第45話(最終回)「若き獅子よ、栄光の彼方にはばたけ!」

45-1 駆け抜ける若き獅子、羽鳥玲也闘いの記録

“この物語は若き獅子・羽鳥玲也が父へ追いつき追い越すとの誓いを果たさんと、抗いつつも一途に突き進む闘いの記録である。“


……思えば、あの時から、5年前も俺はそう生きてきた。父さんのような一流のゲーマーになりたいのだと、まだ幼いあの頃の俺は漠然とした憧れとしてしか抱いていなかった。父さんがいつも傍にい続けたなら、その憧れも大人になるにつれて、夢みたいな話だとも執着せず忘れていったのかもしれない。


 『嫌だ! お父さんは死んでないのに何で! 何で帰ってこないの、お母さん!!』


 ……父さんが行方不明になったあの日、俺は父さんが死んだと思いたくもなかった。電次元へ旅立つ事も駄々をこねて父さんと母さんを困らせていた程、俺は父さんが憧れる身近な相手だった。だからこそ必ず帰ってくると信じていた矢先に、行方不明だとニュースや新聞、ネットで取り上げられていた事が信じられなかった。


『玲也、お前とは父と子だが、男同士でもある、戦うからには傷もつく。だがそれが親子として、父さんが望むことだ……』


 目の前が真っ暗になったあの時、父さんが俺に残してくれた言葉に救われたのかもしれない。言葉の意味がよく分からなくとも、父さんは俺と勝負する事を望んでいたような気がした。あの時から俺は一流のゲーマーになるのだと、取りつかれたようにゲームの腕を磨いた。必要な事として体を鍛える事もして、ルービックキューブや将棋も嗜んでいた。あらゆるゲームへと手を付けてはクリアするだけでなく、父さんを超えることが出来る腕を身につけるのだと……。


「わーったよ。いや、あのね、俺も本当か嘘か分からないけどよ、ハードウェーザーが次々と実際に現れるのがこのゲームと関係あるとからしいって噂もあるんだって」

「実際に……まさか」


 そして「ディメンジョン・ウォー」とのゲームを才人に勧められて、俺はハードウェーザーを知った。既にバグロイヤーから太陽系を守っている正義のヒーローのように世間で知られていたが、俺はあくまでやりがいのあるゲームだとしかその時は認識していなかった。その日も家に帰りゲームの続きを家で挑もうとしていた所、


「たぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「……はぁ!?」


 いきなり家のドアが金髪のブロンドにこじ開けられて、黒髪のあいつがいきなり俺の鳩尾にとんでもない一撃をお見舞いしてくるとは思いもしなかった。俺の意識が回復した時にはいつの間にか大気圏周辺で浮遊するドラグーン・フォートレスという船にいた訳で、


「あら。私こそあなたのような品のない殿方を好きでお連れしたのではございませんことよ」

「エクスちゃん、そこは謝ろうよ……」

「まぁ、こうしたほうがあんたに一から順に話すより手っ取り早いじゃない」

「この俺は、今何がどうしてこうなるのか腸が煮えかえる気分だ」



 家のドアを勝手にぶち壊したエクスが、今思えばあの頃は本当に愛想がなかった。ツンツンからデレデレに変わった時のギャップが恐ろしいほどで、今の俺から言わせてもらうと少しあの頃のとげとげしさが懐かしい気もする。


『……出来ればお前なりに全力で挑んでほしい。俺も全力でフォローしたいからな』

『玲也さん……分かりました、出来るかわからないですが頑張ってみます』


それと別にリンはあの頃からおっとりしていた。ただ同時に二人の陰に隠れてしまい自己主張に乏しい所もあった。さらに言えば最初の頃は戦う事も恐れていた……俺も確かに初めて戦った時にどうすればいいのか落ち着く事が出来ていなかったから人の事は言えないが。ただリンは本当に優しいだけでない強さを手に入れてくれた。本当よく頑張っていた。


『ニアが大人しく、しおらしくなってしまえば俺も調子が狂います。俺としてニアは今のニアで良いのだと信じてます』

『……あたしだって気弱でウジウジとしたあんたを見たくないんだからね! これからもさぁ!!』

「俺もこれからもお前がお前であってほしいと思う。一緒に喜びたいし、泣いてもいい……出来る事なら避けたいがぶつかって喧嘩をしてもいい』

『あんたねぇ……本当にどうしてこうもさぁ!』


 そしてニアだ……何というかこいつは本当にじゃじゃ馬でもあり天邪鬼でもあり、手が付けられなくなる暴れん坊かもしれない。エクスやリンと比べ物にならない位俺とぶつかる事がしょっちゅう。あの頃を思い返すと少し腹が立つ時もあるが……ニアがいなければ、俺がここまで来ることは出来なかったかもしれない。同時に俺は誰かに優しく支えられるだけでなく、時に厳しくぶつかってこられてこそ、自分を見失う事がなかったと考えたら感謝しなければ。


『このゲームのデータがハードウェーザーを生み出す仕組みです。電次元側からのエネルギーでこちらの次元に具現化させる。現実では技術、時間、予算が許さないであろう空想上のロボットが実際にこの世界を守る切り札になるのです……』

『父さん……俺だよ、玲也だよ!!』

『電装に必要なハードウェーザーのデータを記録したアンドロイド“ハドロイド”は電次元の有志達の分身、そしてハードウェーザーを動かすのは、その機体の能力を最大限発揮できる地球のプレイヤー……』


 俺が3人と知り合っただけでなく、生死を共にするようなパートナーとしての関係までに至った事も、彼女たちが宿すハードウェーザー、ブレスト、クロスト、ネクスト3機のプレイヤーに選ばれたからだ。オンラインゲームのデータが実際に本当のハードウェーザーとつながりを持っていた事も信じがたかったが……それよりハードウェーザーの設計に携わった父さんの声をあの時に聴いた途端、


『このバグロイヤーの侵攻に立ち向かうため、地球の有志と電次元のハドロイド達による、ハードウェーザー特殊部隊を電装マシン戦隊という。この組織は……』

『俺にも入る事が出来ますか!?』


 俺は思わずハードウェーザーのプレイヤーとしてバグロイヤーと戦う事を志願していた。初めて動かした時に十分な腕があると見なされようとも、バグロイヤーの相手と命のやりあいをする事に慣れてもおらず恐怖と隣り合わせ。それでも俺は父さんとの約束を果たせる術がハードウェーザーしかないと決めたからであり、


『俺を超えようとして、お前はここまで来た。素晴らしい好敵手に巡り合えた事もあるが……お前の力があってこそだ』


 そして父さんの元へたどり着くまで、本当に長く険しい道だったかもしれない。その想いだけでここまで戦い抜けた筈がない。アンドリューさんにシャル、才人、そしてゼルガ……しのぎを削りあって認め合う事の出来た好敵手がそこにいて、ニア、エクス、リンが俺のパートナーとしている限り、何度も立ち上がるだけの力を与えられていたのだと……。


『俺はここでまだ終われない、俺がそうだと分かっている筈だから……!!』


 俺が父さんを超えることが出来た事も、5年間もの歳月が、プレイヤーとして戦い続けてきた為だろうか。だから父さんに勝った後俺は嬉しくもあった筈だが……全ての目標をやり遂げてしまった虚しさも感じてしまった。だがそう俺がもがき苦しむような思いを味わったことも、俺自身が抗いつつも一途に突き進む生き方を信じ、望んでいたからだと今なら思い返せる。

 

“この物語は若き獅子・羽鳥玲也が父へ追いつき追い越すとの誓いを果たした後、抗いつつも一途に突き進むまでの闘いの記録である。“


 ……だから、最後に俺が悔いのない道、もう一度抗いつつも一途に突き進むまでの道を選ぶまでのあの日の事をここで触れる事にしたい。



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