外道魔術師と負の遺産
「今は無理と遠ざけて、そのまま忘れてしまっては本末転倒だ」
『臭い物に蓋を』とは、誰の言葉だっただろうか。
都合の悪い面倒事は一時的にでも遠ざけ、封じてしまえと言う考え方。
ただの現実逃避でしかないものの、抗う力のない弱者ならば当然の如く及ぶ結論。例え一時的にでも、封じられるのならば封じてしまう方が良い。
後は後世。自分達の子孫に託して――とまでいくとさすがに聞こえが良過ぎて吐き気がするが、ともかくそう言った考え方に対して嫌悪感こそあれ、理解出来ないとは思わない。
未来の技術進化を信じ、今に封じた物を機能停止にする術が編み出される可能性に賭けるのは、一種の戦術とさえ言える。
ただし、それは戦争だとかモンスター討伐とか、あくまで数ヶ月。要しても数年規模の話に限られる訳で、百年だの千年だのと何世代にも亘って引き継ぐうち、伝説のような存在自体不明瞭になってしまう年月放置しておくのは、ただの愚策と言える。
だからこそ、男はやって来た。
遥か昔、三〇〇年も前から蓋をされてきた臭い物――過去の人間達が自分達には敵わないからと、未来の子孫達に押し付けた負債。それこそ、腐の遺産とでも言うべき――いや、今のは置いておくとして。
とにかく、男は厳重かつ何重にも施され、敷かれた結界と封印魔術をすり抜け、粗末で稚拙な数々の罠をもやり過ごしながら、蓋の奥へと歩を進める。
一万に届きそうな数の段差を降りた先、光など届かぬ暗き地下に、それは居た。
自らの体内電気で光る特殊な魚が泳ぐ池の上。天井から伸びる石柱の先が丸みを帯びて、
無論、球体にもいくつもの封印魔術が施されており、それ自体も、拘束具らしき見るからにも明らかな封印で縛られていた。
可哀想、とは思わない。
当時のそれが行なった所業に対して、過去の人間がどれだけ怯え、恐怖していたかの証だ。本当は封印などで済ませず、殺して終わらせてしまいたかったに違いない。
しかし、当時の技術では出来なかったのだから仕方ない。だからこそ、過去の先人らは、後世の子孫らを見たら落胆した事だろう。
子孫はそれの存在など最早忘却し、一部の歴史学者しか把握していなかったのだから。
ただそれ故に、こうも簡単に忍び込めたのだから、男としては悪い事ばかりではない。
「ソラ、起床時間ダヨ」
それは、岩の球体から生えていた。
言うまでもなく、本当は違う。それは岩の球体に封じられたのだ。両手と、腰から下の部分が岩と同化し、晒された上半身もまた、半分岩となっており、封印されていたとはいえ、今も生きているのが不思議なほどに劣化していた。
黒く伸びた髪の下、硬く閉ざされていた双眸がこびり付いていた岩肌を落としながら、重そうに開かれる。
下で輝く池を泳ぐ魚達の輝きを反射して、光る双眸は青と金色の
「見えているカイ? 聞こえているカイ? 自己紹介は出来るかネ? いやそもそも、自分が何者で自分が生物で、何故ここにいるか。自身の現状を把握、理解、解説出来るカイ?」
「……ここに
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