橙髪少女と異文化交流祭

好奇心と追究の果てが求めた結果になるとは限らない

 異文化交流祭。略称、文化祭。

 多くの種族が集い、学を収める魔導学校の生徒達による年に一度の祭典。

 普段は交流のほとんどない多種族の生徒同士が、屋台や出し物などの催し物を通して交流し、親睦を深めようと言うのが目的だ。

 ただしそう言った目的で開かれていたのは二十年以上前で、今となっては普段、勉強ばかりの生徒達の息抜きの機会となっている。

 昔は異種族同士の交流などほとんどなかったものの、今となっては日常茶飯事。異種族の生徒達は普段から、交流を重ねているのだから。

 とはいえ、文化祭は今も昔も大事な習慣。生徒達の日頃の鬱憤を晴らすには、最適の機会なのだから。

軽音楽バンド・ミュージック……?」

「そ! オレンジもやってみない? オレンジなら、キーボードとか出来そうな気がするんだ」

「オレンジの心象がピアノベースだからキーボードってのも、安直な気はするけどね……でも、どう? オレンジ。私達と一緒に、やってみない?」

 四分血統クォーターと翼の無い天使とに誘われ、更に小さなスライムも加えた四人で軽音楽バンド・ミュージックをする事に、いつの間にかなっていた。

 レッド・ディマーナが撥弦楽器ギター

 ワルツェ・ダンティエリオが多重打楽器ドラム

 アザミ・ハイドが低温撥弦楽器ベース

 そして、オレンジが新型鍵盤楽器キーボード――を担当し、四人で組むつもりだったのだが。

「まさかアザミの腕が届かないとはね……」

「体格の話は止めて頂戴」

「でも、困ったね……オレンジ、ベースはさすがに無理だよね……」

「はい。この構造の楽器は、初めて触りますので……鍵盤なら、辛うじて習得が間に合うと思うのですが……」

「あたしがやっても意味ないしな……どうしよっか」

「アザミが出来そうな楽器は……キーボード、かな……でも……」

 それだと、オレンジに任せられる役目が無くなってしまう。

 何より、まだヴォーカルを誰にするか決めていないのだ。ヴォーカル無しも案としては一度出たが、やはり欲しいとなったのだが、まだ誰にするかは決めていなかった。

「とりあえず、まずはヴォーカルを決めましょう? 誰か立候補はいるのかしら」

 訊いたスライムは言わずもがな、挙手するつもりは無く、天使はちょっとウキウキと浮かれた様子で、四分血統クォーターは珍しく無言で顔を背ける。

 そしてオレンジは三人をキョロキョロと見回してから、ゆっくりと首を傾げた。

「言いだしっぺが真っ先に首を背けたのはどういう事かしら?」

「いや、その……鬼の血か龍の血か、それとも悪魔の血か……あたし、その……歌とか音楽は好きなんだけど、生まれつき凄い音痴でさ……はは、ははは……」

「……ちなみに、どれくらい?」

 アザミのこの発言が、後に誰もが口を紡ぐ事のなる災厄の引き金となるのだが、それは語らぬ方が良い話。

 両膝を抱え、大きな体を部屋の隅に追いやるディマーナは一先ず置いておき、次はワルツェ。密かにヴォーカルへの熱意を滾らせていたようで、ディマーナの後だったからかなかなかの美声を披露してみせた。

 この段階では、もうワルツェで良いのではないか、となっていたのだが、当人を除く全員が興味を持ってしまったのだ。彼女はどうなのだろう、と。

「ねぇ、オレンジは歌ってみたいとか思わない?」

「でも私、今までそんな、ちゃんと歌った事なんて、なくて……その……私の歌、なんて、きっと、全然で……」

 一人はほんの興味本位で。

 一人は自分の音痴の慰めになるかもと半ば期待して。

 一人は、自分と同じくらいならデュエットなんかもかなと思って。

 普段静かな少女の鈴の音のような声が、果たしてどのように歌うのか、聞いてみたいと思ってしまった好奇心の発生は、魔術師の性と言っても仕方なかった。

 故に消費しなければとことん追求しただろうし、結果が見えた今、満足もしている。ただしそれは結果が分かった事に対してであり、結果自体に満足したわけではない。

 膝を抱えて未だ落ち込むディマーナの横で、ワルツェが同じ姿で落ち込んでいるのがその証拠と言えよう。

「じゃあオレンジ。あなたがヴォーカルって事で」

 そんなわけで、ヴォーカル、エスタティード・オレンジが誕生したのだった。

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