第15話
1
「なんか久しぶりに飲んだけど楽しかったな」
「はい、やっぱりお酒はいいですね」
ミケはかなりいける口で、様々な酒を10杯は注文していた。
メルミアはミケほどではないが、いくら飲んでも顔に出ない。
「しかし、ここ、本当に入れましたね」
以下が酒場で得た情報である。
・貴族は毎日夜会を開くので昼まで起きてこない
・見栄えを何より気にする辺境伯の館び表門は貴族しか通行できない
・納品や用のある平民は裏門から入る
・裏門は24時間いつでも通行可能で門衛も馬車が来た時に形だけ調べるに過ぎない
・貴族は寝ていても食事の準備や夜宴の後片付けなど平民や奴隷はそこかしこで働いている
・貴族の食事を仕切っているのはマルコスという男で、納品や給仕に関しても権限を持っている。出征の際にも付き従う
・以前は騎士以下は出陣の際に武器や食料は自弁で参加というのが常識であったが、辺境伯が貴族のみ武器食料を支給することになり、食事については野外であっても大きな天幕で毎日酒や豪華な料理が存分に振舞われるらしい
「まあ、昨日は良質な情報が得られたな」
のんびりと敵の本拠地を歩いているわけだが、この世界ではまずステータスが確認されるようで、大商人とその妻、そして護衛の戦士という編成を疑う者はおらず、一切誰何を受けないので好き勝手に歩き回っていられるというわけである。
「あれがマルコスです」
扉から出てきた恰幅のいい中年男を見てミケが囁いた。
ミケは個人個人が持つ「気」という魔力を辿れるほかステータスを見たり書き換えたりできる能力の持ち主である。
「見た感じただの貴族だな」
てっきり高級ホテルの料理長のような姿を想像していたのだが、黒づくめで飾りっ気のない服装をしている。
「おはようございます、マルコス様」
挨拶は先制するに限る。
「お、おはよう、え、えっと、そうか、大商人か」
あまり記憶の方は良くなさそうだが、ステータスは見ることが出来るようだ。
「出征が近いと耳に挟みまして、もし不足している物資があったらお申し付けくださればと罷り越しました」
「お、おう、それは感心なことだ」
マルコスはしばし考え
「食糧は貴族分確保してある。平民は現地調達させればいいしな。問題は火薬か」
「火薬、でございますか」
「ああ、いままで大規模な攻城は想定していなかったのでな、マスケットで1会戦分くらいの備蓄ならあるが、大砲だの地下からの爆破だの考えたら全く足りない。
仕入れ次第納入してもらえたら色付けて代金は払おう」
「ほう、この度の戦いは大砲やらマスケットやらが主役なんですな」
「おいおい、平民の武器が主役になってたまるものか。あくまでも戦場から雑魚を蹴散らすための脇役にすぎんよ」
「ほう、それでは勇壮な騎士団による戦果が期待できそうですな」
「そうあればいいがな、物語の世界と違って現実には騎士団などないし会戦は昼の間領民を磨り潰しあって多く残った方が勝ちということにすぎん。戦い方よりもいかに貴族間の利益を調整しながら戦力を投入させるかというのが伯爵閣下の腕の見せ所というわけだな、まあ商人が聞いても面白い話でもなかろう」
「いえいえ、勉強になります。では、さっそく火薬を仕入れると致しましょう。納期はありますかな」
「来週には編成を終えて出る予定なのでな、それまでに頼む」
「お任せを」
2
「聞いたよ~面白そうじゃん」
宿に戻ってタマを呼べと言ったら瞬間的に表れた。呼ばなくても来る気満々だったに違いない。
「タマ、ちょっと確認したいんだが」
「うん?」
「人間と見分けのつかない魔物は作れるか?」
「作れるよ。でもね、個性は無理」
「個性?」
「魔物は主の命のままに生き、そして死ぬものだから」
「どういうことかな」
「数だけは何万でも作れるけど、簡単に言えば命じたことしかしない。そこを守れと言われれば周囲が皆倒れようとも自分が消滅するまで守り通すよ」
「俺の近衛に千体ほど作ってくれないかな」
「いいよ。でもそれだけでいいの?」
「敵の兵力が見えないからね。こちらはとりあえず千の兵力があれば大抵のことはできると思う」
「まあ、魔力だけで生きられるし休息の必要もないしねぇ」
「では、作って城に配置してもらえるか」
「うん、じゃあ、精をもらうね」
「へっ?」
「あ、立ったままでいいから」
タマは慣れた手つきでズボンとズボン下を剥ぎ、何の躊躇もなく口に入れた。
「お、おい」
ミケとエルミアが美味しそうにしゃぶるタマの顔を凝視している。
そのミケと同じ顔のタマがミケの目の前で・・・
何この背徳感、と思っていたらミケが近づいて来て
「待ってるから」
そう言うとメルミアと何やら密談
メルミアは顔を真っ赤にしながら全裸になってミケと一緒にベッドに入った。
準備して待ってるから早く終わらせて来いってことか・・・
3
「出来たよ~」
メルミアを抱えてうつらうつらしているとタマがベッド脇に現れた。
ミケは今まで色々念話で話をしていたのであろう、椅子に深く座って寛いでいるのが見える。
「城の地下に隠しといたよ。全部女で胸もでっかくしておいた。嬉しいだろ?」
ケケケと顔が笑っている。
「1つ聞いていいかな?」
「ああ、ちょっと待って」
さすがに抱き合ったまま話を聞くというのは行儀悪いと思えたので起き上がってベッドに腰掛けた。裸であるがタマは気にしないであろう。
メルミアは部屋の隅に行ってそそくさと肌着をつけている。
タマはその様子を見てにやりとしてから真剣な表情に変えて質問に移った。
「人間が何万の軍を差し向けようとミケがいるんだから、あっという間に消し去ることができるのに、なんでこんな面倒なことをする?」
(それ、千体の魔物作ってから聞くかな?)
「タマよ、お前、刺激のない生活に退屈していたんだろう」
「うん」
「お前にもミケにも違う方向でたくさんの力を借りるが、最高の退屈しのぎをさせてやるよ。お前らのレベルで見れば戦いは芸術だしな。退屈しのぎの駒になる敵の皆さんにも戦いを楽しんでもらおうではないか、どうせ消え去るのは同じなのだから」
「お、何か楽しいことを考えているんだね」
「そうさ、それと竜は作れるかな」
「ユーイチ」
ミケが気怠そうに顔だけを向けて
「そっくりな魔物を作るより、竜族の娘を3人後宮に潜伏させてあります。もともとユーイチの護衛にするつもりでしたのでお使いください
人間に化けて魔力を隠していますが、1人で城を廃墟にするくらいの力はあります」
「うむ、城に戻ったらすぐに会わせてくれ」
「わかりました」
「それとミケ、タマ、知恵を貸してほしいんだが」
「はい」
「なーにかな?」
「どこから見ても火薬樽、だが命じればいつでも爆発するようなアイテムって作れないだろうか」
「特定の指示魔法に反応して発火させるものなら簡単にできます」
「ではとりあえず100樽ほど作って今週末には納品してくれ。その場で代金を回収するのを忘れずに」
「わかりました」
「ではこれはミケに任せる。次に遊撃だが、メルミア」
「はい」
「エルフにとって森に溶け込むのは容易い事だろう?」
「はい」
「城に戻ったらお前は解放されたエルフに忠義を植え付けて10人1組の遊撃隊を編成し、お前自体は遊撃隊長となれ」
「ええ、遊撃隊長ですか?」
「心配しなくても俺が背中から指揮をする。メルミアにやってもらいたいのは精霊族として納得のできる人選としての司令塔だ」
「はい」
「男のエルフは冒険者たちに囲われているだろうから、お前は解放性奴隷の女エルフを主体に編制してくれ。武器の購入などについても権限を与える」
「やってみます」
「うむ、あとタマ」
「ん?」
「魔王的には、いいのか? その、人間である俺にこきつかわれていて」
「魔王って言ってもあり余り過ぎて噴出災害起こしかねない魔力を魔物に変えているだけだからなー」
「そうなのか」
「使えば使うほど魔力によるひずみが軽くなるから、オレ達の寿命も延びるしな」
「私は、ユーイチに殺されるのであればむしろ嬉しいのですけれど」
ミケがさらりと怖いことを言う
「とは言え前みたいにおかしくなられても困りますので、魔力をたくさん使ってくださいね」
「ちょっと待て、っていうことは」
「はい」
「ミケやタマが身籠る条件というのは」
「本当はエッチとか生理とかは関係なくて、魔力の噴出が抑えられないような事態になると子宮の中に凝縮された魔力が宿ります。
あまりに濃い魔力が地表を覆うと生物が死滅するので、一度母体を殺すことによって地表に留めている魔力を一旦宙に放出します。そしてすぐに赤子の状態で魔力を地表の生物につなぎ合わすというわけです」
「なんか、すごい話だな」
「私たちにとっては当たり前の話なんですが」
「メルミアはもう妊娠しているんだろうなというのは感覚的にわかっていたんだけど、ミケやタマにはそういうのがないのが、やっと理解できたような気がする」
「うん、オレやミケにとってスケベな行為はただの趣味だよ」
タマはそう言うと大笑いした。
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