第23話
1
「召喚者3名の1組と召喚者1名の2組は十分離隔しました」
ミケが画面を見ながら分析をしている。
「これで相互に連絡が取れないはずです。魔道具でも持っていない限り」
「魔道具?」
「向こうの世界では念話の代わりにスマホという魔道具があると前陛下がよく妾に
自慢していました」
「ああ・・・」
もしスマートフォンを持ち込めたとしても携帯電話各社がこちらの世界にアンテナを展張しないことには使えないだろう。
「それは気にしなくて大丈夫だ。それでなくても山や森はスマホと相性悪いしな」
「そうなんですね」
「タマ」
「なぁに?」
「進行方向に崖登りあり吊り橋ありとかのアドベンチャーコース仕込めないか」
「できるよ~簡単簡単」
「エルベレス」
「はい」
「2人に連絡、休憩をしながら話を引き出せ。洗脳の程度が知りたい」
「わかりました」
「タマ、コースが出来たら教えてくれ」
「え? もう出来てるけど」
「早っ、お前は神様か」
「違うっ、魔王だよ」
「お、1組が止まったな」
「目の前に現れた崖に呆然としているようですね」
「でかしたぞ、タマ」
「へへ」
「ユーイチ、こちらを」
「ん?」
「敵主力の一部天幕が撤収されたので出発の準備かと思っていたのですが」
「何か運び込んでいるな」
「はい」
「映電、もう少し広場に寄れないか?」
「木立ぎりぎりまで降りま~す」
どうやら映電はこれが素のしゃべり方のようだ。
「特に荷馬車の荷台を注視」
「は~い」
敵の野営地内に出現した広場がどんどん近くなる。
「あれは、樽か?」
「樽に見えますね」
「兵士たちが統制なく動き回っているように見えるが」
「不規則に動いている兵士は、森から枯れ枝を抱えて運んでいるように見えます」
「という事は後ろの幌付きの馬車は薪と肉かな。どちらも雨には弱いだろうから」
「何なんでしょうか」
「多分酒宴の準備だな」
「酒宴ですか」
2
「ええ? この崖登るの?」
心底嫌そうな声で抗議したのはJKである。
「はい」
ミリィ(仮名)は微笑みながら爽やかに言った。
「この崖を越えればだいぶ近道になるし、この辺りに魔物はいないので、まずは休憩してからさくっと登っちゃいましょう」
「えー、でも」
「大丈夫っ! 先頭は私が行くから、同じ場所を手掛かり足掛かりにすれば安全よ」
「ラッキー」
男達は喜ぶ。
「バカ」
JKが軽蔑の視線を送る。
「崖登りには慣れてないんでしょ? 先導者がいてラッキーと思うのは当たり前では?」
あからさまな演技ではあるが、不思議そうな顔をするミリィ(仮名)の手をJKが掴み、少し離れた場所に誘導する。
「違う違う、あのバカスカート覗こうと考えているのよ」
「スカートを?」
「うん」
「ああ・・・それなら大丈夫。ちゃんとアンダースコート履いてるから」
ひらりとスカートをめくって見せる。
「あ、そうなんだ」
「それに登り始めたら私の股間を眺めている余裕なんかないと思うし」
「いや、男子のエロパワー舐めない方がいいよ。しかしこの世界にもアンダースコートってあったのね」
「エルフが短いスカートを履けるように帝王陛下が考案されたの」
「へ?」
「あなた女の子だから教えておくね。辺境伯って私達エルフを性奴隷にしていたのよ。それを救ってくださったのが帝王陛下なの」
「ええ?」
「だからもし、あの男たちが襲ってきても私は平気だから、あなたは逃げてね」
「何か話が変」
「私は事実を言っただけ。それをどうとってどう考えるのかはあなたの自由よ。
さあ行きましょう」
2人が男子のところに戻ると、どちらが2番目に登るかでじゃんけんをしているところであった。
「ちょっと聞いて」
「なんだぁ?」
「今からあなた達に3つの選択肢を示すわ」
「お?」
「なんかゲームっぽい」
「・・・」
「よく聞いてね。そして自分で考えて答えを出して」
3人の視線が集まる。
「このまま王都に進むか、遅れている人を待って野営するか、元の世界に帰るか、
その3つから選んで。できたら理由と一緒に答えてほしい」
「そんなん決まってる」
背が高く筋肉質の方の男子が自信満々に言った。
「王都に行って悪逆非道の帝王を倒す。後宮に捕らわれているという1,000人の美女をもらう約束しているしな」
「俺も王都に行く」
神経質そうな男子が当然という口調で言う。
「地下の財宝を好きにしていいって言われてるんだ。大金持ちだぜぇ」
「私は」
JKは吐き出すように言った。
「元の世界に帰りたい!」
「まじかよ!」
「疲れて怖気づいちゃったわけ?」
「決定を嘲笑ってはいけない。あなたはここにいてね。すぐに元の世界に返すことが出来る方と連絡をとるから」
「え、ここに置いていくの?」
「ちょっと黙って」
4人のちょうど中央にセーラー服の女の子が現れた。
「見てたから連絡しなくていいよ」
言うまでもなくタマである。
作戦室から姿が消えたので幻影を飛ばしているわけではないようだ。
「こっちは任せて、ほらほら男は崖登る崖登る!」
「お願いします! 男の子はついて来て」
いきなり現れたタマに驚いて思考が停止したのか、タマの正体を探ろうともせず2名の男子はミリィ(仮名)の後を追いだした。
「よくぞ帰ることを選択した」
男子たちが見えなくなってからタマがJKに話しかけた。
「えっと、中学生よね」
「オレか? オレはただの魔王だよ」
「魔王!?」
「森の中を見ていたら、あまりにも楽しそうなのでこっちに来た」
「えっと、私死ぬの?」
「オレは死神じゃなくて魔王! 元の世界に帰りたいと言うのが聞こえたから、その願いをかなえる為に来たんだよ」
JKはほっとした表情になった。
「おかしな夢を見たと思うんだね。あと先に行ったのは彼氏?」
「違う違う!」
「ならいいや、他の男がどうなったかなんて気にしちゃだめだよ。じゃぁね」
タマがそう言い終わった瞬間、JKとタマが写っていた画面はタマだけとなり、そしてその画面は消失した。
3
「おいしい!」
2組の1つだけの画面から、肥満体の男子の横に密着しているエルフの声がした。
「そ、そう、よかった」
「こんなにおいしいものを食べたのは初めて!」
「その、焼きそばパンで喜んでもらえてよかったよ」
「貴重な食料をありがとね」
「だ、大丈夫、僕にはまだハンバーガーがある」
そう言ってハンバーガーにかぶりつく。
ハンバーガーを2口で食い切っているのでかなりの大食漢のようだ。
「そう言えば、お兄さんは王都に行ってお仕事でも探すの?」
「え、あ、うん」
男子は少し考え
「王都には悪い帝王がいて、それを倒す勇者として呼ばれたって聞いた」
「勇者様だったんだ」
「あ、たぶん違う、先に行ったのがそうだと思う」
「え?」
「僕は体育1しかとったころないんだ」
「はい?」
「えっと、通信簿ってわかる?」
「わからない~」
「えっと、学校の成績なんだけど」
「学校! お兄さん貴族様だったんだ」
「え? 貴族様?」
「平民で学校に通う人なんていないもの」
「そうなの?」
「うん、じゃあ、私みたいな奴隷上がりの平民は馴れ馴れしくしちゃだめだね」
「奴隷?」
「エルフの女の子はついこの間まで辺境伯と奴隷商人によって性奴隷にされて、あんなことやこんなことをされていたの」
「ええ?」
「それを救い出してくださったのが帝王陛下だから、辺境伯は帝王陛下を恨んでいるのよ」
「そうだったんだ」
「だから私は辺境伯に仕返しがしたい。手伝ってくれるならうれしい」
「だ、だめだよ」
「え?」
「君、かわいい、危ないことだめだよ」
「ラブラブのところごめんね~」
タマが2人の目の前に現れた。
「うわっ」
「魔王様!」
「ま、魔王!?」
エルベレスを通じタマが行くだろうということを伝えてあるのでエルフは驚かない。
「そう、オレ魔王!」
「オレっ娘だ!!」
(そこに喰いつくか・・・)
「話は聞いてたよ、にひひ」
「ねえねえ」
「なんだ?」
「黒のタイツ履いて! 絶対似合うから」
「こうか?」
「も、萌え~」
(オタクかよ・・・)
「何だかわからんが、願いを聞いたところで質問するぞ」
「う、うん」
「これからどうしたい?」
「えっと、何でも言っていいのかな?」
「いいとも」
「じゃ、じゃあ、このエルフちゃんを彼女にしたい」
「それだけか?」
「こ、こんなに親切にしてくれた女の子、初めてなんだ」
「ちなみに聞くが、こっちの世界に永住する気はあるか?」
「もちろん!!」
「元の世界に未練は?」
「えっと、R18データだけは消去したい」
「よくわからんが、それは元の世界に戻せばできるのか?」
「出来る」
「お主の方はこの男と番になってもいいか? 姿は当然変わるが」
「100年くらいでしたら」
「わかった、元の世界に戻すから、深夜までにやりたいことを終えて鏡を見ろ」
「鏡?」
「そうだ、どこの鏡でもいい。お前でない奴の顔が写る。迷わず手を差し出せ」
「わ、わかった」
「姿はそいつと入れ替わるが、100年は生きられて生活に苦労しない程度には魔法も使えるようにしてやろう」
「ま、マジで?」
「オレは約束は違えない。理解したか?」
「う、うん」
「では、行くが良い」
タマがそう言った瞬間、映像は消えた。
「ただいま~」
タマがエルフを伴って作戦室に帰還した。
「エルちゃんさあ、この子100年ほど借りていいかなぁ?」
「はい、構いません。本人の意思ですし」
「タマ、よくやった。おかげで脅威になり得る召喚者は半減した」
タマに近づいて頭をなでると、心の底から嬉しそうな顔をする。
「君たちも大したものだ。エルフの機転に感謝する」
「こっ光栄です」
「で、タマ、誰と入れ替わらせるんだ?」
「地下に飼ってる奴いるじゃん」
「ああ、ゾフィーの弟な」
「そそ」
「分かった、任せる」
「任された!」
タマは楽しそうにエルフを連れ、歩いて作戦室を出て行った
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