外道魔術師と災禍の化身

「我に人並みの幸せを」

 ちだ、チだ、血だ。

 熱い、あつい、アツい。

 我は何者なりや。

 なれは何者なりや。

 そう、我は災禍なり。

 津波であり、火事であり、竜巻であり、地震であり、その他一切の厄災と呼ばれるもの、すべての総称たるや、それが我である。

 故に我は災禍の化身なり。

 災禍そのものであり、災禍を具現化した存在であり、体現した存在である。

 故に我の発言は災禍であり、我の発現する力のすべてが災禍である。

 災いであり、わざわいであり、わざわい

 どこまで行こうとも、果てに至ろうとも、原初に戻ろうとも、我は以外の何者でもなく、他の一切に該当しない。

 そうだ、我に流れる血は、我が今までに流してきた血である。

 我が流してきた血こそ、我の血である。

 故にかつて大地を這った我が血は、星の熱を吸い取ったために熱い。

 熱いのだ、この世の何物よりも。それこそマグマのように。

 そうだ、マグマが、我の体を流れているのだ。

 我に対して燃やした人々の憤怒、恐怖、混乱、畏怖――挙げればキリのない負の感情が、我の中を流れているのだ。

 あぁ、だからこそ、我は求む。

 我は憧れるのだ。焦がれるのだ。

 怒りと、恐怖と、混乱と、その他一切の負の感情の集合である我も、人間のような――

 幸福、冥福、祝福、その他一切の幸せの概念に、我は強く惹かれるのだ。

 災禍が、我が幸せを求めるのはおかしいか。

 我が、人並みの幸せを望むことは大変か。

 我が、幸せになってはいけないか――?

 そうなのだろう。我が世界から消えてこそ、世界は初めて、本物の平穏を得ることとなるのだろう。

 で、あろうが、我とて知識を持ってしまった生き物であり、意識を持ってしまった獣であり、考えることを知っている畜生であり、人の幸せを知っている災禍である。

 故に、我が幸せを願うことはこれ自然の摂理に殉じている。

 自らの幸福と利益のため、罪と名付けられた行為に及ぶ者がいることと、同じ原理の上での話だと理解できるはずだ。

 我は災禍なれど、しかして人の子として生まれたときもあった。

 故に我が人並みの幸せを求めること、幸福への欲求を抱きしはこれ必然のことなれど、世界は、巷間は我の幸福を許すことなく、未だ多くの者が我の下へと赴き、剣を振るって来る。

 我はもう飽きたのだ。

 もういくら殺したところで、この現状が打破できぬことは明白である。

 不毛とわかれば、好奇心など湧くまい。

 なれば、我はこの生に変化を求める。幸せへと至る、変化を。

 そう、例えば、例えばだが――我の下へ来たるが、我を討ち取らんとする冒険者の一行ではなく、我を理解しようとする聖者でもなく、ただ我と共にいたい。我と添い遂げたいなどと、嘘にも聞こえる言葉を真正面から吐くような、そんな変わり者と、出会ってみたいものだなと、思う今日この頃。

 故に我は求む。

 我に人並みの幸せを。

 我に、我に与えたもう。

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