外道魔術師と夜の夢

「唯一無二の存在を欠けば取返しが付かない」

 某国某所。

 そこには王族に仕える二つの貴族があった。

 それぞれ王の右腕と左腕とされ、歴代の王には必ず、歴代の両当主が仕えていた。

 だが両家の仲は昔から険悪で、王の存在こそ無ければ、いつどのような方法で相手を貶めようと動いたものかわかったものではなく、両家の仲の悪さを知る一部の人間達は、彼らの動向を随時観察している次第であった。

 ただし、どうして両家の仲が険悪なのかは両家の人間しか知らない。

 右腕と呼ばれる貴族は、貿易や自衛隊等の国外に対する分野。

 左腕と呼ばれる貴族は、治安維持や事件事故の処理等の国内に対する分野とに分かれており、競い合う事もない。

 国の危機とあらば嫌々ながらも結束して事に当たれる。が、国王を介して話す事はあっても、直接彼らが話し合う様子はなく、会話と言っても一言二言交わして終わる。

 権力は平等。財力も同等。身分も同等。

 一体何が両家の仲を悪くしているのか、誰の予想も及ばない。

 過去の因縁も両家の歴史も、全て彼らの中で収められているからだ。

「【外道】の魔術師、アヴァロン・シュタインの遣いで参りました。銀髪のホムンクルスであります。どうぞ、銀髪と呼び捨て下さい」

 凛とした敬礼をする軍服のホムンクルスの隣で、紫色の髪にフードを被った少女が頭を下げる。顔も見せず、声も聞かせない彼女に興味津々な孫を、現当主の老人は静かに諫めた。

「外道魔術師め。噂通り、碌でもない存在のようだな」

「お言葉ながら、貴殿はその碌でもない存在たる我が上司にして創造主の力を借り受けたく、こちらに我々を招いたはず。唯一無二の存在を欠けば取返しが付かない事を、未だ理解出来ておられないのであれば、それ相応の対応を取らせて頂くなる事を前以て了解頂きたく思います」

 老人は隠す事なく舌打ちを聞かせる。

 元より老人が乗る気でないのは、迎え入れられた時点でわかっていた。それでも依頼して来るのだから、客として対応しようと思っていた矢先の侮辱。

 こういった場合、無理に依頼を受ける必要はなく、何なら腹いせに家の財産足り得る物を根こそぎ強奪して来いと言うのが、魔術師の方針だ。

 なのでもしも老人がこれ以上、侮辱に値する言動を取るようならば、方針に従っての処置を取らねばならない。

 かれこれそうして、今までに二桁の家が潰れたが、彼らの二の舞を踏むか否かは、老人の応対次第となる。

 が、そうはなって欲しくないらしい人達が入って来た。おそらくだが確実に、彼らが本当の依頼人だと、銀はもちろん紫も見る。

「お願いします! 娘を、娘を蘇らせて下さい!」

「お願いします!」

「貴様ら止めないか! この国の右腕たる我らが、ホムンクルス如きに膝を突くでない!」

「しかしお爺様! この機会を逃せば二度とありません!」

「掛けるしかないのです……私達の、私達の子を……っ、ぅぅ……」

 ドレスを濡らして泣きじゃくる女性の背を、優しく撫で下ろす男性。

 王族の右腕と呼ばれる貴族の次期当主とその妻の娘にして、ただいま老人の側にいる少年の姉に当たる人物――即ち、エルヴィラ・ライトの代わりとなるホムンクルスの作成であった。

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