外道魔術師と魔婆様
『カエルの子はカエル』だけでは絶滅は必至
魔女、エリザベータ・ブラヴァスキー。
“
校長を除いた三巨頭と呼ばれる実力者の一人、とは言われているが、誰も戦っているところは疎か、魔術を行使している姿さえ見た事がない。
当然と言えば当然だ。
彼女の体は茶色く汚れたボロボロの包帯で巻かれているし、いつも浮遊する揺り籠に座っていて、立っている姿さえ誰も見た事がないのだ。
なので彼女に関しては、体を
そんな根も葉もない噂が今年、また一つ増えた。
何でも、彼女のひ孫が今年度、第五国立魔導学校に入学している、らしいのだ。
「で? どうなの、オレンジ」
薬の調合書類をまとめているスライムから、オレンジは聞かれる。
噂は一応聞いてはいたが意識した事こそなく、首を横に振った。そのまま、視線を隣に移す。
「私達も、それらしい人は見た事がないです。ねぇ、姉さん」
「う、うん……」
魔女の双子は揃って頷く。
噂通りならば、魔眼の双子魔女と同学年。簡単ながら自己紹介の機会もあるから、その時には少なからず露見するだろうから、気付かないなんて事はないはずだ。
無論、自己紹介の場にいなければ話は別だが、そうなると別の日に見た時に印象に残る。
「やっぱり、ただの噂なんじゃない?」
「何とも言い切れないところだね。結局は噂の域を出ないから」
「……会いたい、のですか?」
すると調合書類を聞いていたスライム含め、その場にいた魔女以外の三種族が硬直した。
気まずい訳ではないのだが、改めて訊かれると確かに、魔女の一族ではない自分達が魔女のひ孫に対して大いに興味を持っているのは少し不思議ではあった。
やはりそこは、血筋がそうさせるのだろう。
偉大なる魔女のひ孫。これだけで充分、興味をそそられる肩書だ。
「オレンジは、会いたくないの?」
「……会いたくない、と言ってしまうとおかしい話、だけれど……会っても、お互いに得られる物があるかどうか、わからない、ですから」
「あら。“魔婆”様の血縁なら、かなりの使い手を想像すると思うのだけれど」
「はい。でも……そのひ孫さんが、魔女とは限りませんから」
魔女の子が魔女だとして、その子供も魔女だったとしても、ではその先に生まれた子供まで魔女かなど、誰がわかる。
“魔婆”様のひ孫と言うだけで勝手に魔女と決め付けていたが、オレンジの言う通り。
ひ孫は、魔女ではないのかもしれない。
魔女の一族に生まれながら、魔女にならなかったひ孫。偉大なる魔女のひ孫に生まれながら、魔女にならなかった者。そんな人などいるはずないと、一体、誰が言い切れる。
誰もが自然と失念させていた可能性を一番に考え付くオレンジは、やっぱり普通ではないのだなと、周囲は改めて認識させられた気がした。
* * * * *
曰く、先代黒髪を嫁がせた国には『カエルの子はカエル』などという
カエル種のモンスターの幼年期はオタマジャクシなる別名で呼ばれ、水中でのみ活動する事が出来るが、成長と共に陸上でも活動出来るよう、足、手が生え、肺での呼吸を可能とする。
結局、生まれた形は違えども、同じ形に帰結する事からこの言葉は生まれたらしいが、【外道】の称号を持つ魔術師からしてみれば、滑稽な話である。
確かに、カエルから生まれるのは最終的にカエルとなる。が、そのカエルはただのカエルであると言う確証はない。
何か新たな毒を得ていたり、跳躍力が優れていたり、体色素の異常で体が薄かったり、もしくは濃かったり。何かしら、親とは違う部分を有している可能性だってあるではないか。
何より、もしも親となるカエルが別の種族と交わっていれば、違う物が生まれる可能性だってあり得る。
ニワトリの卵から蛇が生まれるように、常に異常事態、変異とは起こり得るものだ。
それは、知恵を有する種族にも言える事。
ホムンクルスの子がホムンクルスでないように、あらゆる種族の血の混ざった混血が存在するように、親が一つの一族の生まれだからと、それに縛られる必要性はない。
むしろそうした固定概念に縛られているようでは、この先の生物に進化などあり得ない。
近親相姦を禁ずる理由となった、一個性の偏りによる環境の大きな変化の際の種族大量必滅の危惧さえ、ないとは言い難い。
そう、人は進化しなければならない。
医者の家系に生まれたからと言って医者でなければならない必要はなく、騎士の家系に生まれたからと言って剣が上手くてはならない必要はない。
それは、魔女もまた然り。
『カエルの子はカエル』でも、ただのカエルでは絶滅するだけなのだと、魔術師は語る。
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