45-6 陽はまた昇る、飽くなき信念と共に

「そうか……玲也達が今出発したのですね」

『言っておくが、ゼルガ君の思い通りに必ずしもあいつは歩むとは思わない事だね』

「分かっていますよ……私にとっても、いずれマークにとっても良き好敵手となってくれれば私は構いませんよ」


 ――オール・フォートレスのブリッジにて、ゼルガは秀斗からの通信を受けると共に、自分ごとのように笑みをこぼしていた。必ずしも自分が望む通りにならないとしても、彼がこのゲノムの新天地へと歩みだしたことに意義があるのだと。


「……おそらく今日会う事を逃せば次はいつになるか。最も本来なら既に飛び立っていた筈だが」

「……言っておくが、私がその貴様の望みの為に帰った訳ではない」

「おっと、私としたことが失礼したのだよ」


 本来なら既にゼルガを乗せたオール・フォートレスはゲノムを後にしている時期だった。それもバグロイヤーの支配下に置かれたままの星々へと自分たち夫婦が挑む筈だったものの――飛び入りのように一人が乗り込んできた為でもある。

 その眼鏡の奥に鋭い視線を隠すその男こそ、ゼルガも接点があった人物。それも妻に仕えていたものの、ゼルガへ冷たい態度も取っているかのような男は――。


「ただ、サン君が私たちの元に戻るとは思わなかったのだよ」

「……貴様だけが戦い続けると聞いたからな。次に挑めることが何時か分からなくなる」

「おやおや、私を許してくれたのではないのかな?」

「許すかどうかの問題じゃない。私が貴様に引き離されるばかりではプライドが許さない」


 サン・ウォンダイはアージェスへと舞い戻った。バグロイヤーの一件でゼルガを裏切り者と見なし憤り、敵対する事を選んだ彼であったものの、ゼルガの真意を知ると共に憤りを解く事を選んではいた。

 しかしこのままゼルガをなぁなぁな関係で終わろうとすることをゼルガが許そうとも、サンとしては自分の面子に傷がついたまま。彼がゲノムへ戻ると決心した理由も、今後のゲノムの命運を背負い好敵手だと見なす為であり、


「しかしサン君、君はコイ君も捨てて私の元を選んだのかい?」

「紛らわしい言い方はやめろ。コイにはコイの選んだ道があったから私は距離を置いただけだ」

「ならしっかり別れたのかい?」

「……決意が鈍るよりは、一発を貰うほうがまだマシだ」


 ただ実家のポプラバンブーを継ぐであろうコイの将来を案じ、自分のゼルガへのライバル心によって突き動かされる――ある意味個人的な戦いに巻き込ませないために人知れず離れた経緯でもあった。それ故に一通の手紙を残しただけだが、おそらくそれでコイが納得しないであろうとは彼も分かってはいた。


「なるほど、その口ぶりだと、また戻るつもりだね?」

「だから私はこの戦いを早く終わらせる。貴様も早く終わらせたいだろう」


 戻った時にコイから一発位怒りの一撃を受けてやろうとの姿勢から、サンもいずれはコイの元へ舞い戻ろうとしているに違いない。ゼルガは自分へ相変わらずつんけんとした姿勢の彼の本心が垣間見える事にどこか胸の内が暖かくなりつつ所で、


「ただ、一人増えた所で戦いが楽になるとは限らないのだよ」

「……貴様とユカ様だけでも言えた事か」

「とはいえ、独りでもいるだけで実のところ助かるのだよ。それと別に何れ増やしていきたいのだよ」


 メガージに代わり、オール・フォートレスの艦長としてサンが君臨する事を、リキャストで依然と前線へ出てくる事になるであろうゼルガとすれば少なからず助かる事である。それと別に七大将軍の残党から他惑星を解放していく中で、志を共にする面々を迎えていこうとも捉えており、


「玲也がこれからどれだけ好敵手を増やしていくか……私も負けないようにしたいのだよ、サン君」

「あいつはともかく、そこで何故私を見る」

「何を言うのだよ……今日からサン君も好敵手だよ。私とこう対等に接してくれるからやはり嬉しいのだよ」

「……言っておくが、私は王だろうと貴様にへつらうつもりはない」


 玲也にあやかるよう、ゼルガ自身数々の好敵手を募ろうと新天地に活路を見出している。これも自分が王座を降りた事で、生まれ持ってした王位の肩書から解き放たれたのだと何処か馴れ馴れしく新たな好敵手になるサンへ接するも、彼は自分が突き放すような態度も取る事は今に始まった訳ではないとやはり手厳しく、


「それで貴様が何もかも捨てて楽になったとは言わせんがな……」

「安心してほしいのだよ。ユカの事は共に果てる迄愛していく」

「当然だ……私だってユカ様はな」


 王座を捨てた事で好敵手を見出していく楽しみへとゼルガは心を躍らせているものの――王座から離れてもユカとの夫婦としての付き合いが変わる訳ではない。サンは念には念を入れて自分の姫君を悲しませるようなことがあれば容赦しないと釘を刺す。ゼルガとして当然の事であると答えると共に、サンは主従関係と異なる本心を微かに見せていたようで、


「サンさん、ゼルガ様の新たな好敵手となられました事本当に感謝します……」

「ユカ様、また貴方の元へお仕えする事になりまぁ……!?」

「ど、どうされまして、サン様……!?」


 ユカがブリッジへと現れるや否や、サンは詫びながら帰参する事を伝える。彼女に対し敵対していた過去があり、ゼルガや電装マシン戦隊の面々と異なりユカに対しては正式な主君としての敬意を払うが――思わず素っ頓狂な声をそこであげた。それも彼女が両手に赤子を抱いているためであり、


「き、貴様! 確かにユカ様と夫婦であることは認めていたがなぁ!! まだ14のユカ様に手を出すとはなぁ……!私の眼が黒いうちで、目の前でやっていいとはなぁ……!!」

「何の事だよ? サン君の前で私とユカが一体何を……」


 マークがゼルガとユカの間に生まれた子供であるとサンは誤解した。それだけならまだしも、ゼルガとユカが既に最後の一戦を超えているのではないかと捉えると、普段の冷徹な姿勢が跡形もなく崩れ、激情的になるとしてもまるでサン個人としての古傷を刺激されたように、大人げない怒りを炸裂させてゼルガへと物凄い剣幕で迫りっており、


「やめなさいサンさん、この子がマークです! ゼルガ様の甥っ子で、私の赤ちゃんじゃありません!!」

「マーク……ユカ様がおっしゃられてたゼルガの後継者で……」


 ユカから誤解しているのだと告げられれば流石に我に返るものの、目の前で物凄い形相で怒号を飛ばした為か、既にマークが泣き出しており、


「何、関係な事言っているんですか! マークが泣いちゃったじゃないですか!!」

「も、申し訳ありません! あ、赤子をあやすには……」

「はは、サン君。多分これも日常茶飯事かもしれないのだよ」


 ユカがまるで彼の母親のように、泣かせたサンに対してとんでもない形相で叱りつけた。彼女から雷を落とされると共にサンは金縛りに遭ったように彼女へ謝り、直ぐにマークをあやそうとするがあまりにも赤子の面倒を見るには不慣れな様子である。悪戦苦闘する彼を応援するようにゼルガがにこやかな様子で声をかけた上で席を立ち



「玲也……今から君に会ってからが戦いの始まりかもしれないのだよ。生涯最高の好敵手の未来に幸あれと、私からもエールを送らせてほしいのだよ」



 ブリッジを一人発とうとするゼルガの胸の内で、このゲノムの地で新天地を見出そうとするゼルガの生き方へ静かに称賛する。そして彼だけでなくゼルガもまたゲノムの地を後にする事は、新天地へ挑もうとしているのだと捉え、新たな希望を燃やしつつあったのだと……


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「ニアに、エクスにリン……何故だ、どうして、そこに……」


 ――そして自分以外に貸し切りの列車に、ニア達3人が目の前で立っていた。彼が涙をぬぐうと共に幻影ではないかと疑う者の、改めて目にしても3人はちゃんと2本足で突っ立っており、彼女たちなりに自分の旅へと同伴する身支度も整えられている。


「あのですね、マリアさんが私たちを送ってくれましてた」

「ニアさんのお母様に助けられるとも思ってませんでしたけどね……」


 リンとエクスがこのトリックの種明かしをする。ホームにも姿を現さなかった彼女たちであったが、人知れずマリア達がポリスターを駆使して、始発列車の中へと転送させた経緯であった。ホームへ現れなかった事も表向き、玲也の一人旅であるカモフラージュを維持する為であり、


「それでお前達がホームにいなかったと……」

「まぁ、ママにしては気が利いた事したんだけどね」

「ただ、本当マリアさんが私たちの為にここまでしてくれるとは意外です……」

「ポリスファイヤーで、あたし達を見てたみたいだからね」


 マリアが自分のポリスファイヤーを手にしていた話――昨晩ニア達との勝負へ正々堂々挑もうとして、ポリスファイヤーを投げ捨てていた事から玲也は納得がいった。彼女が自分たちの喧嘩を集音マイクで音声も拾っていたようで、


「言ったでしょ……あんたが旅立っても、あたしはどこまでも追いかけて追い付いてやるって?」

「それが今ここで果たされたと……」

「そうですよ! これは本当嬉しい事です!!玲也さんとやっぱり一緒にいたかったですから……」

「あぁほら、リン泣かない泣かない。始まって早々あんたも泣いてどうするの」


 真剣勝負で玲也が勝った為に、ニアとして彼の旅立ちを認めようとも追い付いてやろうとする信念まではへし折れなかった。その言葉を拾ったマリアが彼女たち3人を玲也の元へ送るべきと早々判断したとの事であった。

 リンはそうして玲也達との日々が始まる事に喜びを露わにして、思わずその場で崩れ落ちるように涙を零す。うれし泣きとはいえ彼女へニアがフォローしつつも、


「まぁ、さっきまであんたも本当泣いてたけど、もしかして嬉し泣きとか?」

「だ、誰があの時嬉し泣きが出来ると……」

「もぅ、あたしもこうしてあんたと一緒なの嬉しいんだからさ……!」


 先ほどまで別離に耐えかねて思わず涙ぐんでしまう玲也をニアはやはり揶揄う。彼女の挑発をへ否定しようとした玲也の元へ顔を素早く寄せた後に、目の前の彼の口を塞ぐ。少しして微かに糸を引きながら顔を離すが、


「へへ、これからも本当宜しくね」

「よ、よろしくだが……一体どういう風の吹き回しだ!」

「そりゃ、あんたがもう少し素直になれと言ってたじゃん。それに応えただけだからね」


 ニアが自分の唇を奪った事へと、玲也も流石に驚きの色を隠せないものの、玲也からの告白を受けた上でのアプローチであるとの事。何時もながら軽い口調で彼女が触れながら、ペロリと舌をしているが、3人の中で異様に嬉々としていたようであり、


「あ、あぁ……それにしては本当思い切りがいいな」

「何を玲也様もデレデレされてまして……ニアさんも少し節度を弁えなさい!」


 玲也として、ニアなりのアプローチの意味を把握していたものの、エクスが二人もろとも怒鳴りつける。玲也を奪いにかかろうとするニアへ向けてならまだしも、熱烈な愛を寄せる玲也本人へも容赦なく叱りつけている。


「す、すまないが……まさか」

「あんたはもう玲也と経験あるから別に良いでしょうが!!」

「あれはその……不可抗力ですわ! 心に覚悟を決めてするとは違いまして!!」

「ニアちゃん、エクスちゃん! まだ経験もしてない私のこと考えてくださいよ!!」


 このエクスの剣幕に少し圧倒される玲也であったものの、おそらく自分がもっと厳しくても構わないと叫んでいた事を彼女も耳に入れていたのだろうと捉えれば納得がいく。さらに言えばリンもニアとエクスの喧嘩を止めるのではなく、差をつけられている自分の事を考えてほしいと選んでいるから3人とも自分の叫びを聞いていたのはほぼ確実といえた。


「……何だよ、本当に何なんだよ」

「何なんだよってこっちが聞きたく……あれ」

「玲也さん、急にどうされまして!」

「ま、まさか私も厳しすぎたとも」


 座席に座ったまま玲也が顔を俯かせている――ボソっと小声で漏らした彼の声へ3人が揃って反応した途端、


「本当お前達は何なんだよ、俺も一人、最後位カッコよく旅立とうとしても、こう押しかけてきたらもう……どうしろって話だよ!!」

「泣いてるんじゃなく、笑ってますね」

「玲也様がこう……本当笑われてるの初めてみましたわ」


 まるで別れを惜しんで泣き崩れた様子から一変した反動のように、彼は腹を抱えながらこのオチが着いた事へ笑い始めていたのである。既に揃ってきてしまえば後戻りも効かない事も含め半ばやけくそめいた感情もあったようだが、エクスとリンは揃って彼が心より笑う瞬間を初めて目にしたと、ポカンとした様子で眺め、ニアは腕を組みながら静かにうなずいた上で、


「ほらまぁ、あんたも言ったでしょ? 俺もお前達を受け止め応えられる立派な男になるってさ」

「全くその通りだが……俺が来るなと言えども、お前達がついてきたからはそれだけの覚悟はあるだろうな!」


 肩をポンポンと叩き、少し上から目線でニアは自分がこれから突き進んでいく目標が何であるか、先ほどの自分の言葉をそっくり引用して返す。勝手に押しかけて来たことで調子が狂った身として少し都合が良い気もするが、それよりも自分の元へ彼女たち3人がついてきた事への覚悟を尋ねれば、



「そりゃあたしはあんたに追い付き追い越し、何度でもぶつかってやるんだからね!」

「玲也様を誰よりも愛されているのは私ですから、たとえ火の中水の中でしても」

「玲也さんをお守りしたいですし、生涯の相手としても覚悟はできてます!」

「わかった、もう俺は何も言わん! ついてこれる所までついてこい!!」



 ニア達の様子からして、多少先程の自分の言葉を受け入れているようだが、三人の性格や個性がバラバラだろうとも、今までのパートナーとしての関係がこれからも続く。そして間違いなくこれからも支えられていく事もあると知りながら、今は自分も立派な男にならんと心の中で固く誓い、彼女たちを今まで通り強く信頼を寄せる事を選んだ。


(父さん、ここからまた出会いも戦いもあるし、先に何があるか本当分からないけどね。俺が本当の答えを見つける事は絶対出来るって確信があるから、みんな待っていてくれ……!)



“――かくして、若き獅子は新たなる野へと放たれていった。父を超えた先に広がる電次元の世界で何が待ち受けているのであろうか。新たなる好敵手と巡り合う事に期待を寄せつつ、今までの好敵手とまた腕を競う日が来ることを待ち望みつつ。そして今もこの先も強固な絆で結ばれ勝利の女神が3人も傍にいるなら志半ばで倒れる事はない。己の飽くなき信念はこれからも折れないのだと羽鳥玲也は強く確信するのであった”



電装機攻ハードウェーザー 完

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