのならなるかもな」

「あーむりむり、じゃあええわ、次」

ぱっと異国の風景が現れる。

「これは?」

「海の向こうの街やで」

「ああ、蜃気楼か」

大ハマグリが吐くものといえば蜃気楼と相場が決まっている。

蜃気楼である以上創作ではない。実在する街のはずだ。

「明らかにこの建物は大聖堂だな」

大聖堂を戦略的に見れば、敵は国家単位でなく、統一された宗教を基軸にした連合になる可能性が高い。

「お前の持つ映像の価値は高い」

「そうか? えへへ」

「ちょくちょく遊びに来てもいいか?」

「もちろん」

まあ、なんだかんだ弄ってしまったが、これを作り上げた能力は評価しなければいけない。

「お前、これほどのものを作ったという事は工作は得意だな」

「貝殻作ったり土こねたりは得意やよ」

「映電に言っておくから一緒に飛んで、帝国の上空から見た景色をこの貝くらいの大きさで模型に出来ないかな」

大ハマグリは少し考えていたが、出来ると閃いたのか頷いて

「やったことないけど試してみるわ。見たものは記憶しておけるしな」

と笑って言った。


「エルベレス~よかった、帰っていたか」

ミケに断って一人で夜エルベレスの部屋を訪ねると、ちょうど侍女と一緒に明日のパンを仕込み始めるところだった。

「はい先程、って、どうなさいました?」

エルベレスに促されてソファに深く腰掛ける。

「いや、今日食評の日なので検食したんだが・・・」

「はい」

「どうやったらこれほど不味くなるんだというくらい酷かった」

頭ごなしに不味いと言うと文字通り調理人の首が飛ぶので、どのようにすれば改善するかということを無理矢理考えて伝えなければならないところが面倒だ。

「あら・・・」

言外の苦労をエルベレスは察してくれるようだ。

「そういうえば、スライム競争はどうなった?」

「もうすぐメルミアが来ますから、あの子に聞いてあげてください」

「わかった」

「優一にパンとお茶をお出しして」

「はーい」

侍女はいつものですねと言わんばかりに逡巡なくお茶を淹れに行った。

「助かるよ」

「食事ならいつでも準備できますから、頼ってくださいね」

「いい女だなぁ、お前」

「ミケさんやタマさんほどの力はありませんが、お役に立ちたいですから」

「エルベレス」

「はい」

「まだ夢の段階だが、いつかは海の向こうに壮太とエルフだけの国を樹立出来たら楽しいだろうなと考えている」

「独立国ですか?」

「いや、壮太の性格上、内政や外交などやりたがらないだろうから従属国だ。

エルフも最精鋭を出してくれているのだし、これから行おうとすることの対価としてならありだろう」

「そうですね。遊撃隊からの人選については自信を持っています」

「そういえば冒険者には結構能力の高いエルフの男がいるだろう」

「いますが、自分より能力の低いオスには見向きもしないですよ、あの子たち」

「壮太は異種族だからセーフなのか」

「それもありますが、エルフの男であそこまで分け隔てなく愛を注ぎ続けられる者など存在しません。何というか、成熟した個体から幼児に至るまでを愛してくれる能力は誰もが認めるほどに高いです」

(オタクで良かったなぁ、壮太)

「失礼します」

メルミアが部屋に入ってきた。水色のネグリジェのようなものを着ている。

薄絹を使っているのか下着が透けているが、これはこれでまた可愛い。

「あ、あなた」

驚いたのではなく、やっぱりいた、嬉しいという表情だ。

「ここにおいで」

「はい、こんな格好で失礼します」

(いや、絶対一緒に寝たくてそれ着てるでしょ・・・)

メルミアはまるで子供のように膝の上に座る。

「今日はいろいろと大変だったな」

「はい、大変でしたけど、あなたのために頑張れました!」

髪を撫でる代わりにギュッと抱き締めてみる。

「その様子だと、スライムの方も上手くいったみたいだな」

「はい、あの子たちの作戦がうまくいきました」

「作戦?」

「はい、隊を二分し、自分の矢を渡した弓を使わない組と弓組に分かれました」

「うん」

「弓組は元貴族の近くにいるスライムから攻撃し、弓を使わない組はスライムを朴葉に乗せて運び、それを壮太が片っ端から叩き潰すという」

「おお、頭を使ったな」

「はい、圧勝でした」

「圧勝か」

「元貴族が総出で潰したスライムの数は壮太一人で潰した数より1桁少なかったっです」

「連中なんか文句言ってなかったか?」

メルミアはニヤリとして

「会場に案内したときに話が違うとか訳のわからないことを言っていました」

元貴族らが不正をしようと前日に潜入させた連中は竜たちが美味しくいただいてしまっている。

「何の話か分からんな、で、お遊び中は?」

「向こうの弓使いがあの子たちを直接狙って来ました」

「怪我はなかったか?」

「はい、スライムは当てるだけで潰れるのであの子たちは普通の弓の射程外から、それも走り回りながら矢を射ていましたから」

「エルフには被害なしか」

「はい」

「当然仕返しはしたんだろ?」

「はい」

弓使いが弓使いに矢を射れば射ち返されるに決まっている。

お遊び中だろうが狩りの最中だろうが戦闘中だろうが、それは変わらない。

「死体は放置しなかっただろうな、まあ放置してもタマが持っていくとは思うが」

タマはアンデッドを作ってコレクションしているらしい。元の世界の感覚で言えば1/1フィギュアだ。魔界は広いのでスケールダウンの必要がないのだろう。

「元貴族が持ち帰りました。まあ実際に持っていたのは奴隷でしたが」

「ならばよし」

「あ、ちょっと授乳してきます」

「ほい、いってら」

抱き締めていた力を抜いてメルミアを放した。

メルミアはすぐに戻りますと言って部屋を出て行った。

「あ、エルベレス、そう言えば学生は寮生活だっけ」

「元貴族だけは拒否したので通いですが」

「あ~、エルフと一緒に云々か」

「はい」

「まあ、授業に支障なければ構わんが・・・男女別だよな?」

「原則的には、ですが」

「なんだ、その原則的っていうのは」

「今度はエルフ側が、その、毎日2人ずつ壮太のお世話番に付きますと言ってきかないので・・・」

「おい、それって」

「はい、入浴のお世話から、ベッドの中まで含んでです」

「エルフが一緒って、夜間、授業の復習や予習には最高なんだがなぁ」

「はい、それで利害を考えると、就学期間中の妊娠以外の害はないと判断いたしましたので、禁断の実の使用を条件に可といたしました」

「禁断の実?」

「はい」

エルベレスはスカートのポケットからライチのような形をした果実を取りだした。

「エルフ族にとって子供が出来ないというのは本来困った事態ですので、通常はこの実を見かけても採取することはありません」

「ああ、避妊効果があるという事か」

「はい」

「どうやって使うんだ?」

「まずは女がこの実を食べます」

「うん」

「男も食べますが、この実の中にある種を噛み砕いて、それを女の膣に入れてから挿入します」

「それって、女には不快じゃないのか?」

「一時的には、でもそれで着床は防げます」

声の調子から、本当は使わせたくないのだという気持ちがわかる。

「まあ、卒業するまでだ。耐えてもらおう」

「はい」

24時間、毎日入れ代わり立ち代わり、つきっきりで世話をされ求められる環境というのは普通の男なら悲鳴を上げるところだろうが、壮太なら嬉々として受け入れていそうな気がする。












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