「求め続ければ理想も夢、そして現実へと」

 夜の魔女ナイト・ワルプルギス

 レキエムと同じく災禍に指定されている魔物の一体で、突如出現する災害のような存在。

 言語を操ることはなく、知性を有しているのかさえ不明。ただ突如出現し、周囲を焦土と変えるまでの破壊を続けることから災禍に指定された。

 二〇年近く前、当時魔女と呼ばれていた指名手配犯の工房から日誌が見つかり、自らが災禍へと変貌する秘薬の開発に成功したという記述があったことから、魔女という名が付けられた。

 未だ、信じ難いとする者も多い。

 だがレキエムという人間の手によって災禍となった前例もあり、完全に否定することは誰にもできない。

 そんな存在をこれ以上放置できないと考えた各大陸の代表たる九人の長は災禍の次の出現場所を予測し、最も近い騎士王国へと討伐を要請したのであった。

 が、頼みの綱であった女騎士の病はもはや末期。大戦のあった頃より騎士団の質も遥かに落ち、天下に名高い五人の魔術師に要請もせぬまま倒すことなど不可能だと言われていた。

「私の育てた騎士では、力不足だと言いたいのかい?」

 王国のある大陸の長からの通信にて、彼女は立場も何も関係なしに言い放った。

 病床に伏せているとはいえ、偉大なる騎士にそのように言われては返す言葉もなく、長は結局協力要請を引き下げることもできぬままに通信を切った。

 以上の顛末から騎士王国が夜の魔女ナイト・ワルプルギスの討伐を受け持つこととなったのだが――

「二千万!」

「一億」

「二千……五百万!」

「一億」

「さ、三千二百万!」

「一億」

 オークションのような根切交渉が続くものの【外道】の魔術師はまったく動じない。

 値下げする気は毛頭なく、引き下がる気もなく、そもそも受ける気すらない。災禍との戦いなど不毛でしかなく、受ける義理もないというのが本音で、一向に進まない報酬交渉で向こうが「もういい」と願い下げるのを待っているのだが、彼女に引き下がる様子はない。

 【外道】の魔術師が受ける気もないことは、彼女にも伝わっているはずなのだが――

「四千万!」

 自己破産も必至の金額になっても尚引き下がらないのだから、博士としてはあきれ果てるばかりである。

 確かにひと月以内に死ぬことが決まっている人間に、大金なんてあるだけ無駄だろうが、それにしたって限度があろう。現に途方もない金額が動かされそうになっていると、世間知らずの少女ですら若干引いている始末。

 大枚をはたけば人など動く。そんな風に考える人間でないことは、皮肉にも博士自身が一番に理解していた。

「そこまで必死になる問題かネ」

「超絶必死になる問題だ」

「即答かい……」

「悔しいのだ。今や世界最高戦力と言えば【外道】【不動】【覇道】【神童】【魔導】の五人の魔術師と決めつけられ、騎士には出る幕もない。大きな戦闘となれば魔術師ばかりが優遇され、騎士はせいぜい国の護衛。最悪、使い捨ての駒だ。剣を振るうしか能のない奴は魔術に敵わないと、誰もが思っている」


「だから、悔しいのだ」

 彼女が一種の劣等感にも似た負の感情を吐き出すのを見たのは、博士も初めてのことだった。

 確かに世界的に見ても、騎士という存在は名ばかりのものが多くなっている。それこそ博士が学生時代だった頃にはどこの国にも必ず騎士団がいたものだが、最近ではあまり見なくなった。

 魔術という別ベクトルの力がみるみる発展し、そちらの方が効率よく敵を殺傷でき、かつ国を防衛できると知ると、騎士という存在は瞬く間に衰退していった。

 故に、ヴェルディ・ヴィディエールという女性は偉人たり得る存在なのだ。

 騎士という衰退していく者達をまとめあげ、騎士王国などと呼ばれるほどに騎士という存在の強さを改めて世界に知らしめたのだから。

 博士もいやいやかもしれないが、彼女のことを認めているのはオレンジにも理解できた。

 何せ彼女についての説明を求めると簡潔に「理想を追い続けて本当に成し遂げたバカ」と言ったのだから。

 だがしかし、分野も違えば性格も両極端。彼女という人間が心底気にいらないのは、認めていようがいまいが変わらないのだろうが。

「まったく……本当にこれと言ったら曲がらないネェ。少しは折れるということを覚え給エ。おまえももういい歳だろうに」

「なんとなくだが、それは君に言われたくないなアヴァロン。君だって、彼との約束をまだ果たそうと――と、喋りすぎたようだ」

 博士の目つきが変わって、彼女は口を閉ざした。

 今話に出てきたというのが、災禍レキエムに花嫁を作って欲しいと博士に依頼した人なのだろうか。

 オレンジの興味は注がれるものの、二人の間でその話題が再開される雰囲気はなかった。

「まぁいい。引き受けてやるヨ。災禍の討伐」

「本当か?! どんな風の吹き回しが今起きた!?」

「うるさいネ。せっかく引き受けようというのに、取り下げて欲しいのかイ?」

「いやいやいやいやいや、そんなことはない! 是非とも頼む!」

「まったく、病人の癖して元気な奴だヨ。いっそオレンジにおまえの爪の垢を煎じて飲ませたいくらいだネ」

 突如話題が自分の方へと向けられて、扉の前にいたオレンジはビクッと体を震わせる。

 女性騎士も改めてオレンジのことをジッと見つめると、笑顔で手招きし始めた。

 招かれるまま、おそるおそる近づいてみる。と、彼女の手が届く範囲まで来たときには一瞬で捕まり、彼女の胸に顔をうずめられて頭を撫でられて抱き締められていた。

「うん、あったかい。お日様みたい。やっぱこの子だけ人間か」

「なんだネ。わかってたんじゃあないカ」

「アヴァロンだって、本気で間違えてるなんて思ってなかっただろう? 一目見てわかったさ。にしても暖かいな、この子は」

 オレンジが思っていたより、着痩せしていたのだろうか。顔の痩せ具合から想像していたよりずっとふかふかで、柔らかい胸の感触が心地いいとすら感じる。

 病床に伏せている人間のそれとは思えないくらいに温かく、優しい温もり。

 かつて自分を娘と勘違いしていた女王様がいたけれど、その人は結局最後まで勘違いしたままで、向けられている優しい言葉も愛情も、すべて娘に対するそれであり、自分に向けてのものではなかった。

 だけど今向けられているのは間違いなく自分自身であり、間接的にでなく直接愛情に触れていることでまた、違う感覚がオレンジを包んで、言葉を奪う。

 青髪に抱きつかれることもあるし、他のホムンクルスに髪を結わえて貰うこともある。

 だけどそれ以外の――言ってしまえば普通の人間に抱き締められたことはなく、本物の人肌が持つ温もりというのか、内側からほんのわずかにだけ感じる熱量が気持ちよくて、わずかにだが眠気さえ誘われる。

「綺麗な橙色。まるで薪をくべたばかりの暖炉の灯りみたいだ。毎日手入れ、してもらってるんだね。よかったね」

「は、はい……」

「……オレンジ。おまえは今回ここにいナ」

「へ?」

 間の抜けた返事が出てしまう。

 てっきりデータが欲しいから参戦しろとかなんとか言うと思って儀礼剣も持ってきていたから、オレンジも反応に困っている。

 するとオレンジではなく、オレンジを抱く彼女が問うた。

「いいの?」

「あぁ、好きにし給エ」

 短い問いに対し、短い返答。

 博士は知っているかもしれないが、彼女は何も知らないだろう。なのに今の短いやり取りの中で、互いに利点が合致したかのような、互いの意図を理解したような感じがして、それがなんとなく不思議だった。

「じゃあ借りるね。ありがとうアヴァロン」

「フン。オレンジ、もうすぐ死ぬ末期患者の話し相手になってやりナ」

 博士はそれだけ言って、青髪と白髪の二人を連れて行ってしまった。

 一人――いや、二人にされたオレンジはどうしたらいいのかわからない。

 紫髪がよくクッションを抱え込んで座っているのを見るのだが、それとほぼ同じ状況で自分が抱きかかえられていることに関して、どう反応すればいいのかわからず、言葉を選ぼうにもまず言葉が出てこなかった。

 恐る恐る見上げると自分を見下ろす女性騎士の目が笑っていて、どうしてか照れた。

「ちょっと、おばさんの話し相手になってくれるかな?」

「は、はい……」

 見た目はとてもおばさんなどと思えなかったのだが、断ることもできずオレンジはただ頷く。

 オレンジはそのあと、彼女が過去にした冒険の話を聞かされた。

 それはまるで御伽噺のような、どこかの小説家が書いた英雄譚のような物語。

 巨人族との力比べ。氷の大陸の横断。そして、災禍との戦い。

「災禍の名はアンク・スフィンクス。獅子の上半身と蛇の下半身、鷲の翼と人面を持つ混合獣キメラの怪物で、種族も獣も問わず、ただ肉を喰らい続ける災禍だった」

「それって……人を食べるということ、です、か?」

「……少し刺激が強い話だったかな。だが、そうだ」

 人を捕食する生き物。なるほど、災禍に指定されてもおかしくないだろう。

 それを彼女と博士を含めた四人で討伐したという話だが、それを語る彼女はなんだか寂しそうだった。その理由は至極単純で。

「亡くなられた、のですか……?」

「あぁ、私たちを庇ってな……奴は私にとって騎士道を目指すきっかけを与えてくれた恩人であり、アルカディオにとっても戦友であり、アヴァロンにとっても、おそらく唯一無二の親友だった男は、あの戦いをきっかけに、死んでしまった」

「……どのような、方だったのですか?」

「そうだな……己をよく、過小評価する人間だった。自分にはあれができない。これができない。無理だ。無謀だと、己を卑下する悪癖があった――が、その分他人の才能を見出し、引き出すことに長けた人間だった。自分にはできないがおまえにはこれができると、人を突き動かすのが得意な男だったよ」

 語る彼女は、今や遠き過去を見ているようだった。

 懐かしいという感覚は、過去の記憶がないオレンジに理解するのは難しい。

 だが今はもう亡き人の話なのだと考えれば、きっとそれは寂しい、と同じなのだろう。そんな自己解釈を挟むことで、理解しようと試みる。

 だがどうしても、彼女の表情と自分の中で捉えようとしている感情とで誤差が生じて、どうしても理解することができなかった。

 何せ彼女の懐かしい、の中にあるのは、寂しいだけではなかったから。

「私もアルカディオもアヴァロンも、求める理想の道中何度も違えて、膝を折って落ち込んで、諦めようとしたことがあった。その度に奴が現れ、言ってきたものだ。求め続ければ理想も夢、そして現実へと昇華する、と」

「理想と夢は同じでは?」

 理想も夢も、叶えたい望みであるとオレンジは認識していた。

 その見解は間違っていないと重ねたが、それでも騎士は首を横に振った。

「これは受け売りだが、理想と夢は似て非なるものだ。理想はこうなって欲しいと周囲に懇願するもので成立し、夢はこうなりたいという願望から己を奮い立たせるもの。周囲にこうなって欲しいという理想を掲げ、そのために自分はどうありたいかという夢を作り、それを成し遂げるためにどうすればいいのかを考えて突き詰めることを続ければ、現実となる。それが彼の考え方だったんだ」

 なんとなくだが、今の話を聞いたオレンジの第一印象として、博士と気が合うなと思った。

 博士の唯一無二の親友だと言うのも、わかる気がする。

 会ったこともない人だが、それでも遠慮なく言っていいのなら、はっきり言ってひねくれている。それこそ、博士と同じくらいひねくれた考え方をしている。

――生きたのなら、死に給え。命を浪費するのではなく、消費し給え

 根本的部分は善良なのに、言動も考え方もひねくれているから悪者に見られて、理解者が限りなく少ない雰囲気は、本当に博士の雰囲気そのものだ。

 自己否定が尋常なく強い癖して、他人を強く肯定して動かす部分など、まさにそんな感じがする。

 自分ではできないから他人にやらせよう。だってその方が効率的だ。

 と考えていそうだなと想像できてしまうから、やはり博士と似ていると思ってしまう。

 少々思い込みが強いかもしれないが、しかしそう考えると強く納得できた。

「その方と、会ってみたかった――かもしれません」

 断言はできない。

 でももしその人がいたなら、自分の生き方も見出してくれたかもしれないと、オレンジは考えてしまった。博士が聞いたら「そんなの自分で考えるんだヨ」と怒りそうだ。

 それこそ博士の作り出したホムンクルスらも、それぞれに夢を持っている。

 赤髪は精霊族族長の息子と結ばれること。

 紫髪は虹の天輪を見ること。

 黒髪は毒がなくなったので、様々な人と触れ合うこと。

 白髪はオリジナルが見た世界を自身の目で見ること。

 緑髪、銀髪は聞いたことがないが、青髪は妹達が幸せになることだといつも言っている。

 そして金髪。彼女の夢は――


  *  *  *  *  *


 騎士になりたかった。

 騎士という存在は高名で、勇敢で、淡麗で、武勲を上げれば誰もが認めてくれる。

 例え自分のことを自分が一番に嫌っていても、周囲の人々が喝采を浴びせてくれる。称賛してくれる。認めてくれる。

 自分のことを好きになりたいわけではないけれど、騎士になれば自分のことを少しでも好きになれるかもしれないと、淡い期待を抱いていた。

 騎士になりたい。騎士である自分を好きになりたい。

 こんな醜いホムンクルスでも、高名な騎士になれるだろうか。自らに誇りを持って戦う騎士へとなれるだろうか。

 例え女でも、あの人のように――

「ひぁっ……!」

 短くか細い悲鳴を上げて、金髪は急いで兜を探す。

 机の上に置かれているのを見つけて取ろうと手を伸ばしたとき、がっ、と先に手首を掴まれ、止められた。

「?????」

 何を言っているのかわからない。

 声はハッキリ出しているから、言語の問題だ。金髪の知る言語の中に、彼の操る言語はない。

 故に何を言っているのか、何故兜を取らせてくれないのかわからないまま、ただただ戸惑うばかり。

 さらに手首を掴まれていると改めて実感すると思考も言動も何もかもがフリーズして、直後、彼のことを軽々と投げ飛ばして見せた。

「?????」

 何を言っているかわからないが、「何をする」と言った感じか。

 投げ飛ばされても宙で身を捻り、颯爽と着地して見せた彼はどこからか金槌を取り出す。

 両者臨戦態勢。どちらが先に仕掛けてもおかしくない状況下。

 張り詰めた空気が伝える互いの緊張感が、己の呼吸を鮮明に意識下に置いて整わせる。

 自分の呼吸が整い次第、攻撃する態勢に両者が入ったとき、両者を共に助ける舟が着港した。

「あららぁ。二人共落ち着いて落ち着いてぇ? こんなところで暴れないでちょうだぁい」

 張り詰めた緊張感が、間の抜けた言葉にほぼ強制的に緩まされる。

 戦闘における緊張感というのは再度張りなおすのは難しく、両者共に彼女の登場で緩み切った空気を立て直す手間はかけず、互いに臨戦態勢を解除せざるを得なかった。

「あらあらまぁまぁ、目が覚めたのねぇ? アストが抱き上げてきたときはどんな子かと思ったけれど、まぁまぁこんな可愛い子だなんて思わなかったわぁ」

 豊満に実った胸に押し付けられるように抱き締められ、いい子いい子と頭を撫でられる。

 言動といい大きな胸といい、母性を感じさせる人だった。抵抗する意欲を削がれていく。抱き締める腕を振り払う意思も奪われ、柔らかで温かな胸に沈み込むように眠気に誘われる。

 ベッドに座らせられるとお茶を淹れてくれて、それを飲んで落ち着いたところで彼女も座る。

 隣に座ると花のような甘い香りがして、改めて顔を見てもかなりの美人だった。白髪ほどではないが、どこか気品を感じられる。

「改めて自己紹介ね。私はリベルデ・スタロン。ヴェルディ様から直々にご指導を頂いて、今では颶風の騎士を名乗っているわ」

「あ、あなた、が……」

「あらぁ? 知ってくれていたの? こんな田舎騎士のこと」

「き、騎士王国の五騎士、は……騎士に、憧れる人、なら、知ってる……知らない人は、博士の言葉、を、借りれば……に、にわか」

「あららぁ! まぁまぁまぁまぁ! なんて過激な言葉を使うファンなのかしら! 先輩嬉しいわぁ!」

 騎士王国の五騎士。

 百人以上いたヴェルディ・ヴィディエールの教え子の中で、最後まで残った五人の騎士を指して言う。

 湖。颶風。巨岩。焔。光芒。

 関したそれぞれの通り名は彼らの実力と実績を王国が認め、騎士の中の騎士ナイト・オブ・ナイトが認めた証。

 現在の騎士王国が誇る最高戦力であり、騎士制が廃れていく昨今においては最強の騎士達と言っても過言ではないかもしれない。

 ただいま現在進行形で自分を抱き締め、撫で回している母性を爆発させているリベルデも、その一人らしい。噂には聞いていたが、実際に会ったことはないのでわからなかった。

「?????」

 先ほど仲裁された男が、何か文句を述べている。手には金髪の兜を持っていて、気付けば鎧も胡坐を掻いて座っている彼の目の前にあった。

 取り戻そうと立ち上がりかけて、すぐさまリベルデに止められる。

 彼女が何か言うと彼は少し考えてから大きく頷き、金髪の鎧兜をまとめて持って行ってしまった。

「彼は巨岩の騎士、リャンシン・ジー。あなたの鎧が随分とボロボロだったので、色々手を加えたいらしいの。許してあげてね? 彼、鎧とか甲冑を見ると、改良したくなるから」

「直して、くれて、いる……?」

 だとしたら悪いことをしてしまった。

 謝りたいが言葉は通じないし、何より兜がないので素顔で対面しないとならない。

「青い髪のお姉さんから聞いてるわ? 恥ずかしがり屋さんなんですってね。ジーには私から言っておくから、安心して? あの子も勝手にいじったのだから、お相子よ」

「あり、がとう……」

「そういえば、アストからちゃんと謝ってもらった? あの子も酷いわよねぇ? 湖の騎士の称号を貰っているのに、女性の水浴びを覗くだなんて。騎士道の風上にも置けないわぁ」

「し、仕方、ない、です……あんなとこ、ろに、いるなんて、想定、できない、から……」

「それでも見入ってたのでしょう? いくらあなたが綺麗だからって、それはダメよ。許しちゃダメ。彼がちゃんと謝るまで許しちゃダメなんだから。お姉さんと約束よぉ?」

「は、は、い……」

 それにしても、と言ってリベルデは金髪の髪を指に絡める。

 突然のことでまた緊張し、固まった金髪は悲鳴を上げそうになるのを必死に堪えた。

 くすぐったくて恥ずかしくて、罵詈雑言を容赦なく浴びせる架空のリベルデを勝手に作り上げ、恐くて震える。

 すると薄着だったために寒さで震えていると思ったのか、毛布をかけてくれたリベルデはまた母親のような笑みを金髪に向けた。

「綺麗な髪をしてるのねぇ。私のはくせが強いから、そんなに綺麗に真っ直ぐ伸びるのが羨ましいわぁ。毎日大事に手入れしてくれる人がいるのね」

 青髪や緑髪、赤髪の姿を思い出して頷く。

 リベルデは嬉しそうに笑いながら、金髪の頭を撫で回す。

「さっきはあんなこと言ったけれど、アストが見入るのも無理はないわね。こんな可愛くて綺麗な子が湖にいれば、湖の乙女だと思っちゃうわ」

「わた、しが……?!」

「えぇそう。あなたも会いたい? 私もね、あの物語を読んだから騎士になりたいと思ったのよ?」

 金髪はまた、静かに頷く。

 リベルデの言う物語。それこそが金髪が騎士という夢、それに至るまでの理想を描くきっかけとなった物語であった。

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