43-5 ゼルガ・サータ、新たなる生への謳歌
『これ以上の戦闘行為は無意味だ! 速やかに投降しろ!!』
『もう少し慎んだほうがいいみゃー。刺激しすぎは危険だホイ』
『ダー……』
抵抗を続けようとするバグロイヤーの残党へ向けて、ディエスト越しにマーベルは威圧的な呼びかけを交わす。メルとしては、無意味に敵愾心を刺激する真似は控えるようにと窘めており、万が一バグロイヤーの残党勢力が自棄を起こし蜂起したのならば、ジャイロ・シーカーとダブルゴーストを喪失したダブルストでも相手にしきれない為だとの事であり、
「やれやれ、マーベルの性格も相変わらず、確か才人に助けられたは……」
「よせ、今その話はなぁ!」
ドラグーンのアラート・ルームにてカプリアは彼女の相変わらずな性格に対して苦笑を浮かべる。彼女たちがスフィンストの活躍に救われたとして、才人達の健闘を称えようとするものの、珍しくアンドリューに制止させられた。実際戻ったばかりの二人は意気消沈しており、
「まさかコンパチまで……もう一人前だって認めてほしかったのにさ」
「僕がコンパチさんを引き留めていれば、スフィンストから離していれば……」
「イッチーが落ち込む気持ちはよくわかるよ。でも玲也君のために……」
「分かってます、分かってますけど信じられなくて……」
これもエスニックからコンパチの犠牲を知らされた為でもあった。特にイチに至っては自分の責任だとまで悔やんでおり、シャルとして彼らの腕が上がってきたため、玲也のマルチブル・コントロールを助けるために生じた犠牲であると、必死にフォローをしており、
「……カワイソウ」
「こればかりは済まない。私としたことが浮かれすぎていた」
「いや……けど、いつまでもメソメソってのもできねぇからよ」
「その点お前が一番辛いはずだが……強いな」
「それはそれで、人からは鈍感って言われるけどな」
コンパチの犠牲を突き付けられ、カプリアは自分の失言を詫びた。だがその上で自分たちが悔やみ続ける事は許されないだと、アンドリューは二人の元に歩み寄り、
「おめぇら、いつまでメソメソしてんだよ。シャルおめぇも湿っぽいぞ!」
「ちょっとアンドリュー! 湿っぽいとかって話じゃないと思うけど!」
「そうですよ! コンパチはただのロボットじゃないんですからね!!」
「バーロー! それくれぇ分かってらぁ!!」
アンドリューは、少しへらへらとした様子でコンパチの死に囚われるなと檄を飛ばす。無論ロボットとはいえ才人とイチからすればパートナーであると、真っ先に抗議するものの、
「リタもコンパチもなぁ、自分から選んだってのはあらぁ。誰かやらないと死ぬって所でよ」
「そうだね……玲也君とコンパチのどっちになったら、その……」
「そういう話じゃねぇんだ。あいつらは俺たちを生かせるため、それを一番望んでた筈だからよ」
ただ、アンドリューとしては、リタと同じコンパチが自分から犠牲となることで、皆を生かす選択肢を取ったのだと諭す。先に旅立っていった彼らに対して、自分たちが悔いなく生きていく事が求められるのではと問う。シャルも才人もイチも揃って俯いて黙ってしまい、
「アンドリュー君、私がすべき話だが」
「すみません将軍。俺も同じこと味わいましたからうってつけかと」
「ブレーン君が席を外すからね。まずは手短に……よくここまで戦ったね」
エスニックがアラート・ルームへ訪れた。その場にいるシャル、才人、カプリア達へと簡素ながら、これまでの労をねぎらい、一息置いてアンドリューが触れていた今後の展望へと踏み込み、
「非戦闘員の解放、保護と並行して、今君たちの他の体を探している……パルル君の体は直ぐ見つかったよ」
「カラダ……パパ、ママ、オネエチャン、ブジ!?」
「あぁ、コールドスリープから起こせば無事だよ」
「私も嬉しいぞ、無論他の体も……」
終戦に伴い、電装マシン戦隊と解放軍が共同で戦時の混乱の収束もとい、避難なりコールドスリープなりで生き延びた人々の解放など戦後処理にあたっていた。その中でわが身をささげたハドロイドの面々へは、最優先で元の体の捜索も進めていた。早速パルルが家族ともども無事だと知らされれば、年相応の喜びを見せつける、カプリアとしても自分ごとのように喜びたい所、他の面々の事もあり心から喜ぶ事は控えていたが、
「そういえばウィンさんはどうなん、確か元の体が……」
「才人さん、それをここで……ですが、あれから全然姿を」
「ウィン君は大丈夫だよ。本人も決心したようだからね」
「ははぁ将軍、それで博士も忙しくなるわけですか」
元の体を探すにあたって、才人がウィンの件で気がかりな様子で疑問を呈する。最も少々デリカシーに欠ける内容だとイチが宥めようとしていたものの、当の本人も気にはなっている。そんな二人を他所にエスニックはにこやかな笑みを作り、アンドリューも全て察したように楽に構えていた。
「将軍、アンドリューさん?さっきからどうも怪しいんですけど……」
「それより、玲也はどうです。ジョイさんの言う限りは、大丈夫だって」
「それなら心配いらないよ、直に目を覚ますよ」
彼ら二人の様子に、才人がどうも訝しんでいたが――アンドリューはまるで示し合わせたように、エスニックへ玲也の容態を尋ねる。ジョイから知らされていただけに、先ほどよりだいぶ落ち着いた様子でもあり、
「じゃあ! 玲也君は無事ってことだけど」
「その……玲也さんのお父さんはちゃんと」
「来るって、ニアちゃん達も玲也ちゃんもそう信じているんだしさ!!」
「何、秀斗君のことだ。ちゃんと間に合わせるよ」
あとは、秀斗が玲也の前に姿を現すか否かにかかっている――ニアたち3人が彼の容態も含めて密かに待機したまま。シャルや才人達が親子の再会が叶うかどうかの瀬戸際に胸を躍らせていたが、エスニックだけは確固たる自信を抱いていた。
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「君とメガージ……あとバッツなら十分私の後釜は務まるのだよ」
『ゼルガ様がどうしても王位から降りたいとの思いも分かります。ですが……』
「ゼルガ様が公の場に現れない事ですね……」
ナドラノ海近辺にて、ゼルガはゲインを相手へ通信を交わしていた。解放軍がバグロイヤーへ勝利を収めたのだと、万民へ告げる時でありながらゼルガはメガージに代わりを任せており、彼としてはゼルガが本来の役目を果たそうとしない事へ疑問を隠せない。
『――仮に私が公の場に出たならば、バグロイヤーの二の舞になるのだよ』
ゼルガとして、今通信を交わしているゲインに加え、メガージや、地球へとどまっているバッツらに後を託すとの姿勢である。ゼルガが王としてのカリスマを生まれてから今まで備え続けており、ゲノム解放軍の象徴として君臨していたものの――自分一人がゲノムを束ねていく未来に脆弱性があるのだと捉えていたのだ。
『ですが、ゼルガ様の力がまだ要るはずです! ゼルガ様のようなカリスマを私たちは……』
「一人のリーダーだけでなく、各々の自立が、若い勢いが、新しい力が必要なのだよ……」
「私たちも今、ここで身を引くつもりではありません。陰ながら見守る形でここは……あっ」
ゲインからはゼルガが従来通り王位へついて、ゲノムを纏めなければならないと要請される。それでもなお彼は固辞しており、ユカも彼の心境をここは組んでほしいとダメ押しで頼もうとするが、
「悪いが、後でゼルガ君に話させる。私に任せてくれ」
「ひ、秀斗さん、いくら何でもここは貴方が口を出せることでは……」
彼らの話へ外野として延々と聞いていた秀斗だが、しびれを切らせたようにユカからポリスターを取り上げ、ゲインを少しの間黙らせた。思わぬ第三者の介入に呆然としているゲインを相手にするよりも、通信を今は切る事を選べば、
「申し訳ございません、秀斗様を煩わせてしまいまして」
『確かに俺が口を出すのもどうかしているが……確か地球側には既に君は戦死しているとの形で』
「あの時は将軍の機転に救われただけです……」
「私達はスケープゴート、人身御供でもあります」
秀斗として自分が果たすべき使命を前にして、ゼルガからの頼みを引き受けているようなものである。手短に話を済ませたいとの事だが、ゼルガが王位を継承する事を望まない理由を推察していた。
実際ゼルガはバグロイヤーの前線指揮官を務めていた事で、敗者としての責任を取るとの形で玲也との決闘で敗れた過去がある。その時はエスニックがシミュレーターバトルを本物のように見せかけることで、世間を納得させた形だが、
「地球でゼルガ君達が姿を見せれない事情は分かったが……その様子だと、このゲノムでも同じだと」
「私は被害を最小限にしようとして、バグロイヤーに屈した男です。それに争いを避けようとしてかえって被害を……」
「その責任を取るために、王位には就けないと……」
「ゼルガ様も辛い覚悟をされてます。私もゼルガ様についていくだけです……」
バグロイヤーとの戦乱の中で、ゼルガはリキャストを駆って少しでも早く戦争を終結させる事にあった。その為にゲノム解放軍の象徴として自ら前線に立ち戦いの幕を下ろしたが――乱世の英雄となるのはまだしも、治世の名君として君臨するにはあまりにも多くの人々を殺め、手を汚してきたとして、己自身を許せそうになかった。
「バグロイヤーとの戦いを終わらせることが出来ましたのも、貴方のお陰です……それに」
「……玲也の事か」
「どうやらゼルガ様も秀斗様へは何もかも見透かされてますね」
「全くだよ……」
ただ乱世の英雄としてバグロイヤーとの戦いを制したのも、ハードウェーザーの設計に携わり、単身で戦い続けた秀斗の力があっての事とゼルガは称賛する。最も彼が賞賛するもう一つの理由としては秀斗の一人息子、羽鳥玲也の存在も大きく関わっていた事も父親からすれば察しがついていた。
「私個人として、玲也のような好敵手に巡り合えた事を感謝します……彼がいたからこそ、私も巻けていられないのだと」
「その件は俺からも礼を言わせてもらう。あいつがここまでたどり着いたのも競い合える好敵手がいたからだ」
「シャルちゃんも、アンドリュー様もそうです……ゼルガ様もさぞ幸せだったと」
「否定はしないが……今はもうやめてほしいのだよ」
乱世の中で自分の使命を果たす事だけでなく、一人の人間として生を謳歌することが出来たのも、好敵手に巡り合えたためだとゼルガは捉えていた。ただ、玲也以外の好敵手にも自分は刺激されていたのだとユカからの言葉にも否定はしなかったが、彼の表情は沈痛めいたものにも変わりつつあり、
「何故だ。胸を張るべきことではないのか」
「私とユカがこの戦争の責任を取ります……その為に未練を持つことだけは」
「……玲也達に感謝すると言っておきながら、自分で裏切るつもりか」
ゼルガとして王位を継ぐことを望まない、真の理由としてこの戦争に対しての罪を償う必要があるのだと明かす――が、秀斗は彼らの悲痛な覚悟に胸を撃たれる事もない。それどころか少しドスを効かせて、自己満足めいた悲劇的な最期へ現実逃避しているのだと痛烈な言葉を浴びせる。
「秀斗さん……貴方だろうと流石に、こればかりは」
「玲也はもう俺を超える事で燃え尽きる事はない。あいつがまだ気づけてないかもしれないが……」
「玲也がそこで終わらないと私も思います。ですが……」
自分を超えようとして、ここまでたどり着いた息子に対して秀斗は既に自分も一つの通過点になりつつあると捉える。これも長らく一途に鍛えぬき、戦い抜いたが玲也を一回りも二回りも人となりを大きくしたのだと気付いていた為だ。
「ですがも何も、君が玲也を好敵手と認めた筈なら何故だ? 何故そこで終わろうとする」
「それは……」
その玲也と好敵手になるゼルガがここで終わる事は、己を卑下する事に繋がる――その瞬間に、初めてゼルガは押し黙ってしまった。二人が交わした悲壮な決意も、確固たる覚悟を持って定めたものではないと露呈しており、
「君が王座に戻らない事は私も止めはしない。だがどのような形だろうとも、必死に生きろ……それが君がすべきことだ」
「あ、あぁ……」
「秀斗様……ゼルガ様がその意思でしたら、私はどうなろうとも共にします! ですから!!」
「……君がそう言えば、俺も少し恋しくなる。いや」
初めてゼルガは論破されたのか――体中が震え上がる中で秀斗の少しごつい手の温もりを右肩から感じ取る。この衝撃へ落雷に打たれた様子の彼に対し、ユカは妻として彼の選択に従う意思を改めて表明すれば、ふと彼は長らく離れたまままの妻の姿が脳裏に浮かぶと共に、
「……君に生きてほしいのは、この子の為もある」
「この子は……いえ、ゼルガ様!?」
秀斗は念には念を入れて、ポリスターへ記録していたとある映像を二人へと見せる。その映像にはまだ生後間もない乳児が避難民用のコールドスリープ装置へと入れられていく様子であり、彼の親らしき二人の人物へは明らかに見覚えがあり、
「兄上……まさか既に……」
「ゼルガ君に知らせるのはこの時まで私が隠していた……許してくれ」
「許すも何も……兄上、私はまだ兄上の元へはいけないと……!」
ゼルガでさえ知らされなかったマックスの真実――秀斗によって秘匿が解かれたと共に、彼は涙ながらに先ほどの覚悟を翻すきっかけを見出していた様子でもあった。この様子に秀斗が静かに満足げな笑みを見せている中で、
「少し悪いがユカ君。後で改めて伝えるから今は……」
「あ、ありがとうございます……ゼルガ様の事は私の方からも」
――ゼルガから甘えられるようにして抱きよせられ、ユカは妻としてその小さな手で暖かく彼を抱擁して返す。彼女に少し水を射すのではと秀斗は少し申し訳なさげに頼むと、彼女はポリスターを秀斗の元へと向けて、
「……本当、君のような妻を娶っているとはゼルガ君も果報者だ」
「あの、今何か……」
「いや、些細な事だから気にする事でもない」
二人の強固な絆を密かに秀斗がささやかに評していた。あえて当の本人へは明確に伝える事はせず、ユカの手でポリスターの光を浴びて転移される事を選ぶ――ここからこそ、秀斗が本来すべきことを果たすのだと。
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